細いけど優しい目。
思っていたよりも男らしい体つき
写真では老けて見えていたのに、実際は35歳で年相応に見えた。
「どこいきましょっか」
男性は一言目にそう言った。
彼は昨日のメッセージの中でカフェを探してくれると言っていたのに、どこに行くか決めてなかった。
「あ…どこでも…」
っと小さく答えたら
「⚪︎⚪︎の方にしましょうか」
とすぐに言葉が返ってきた。
そこから、目的地に向かい歩きながら
少しずつ会話をした。
会話は割とスムーズで、当たり障りのない内容だけど
違和感なく流れていく。
話しやすい人でよかった。と思った。
特に相手にも嫌な顔もされなかったので、初対面の印象はそこまで悪くなかったのだろう。
私たちが向かっている先は、割と人が少ないスポットだったが、
近づいてきても人が一向に減る様子はない。
目的地周辺でカフェを探すことになったが、1軒目は何組か待っていたためすぐに通り過ぎることにした。
2軒目も人がいっぱいだった。
どうしましょっか、とまた彼は言った。
彼は特にカフェの目星をつけてるわけではなかった。
考えてきてくれると言ったのに。
彼は全くのノープランだった。
少しそこでガッカリした。
このまま歩いても混んでたら?
しばらく歩くと広めのカフェがあったが、
そこも人が並んでいて、
「いっぱいですね」と私は呟いた。
「もう少し歩いて、空いてるところに入りますか?私は歩いてもいいですよ」
と言うと
「この辺でとりあえず待ちましょう」と返してきた。
とりあえずどこかに入りたそうだ。
ノープランだったくせに、並ぼうと言われ
わたしはさらにガッカリした。
単純に、わたしは並ぶことが好きじゃない。
もちろん、なにか目的のスイーツや美味しいお店に並ぶ事にそこまでの抵抗はない。
あくまで無計画に、
ただコーヒーを飲むためだけに並ぶのは嫌なのだ。
でも今は初対面の男性と一緒だ。
ここで否定的な反対意見は言うまい、と思い
私はグッと堪えてただ「そうしましょう」と呟いた。
だがどのお店も混んでいる。
一体この中から、どのお店に並ぶのだろうか。
すると目の前に、一見ご飯屋さんのようなお店が現れた。
店の前に置かれた椅子には誰も座っていなかった。
メニューにはパスタやお肉の写真が大きく載っているが、カフェメニューもありそうだ。
わたしは「ここ行けそうですよね」と彼に声をかけて誘導した。
すると、すぐに入ることができた。
とても嬉しかった。
カフェに並ばず入れたことが本当に嬉しかったのだ。
案内されたテーブルに座り、
一緒にメニューを見る。
「どうしましょっか?」
わたしはいつも初対面で何を頼もうか悩む。
初対面のデートは、ほぼ男性がお支払いしてくれる。
わたしは払っても良いと思っているのだが、いつもご馳走してくれるので、注文は男性の様子を伺ってするようにしている。
カフェオレが飲みたいけど
とりあえず飲み物は一番安いコーヒーを選ぶのだ。
その後に、オマケに男性がケーキを頼むのなら
私もケーキを頼もうと思った。
そんなことを考えていたら、
彼がケーキの写真を見て
「デザートもありますよ」と言った。
デザートを食べようとしているので
わたしは嬉しくなって
「美味しそうですねー」と言いながら
「デザート食べますか?」と聞いた。
「女性はスイーツが好きですもんね」と彼は笑った。
今回はケーキも食べれそうだ。
わたしは美味しいものを食べることが好きだ。
だけど、特別スイーツが好きなわけではない。
甘すぎるものは苦手で、特に空腹に生クリームやチョコレートを食べると胸焼けがするので、
むしろかなり体調や気分に左右される。
それは流石に可愛くないので、わたしはスイーツがそこそこ好きというテイで、話すことにした。
正直、初デートでケーキがあってもなくてもどちらでも良いけど、
ケーキがあればその分話す時間もあるなと思った。
ケーキを選んで注文をするために店員を呼んでくれた。
そのときに、何を飲むんですか?と聞いたら
彼は、飲み物は頼まないと答えた。
飲み物は注文しない。
そう言ったのだ。
彼は水でチーズケーキを食べると言った。
わたしはオカシイと思った。
だが、きっと彼はお会計を払ってくれるだろう。
ここで私だけがコーヒーを頼むわけにはいかない。
むしろ私はケーキをやめてコーヒーを飲みたいと思ったが、
店員への注文は始まっている。
どうすることもできず、私もケーキを注文し、
「お飲み物は?」
と言う質問に
「いいです」
という彼をただ見つめた。
しつこいようだが、彼は飲み物を頼まなかった。
わたしはその後
カフェで飲み物を注文しない男について、ずっと考えていた。
一度相手のことを変だと思うと、その後はずっと変だと思うところを探してしまう。
見たくなくても見えてくるのだ。
彼は色々と質問をしてくれて、
私も楽しく会話をすることができた。
良い人だなと思ったし、笑いのツボも合うと思った。
でも彼は、最初に注がれた水で、ずっとケーキを食べていた。
そして話しながら、よく右耳を触った。
水でケーキを食べて、
そしてケーキを食べて、右耳を触るのだ。
わたしは
合わないと思ったし、
汚いとも思った。
会話は楽しいのに、
すごくネガティブな感情に包まれた。
ケーキを食べ終わった頃、
わたしの水のグラスはあと1センチしか残っていなかった。
でも会話は楽しく続いていた。
だが、彼は耳を触り続けて、
わたしのグラスは空に近づいていった。
ちょうどガラスの水がなくなった頃、
彼から「今日何時まで大丈夫ですか?」と聞かれた。
今の時間は16時半だった。
「特に予定はないですよ」と答えたが
正直何時までになるのだろうか、と怖くなった。
この後どこかに行こうとしてるのかな?
