ジョーの車は、大きなランドクルーザーだった。

 「さあ、乗って」

 シャーリーに促されて、ビリー、トム、そしてジャックが乗った。

 シャーリーは、助手席に乗り込んだ。

 シャーリーの事務所で働くジョーとは、ジャックは面識があったが、ビリーは初めてだったようで、ビリー、トムに簡単に挨拶をしていた。

 ジョーは、髭面の、ビヤ樽のような身体をした男だ。

 「じゃあ、いくよ。」

 ジョーがエンジンをかけると、軽快なポップスの音楽が流れ始めた。

 3ブロックくらい、その音環境が続いたが、シャーリーが、たまりかねたように「変えるわよ」と言って、放送局を探した。

 「クラシックFM」のところで、シャーリーの手が止まり、その後、車内にはブルックナーの7番がかかることになった。

 ランドクルーザーはマンハッタンの道を行く。ブルックナーがかかる中を。

 車窓を、景色が流れる。タイムズ・スクエアの電光掲示板に、トムの顔が映しだされている。

 「生まれ変わりがもたらした奇跡」とテクストが流れる。 

 ジャックは、隣に座っているトムの表情を盗み見る。そこには、やはり、何の特別な感情も現れてはいない。

 この人は、実は、何かわからないかたちで、凄いのではないか。ジャックが、そのようなことを初めて思ったのは、まさにその瞬間だった。

 ジョージ・ワシントン・ブリッジを渡る頃、ブルックナーがバッハの無伴奏チェロ・ソナタに変わった。