黒澤明監督は、ふつうの映画監督ならば一生に一度しか撮れないような場面を何度でも撮れるひとだった。

『生きる』では、雪の中のブランコのシーンがあまりにも有名だ。

「いのちみじかし」を歌うこのシーンは、回想の中にあるので、前後がオブラートのようにくっついているのだけれども、私たちは記憶の中でブランコのシーンだけを純粋に取り出してそこだけを繰り返したくなる。

一方、主人公がうさぎをつかんで生きる目的を見出すシーンは、前後も含めて完璧で、何度見てもほれぼれする。

向かいの部屋で女子学生たちが誕生パーティーをやっていて、うさぎをつかんだ志村喬が階段を降りて、そこに主役の女子学生が上がってきていっせいに「ハッピーバースデー」をうたうんだけど、それが志村喬の背中に向けてのはなむけの歌のようにきこえる、あの流れは何度みてもすごい。

そして、ひさしぶりに役所に出勤した志村喬の表情が一変して、視察に行くその後ろから時報のサイレンがなるのもすごい。

この映画で、うさぎは生命の象徴である。

(クオリア日記)


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