森達也監督『i新聞記者ドキュメント』レビュー

2019年12月2日、福岡のKBCシネマにて鑑賞。


 望月衣塑子さんは、とにかくイキイキしている。常に動いていて、野生動物のようだ。

 望月さんにくらべると、周囲のひとは、少しくすんでみえる。

 望月さんは、少し多動症気味で、集団では動かない。

 だけど、逆に、集団で動いている周囲の人たちが灰色に見えてくる。


 望月さんは、五感をつかう人だなあと思ってみていたら、映画の中で、望月さんご自身がそのような趣旨の発言をしたので、驚いた。


 映画が進むにつれて明らかになっているのは、この映画は望月さんだけのことではないということだ。

 望月さんは日本では珍しくジャーナリスト魂を体現している人だが、その望月さんの活動自身が、「東京新聞」という記者クラブメディアの一員であるということに支えられていることが見えてくる。

 望月さんの組織内での葛藤も描かれる。

 有名な菅官房長官との記者会見でのやりとり。

 しかし、そもそもその場にいられるのは、望月さんが記者クラブメディアの一員だからだ。


 ジャーナリストであり、記者クラブの一員でもある……。

 望月さんのそのようなダブルバインドな立場を、FCCJ(外国特派員協会)の記者たちが鋭く指摘する場面もある。

 「お前は、ジャーナリストなのか、それとも東京新聞の記者なのか」と。

 望月さんに対するこの質問は、個人に対するものというよりも、日本のメディア状況自体に対する告発なのだろう。

 

 とにかく、望月さんはイキイキしている。森監督がなんとか官邸に入ろうとして、あれこれとやりとりしている、その横にいる望月さんも、イキイキとしている。望月さんに比べると、望月さんを支える、望月さんと同じ立場であるはずの人たちもまた、なんだかくすんでいる。


 その理由を、森監督は最後の最後に「爆弾」として明らかにする。

 ある場所で行われたある集会。

 立場が異なる、反対の人たちが、同じように埋没して見える。


 そこでの望月衣塑子さんを「i」として立たせることで、映画全体のメッセージを結実させた。



 『i新聞記者ドキュメント』は、社会派ドキュメンタリーであると同時に、エンタテインメント映画でもある。

 今までの森作品にない手法も使って。

 群泳する魚たち。

 アニメーション。

 そして、ある歴史的な白黒写真。


 最後に森さんが伝えようとしいるメッセージは、右と左、保守とリベラルといった枠を超えた、鮮烈なものだ。

 問題は、観客が、これからの日本がそれを受け止められるかということだろう。


 森監督作品としては初めてシネコンでも上映されているという『i新聞記者ドキュメント』。

 たくさんの人に見られて、大ヒットすべき作品だろう。


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(クオリア日記)

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