ひさしぶりに松本人志さんの言葉にふれることができて、安心しました。

 

 私は、松本さんや日本のお笑いについて発言して来ましたが、私が必ずしも好きではなかったり評価しないお笑いのかたちがあっても、それが今回の松本さんのようにメディアから「排除」されることを希望していたわけではありません。 むしろ、私が好きな批評的なコメディを含め、さまざまなお笑いが切磋琢磨することが望みでした。その点、日本のお笑いはモノカルチャーだった(今でもそうである)ように思います。

 

 松本さんのお笑いが好きな人もいれば、他のかたちのコメディを求める人もいます。人によって自分の心にぴったりの笑いは違うでしょう。私は、今の日本の主流の笑い(それをつくる上で松本さんは大きな影響力を持ってきました)とは違うかたちが個人的には好きだし、日本にはもっと笑いの多様性があっていいと思います。 人を笑わせることを志してきたことは素敵なことだと思います。 松本さんのお仕事によって幸せな時間を持ってきた方々は実際多いでしょう。 私は少し違う森の中を歩いていました。

 

 今、テレビなどには出られない状況でしょうが、インターネットなど、笑いを発表できるメディア、方法はたくさんあります。 テレビの笑いは、その業界の仕組みや、後輩たちの忖度によって、松本人志さんの真価、人としての本当の力を結果として覆い隠してきた側面もあるように思います。

 

 ぼくは近年の松本さんを「裸の王様」だと感じることもありました。 しかし、むしろ、テレビや業界の仕組み、後輩たちの忖度に守られない、裸の「松本人志」の凄まじい実力を、松本さんが新しい形で人を笑わせることで示されたら、私の中で松本人志さんはほんとうの「王様」になるでしょう。 

 

もともと、「王様」は「テレビ」という服を着ていても着ていなくても「王様」(であるはず)なのですから。 松本人志さんの「人を笑わせることを志して」きた思い、「お笑いがしたいです」という願いが、テレビというエコーチェンバーに守られないかたちで<も>実現することを希望するものです。 

 

茂木健一郎