
漫才やコントやグルメレポートやクイズ番組の出演やワイドショーのコメンテーターなど、そういった仕事をする人(職業名)のことを『芸人』と呼ぶのではなく、順番が逆で、『芸人』が「漫才」や「コント」といった仕事を選んだだけで…
僕は、たとえば、あと数年で退職で、退職金も出るのに、我慢できずに
「沖縄に移住して喫茶店を始める」
と言っちゃう、皆が右に行くところを左に行っちゃうような、「そんなことしていいの?」「そんな生き方、アリなの?」と、生き方そのものが質問になってしまうような人が、その瞬間とっている姿勢の名前を『芸人』と呼ぶようにしています。
ですから、数十年前に、落語家なのに、トレンディードラマに出た明石家さんまサンは芸人だし、漫才師なのに映画の監督をしたビートたけしサンも、やはり芸人だと。
「これと、これと、この仕事をする人」といった感じで仕事内容を制限し、職業名を『芸人』としてしまうと、実は、僕が考えている『芸人』の定義から、一番遠のいてしまうと常々、思っています。
ですから、デビューから今まで一貫して、僕は芸人だし、これからも芸人……のハズでしたが、その理屈が通用しない事件が起こってしまいました。
コトの発端は、昨夜放送されたテレビ朝日の番組『EXD44』。
企画内容は、いたってシンプルで、
普段、SNSで西野に意見を言う人と、実際に会って話し合ってみよう
というもの。
もちろん恐ろしさもありましたが、この辺りは『ゴッドタン』に育てられたドMの身体が反応してしまい、オファーを受けることに。
僕に意見がある人をTwitterで募集し、喫茶店で待つこと数十分、現れたのは黒マスクの女。
もう、バチクソに怖いですが、わざわざ意見を言う為に時間を割いて、わざわざ足を運んでくださったのです。
悪い人なハズがありません。
膝を合わせて話し合うと、僕らはきっと分かり合えるハズ。
意見を聞くことにしました。
開口一番、彼女は言います。
はいはい、分かります。
「芸人なのに、絵本を描きやがって」パターンですよね?
ほらきた。
問題ありません。想定内です。
先制パンチに、ひるむことなく、先に挙げたような『芸人の定義』を理路整然と説明する私。
「してやった」と思いました。この時までは。
しかし、次の瞬間、旗色が変わります。
喫茶店のドアがカランコロンと鳴り、新キャラ登場。
おい、待て。
二人来る準備なんて、していないぞ。
新キャラは言います。
前の奴と、同じ言い分。
2対1。
こうなってくると話が変わる。
「やっぱ、そうですよね」と息をふきかえす一人目。
必死で余裕の表情を作ってみますが…
完全に、ひきつっています。
仲間を手に入れたヤツラは、完全に風をつかみ、一気に襲いかかります。
再び、「芸人とは姿勢だ」と言ってみますが、まるで歯が立ちません。
「さんまサンがドラマに出たじゃん」
「たけしサンが映画を撮ったじゃん」
「又吉君が小説を書いたじゃん」
芸人活動の一貫で、そんなことしてもいいじゃん。
言ってみますが、目の前にいるメス鬼とオス鬼には、まるで響かないのです。
2対1という数の論理で論破され、そして、徐々に目が死んでいく私。
死にゆく私の表情がコチラ。
テレビで出してはいけない顔になっています。
肌も荒れてきました。
死にゆく私に相反して、笑顔すら発動されるメス鬼オス鬼。
テレビカメラの前で殴られ続けている間、疑問が確信に変わります。
さんまサンがドラマに出るのは良くて、
たけしサンが映画監督するのは良くて、
又吉君が小説を書くのは良くて、
石ちゃんがグルメレポートをするのは良くて、
オリラジあっちゃんがコメンテーターをするのは良くて、
たむらけんじサンが焼き肉屋をするのは良くて、
厚切りジェイソン君が日本人の生活習慣を斬る本を出版するのは良くて、
キングコング西野が絵本を出版するのはダメ。
もしかして、俺…
ただ、嫌われてるだけじゃね?
こうなってくると話が変わってきます。
言い分がどれだけ正しかろうが、関係ないのです。
さんまサンは良いんです。
たけしサンも良いんです。
又吉君も、厚切りちゃんも、たむらけんじサンも良いんです。
西野がダメなんです。
西野だから、ダメなのです。
ただ、嫌われているだけなのです。

もう私に勝ち目はありません。
鬼どもは言います。
「なんで芸人なのに絵本を描いてるの?」
どうすればいいのでしょう。
近く、『えんとつ町のプペル』という絵本の出版も控えています。
4年半かけて、一生懸命作っているのです。
今さら、絵本制作を辞めるわけにはいきません。
(絵本の制作過程をアップしているInstagram)
しかし、彼らは、芸人が…というか「芸人」を名乗っている僕が絵本を描くのには納得がいっていません。
スタッフはスタッフで、カメラの向こうで、「おい、西野。この空気、どうすんだよ。バラエティー番組だぞ」という顔をしています。
彼らの言い分を要約すると、こうです。
聞けば、芸人が絵本を描くのはアウトだけれど、絵本作家がテレビに出るのはアリだと、彼らは言います。
なるほど、そういうルールなのね!
僕は絵本制作を辞めるわけにはいきませんし、梶原君との漫才をこれからも続けていきたいです。
そんなこんなで、僕が出した結論がコチラ。
絵本作家になります。
『芸人』とか言い張っていたからダメだったのでしょう。
『絵本作家』と言って、漫才をしたり、テレビに出たりするのはいいのでしょう?
はいはい、わかりました。
そういうことですね。
僕は今、自分がやっている活動をこれからも変わらず続けていきたいですし、なにより、このロケを無事に終わらせたいです。
だったら答えは一つしかありません。
もう『肩書き』なんぞ、どうでもいいです。
皆が納得し、これからも今の活動が続けていけるなら、それが一番!
このロケをもちまして、私、キングコング西野は『お笑い芸人』を引退し、『絵本作家』に転職いたします。
キングコング西野は絵本作家です。
すでに事務所には届けを出して、プロフィールは『絵本作家』に変更させていただきました。
まさか深夜のバラエティー番組の一企画で職業が変わることになろうとは。
「芸人のクセに絵本を描きやがって」論争は、これにて終結。
今日からは、絵本作家が絵本を描いているのです。
この認識を共有していただけると嬉しいです。
そして、この夏(8月12日~19日)、絵本作家・キングコング西野の、お笑いトークライブ『西野亮廣独演会』が開催されます。
8日間、10公演。
去年までは2000人でしたが、今年は4000人を動員し、全公演、違う内容でお届けします。

絵本作家が必死でオモシロイことを喋りますので、是非、観にいらしてください。
チケットはコチラから→『西野亮廣独演会』
お笑い芸人は本日をもって引退します。
デビューから16年、本当にありがとうございました。
今日から心機一転、絵本作家・キングコング西野亮廣を宜しくお願い致します!
お笑い芸人ではなく、絵本作家として一人でも多くの方に認知していただきたいので、この記事をシェアしていただけると嬉しいです。
宜しくお願い致します。

【追伸】
芸人を辞めたことを、そういえば、まだ梶原くんに伝えていません。
明日、言っておきます。