10月になってようやく長袖を出す季節がきた。






秋雨前線が来た頃から
もうそろそろ涼しくなるのかなと
思っていたが

そんな期待を裏切るように
9月半ばも日中は暑い日が続いていた






それに加えて、ゲリラ豪雨なのか
通り雨なのかわからない天候に
傘を持って行くかどうかも
家から出る悩みのタネになっていた









大学入学を機に東京に上京し
とりあえず世の中はお金で成り立っている

という捻くれた理由で経済学部に入り
新卒で不動産屋に就職して2年目





「また今日も雨降るかなぁ。」




大学の時から住んでいるのは
都内にもアクセスのいい笹塚駅

駅周辺はかなり何でも揃っていて
困ることはほとんどない
家から駅までは徒歩10分かかるけど。







今日は火曜日






学生時代も火曜日は嫌いだった
月曜日も嫌いだが火曜日は
やけに1日が長く感じられるから





「今日は雨降りそうだな…」







コンビニで買った安いビニール傘を
持ちながら会社に出社する









1日が長く感じる火曜日こそ
集中しないとミスが起こる事を
1年目で痛感した僕は
火曜日は丁寧に仕事をこなし
そして颯爽と定時で退社するようにしていた







何事も起こらないようにしていた火曜日






いつものように笹塚駅まで
帰って来た頃に事件は起きた


駅前のラーメン屋に寄って
今日やることは帰るだけという時




「うわっ、雨降って来た。最悪」





朝こそ雨の降りそうな
どんよりした曇り空だったのに

日中の青空で
会社に持ってきた傘の存在を
忘れてしまったのだ



ラーメン屋の前で雨宿りをするわけにもいかず
甲州街道沿いを小走りで走っているところで
コーヒーの匂いとともに
見慣れないお店があった




家までは徒歩10分
とりあえず雨宿りがてら寄ってみようと
お店の中に入る事を決めた







店内は和の空間デザインで
木製のベンチが周りを囲み
ベンチの前にはいくつかの
ガラステーブルが置かれていた






お店にはお客は僕だけで
他には2人の男性店員だけだった



とりあえず ”雨宿り" と言う事は
失礼だと思い普通にコーヒーを注文する


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「Dear All=みなさんへ」




「こんな店があったんだなぁ」



聞けば1年半ほど前にお店ができたようで
今まで家に帰るのに大通りを通る事が
ほとんどなかったので気づかなかった





そんな話を聞きいた後
携帯で天気予報を見ていると
雨で濡れた女性客が1人入ってきた





「すいません。ホットコーヒーを1つ」





僕と同じように
雨宿りしてきたのかなと思いつつ
同じ場所、同じ境遇に見舞われている
この人がなんだか気になった







普段なら声なんてかけようとも思わないのに
こういった同じ事象によって
同じ場所に居ることが
少し僕の期待感を仰いでくる 






「すいません、テッシュ持ってませんか?」





唐突に話しかけられた僕は
自分に話しかけられてるとは知らず
スマホに映る天気予報のアメダスで
30分後に雨雲が笹塚上空を通過する事に安堵していた




「あ、はい。コレ」
「ありがとうございます」




ただテッシュを持っているか
聞かれただけなのに
すごいドキドキしてしまった

彼女いない歴3年半
社会人になってからは出会いの無さに
自ら行動をしようとは思わなかった




「雨、あと30分後には止むそうですよ」


ついさっきまでにらめっこしていた
スマホからの情報を
あたかも自分の物のように言う

ジャケットや髪が
雨で少し濡れたようになっている女性は小さく

「よかった」

と安堵の表情を浮かべた

ふんわりと優しく
微かに笑ったように見え
その表情に惹かれてしまった




それから閉店時間まで
他愛のない会話をしながら過ごし
お店を出ると雨は止んでいた



「よかった、雨止んでますね」
さっき見ていた天気予報通り

「天気予報当たりましたね。」
 クスりと笑みが溢れていた




「僕、大体会社帰りにここいるので」




 
精一杯の口説き文句だった










この日から1番嫌いな火曜日が
1番楽しみな火曜日になった








※この物語はフィクションです

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「Dear All」
火曜-金曜: AM8:00 - PM8:00
土曜 : AM9:00 - PM8:00
日曜 : AM9:00 - PM7:00
定休日 : 月曜日
【Instagram】
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