そう思ったが、
初対面でノープランでブラブラ歩きたくはない。
ケーキを食べた後だし、すぐに何か食べれる状態でもない。
一人暮らしの彼は、
もしかしたら休みの日の
この中途半端な時間帯に解散したくないのかもしれない。
楽しいと思ってくれているのかもしれない。
でも、どう言う意図の質問かわからなかったし
とんでも無いことを言われるのでは無いかと思い、
怖くて聞くことができなかった。
すると
「門限とか無いですよね?」と彼は笑った。
わたしは、
どんなジョークなのかと思ったが、無いですよ。と笑った。
まだ16時半に、門限について聞かれたのだ。
困惑するのは当然だと思った。
普通は大人の門限は、一般的に21時とか、22時とかそういう夜の時間帯を指す。
17時とか18時は小学生の門限だ。
つまり、もし大人の私に門限があったとしても
4時間は時間があるのだ。
初対面でそんなに一緒にいられる気力も勇気もない。
そして既にババアな私は
彼と会って1時間半で疲れきっていた。
会話は楽しいけど、本当に疲れていたのだ。
婚活のお見合いでは30分〜1時間が一般的。
1時間半は、私の中でかなり盛り上がった方だ。
一体何時までを希望されているのか分からず、
そのまま暫く会話を続けた。
門限を聞かれてから20分話したところで、
わたしは喉がカラカラになって、もう限界になった。
グラスはずっと空のままで、
どう考えてもお店側の注意が行き届いていないのだが
わたしは無性に帰りたくなった。
だって、どこにも行く素振りがないからだ。
彼はこのまま飲み物もなく後1時間は話しそうだった。
会ってから2時間近くになった頃、
わたしは「そろそろ出ましょうか」と切り出した。
なぜ、何時まで大丈夫なのかと聞かれたのか
理由は分からなかったが、
わたしは限界が来て切り出してしまった。
彼は少し驚いた顔をしたけど
水もないですし…と、わたしが笑うと
出ましょうか、とすぐに頷いた。
結局支払いは彼がしてくれた。
わたし財布を出し、お金を出す素振りを見せたが
彼は「いいですよ」と言ってくれた。
自分が男性でも、ケーキ代の「600円を払ってください」とは言いにくいだろうなと思った。
でもいつも、どうしたらいいのか分からないので
払いますよっと、言ってしまうのだ。
店を出ると
初めて会った時よりもずっと気まずい空気になった。
なぜなら、彼が何時まで大丈夫かと聞いた質問に
わたしは無視している形になっているからだ。
結局別れるまでの歩いた10分間、
彼は何時まで何をしたいか、言うことはなかった。
そしてLINEすら聞いてこなかったのだ。
連絡先すら聞いてこない(普段はアプリ上でのやり取りだった)ということは、脈は完全にないと思った。
勿論、それはお互い様なのかもしれないが
わたしは連絡先は男性が聞くものと思っているので、
連絡先を聞いてこないと言うことは
脈がないと思っている。
それは、過去の経験からわかっていた。
連絡先を聞かれなかった男性に
自ら連絡先を聞いた場合、100%連絡が途切れるのだ。
連絡先を交換せず、解散した。
わたしたちの最後の言葉は
ありがとう…また…
だった。