月別アーカイブ / 2017年08月

 沼田真佑さんの『影裏』の中で最も印象的な表現の一つは、「文藝春秋」の芥川賞選評でも複数の選考委員が挙げていたように、「そもそもこの日浅という男は、それがどういう種類のものごとであれ、何か大きなものの崩壊に脆く感動しやすくできていた」という一文であろう。
 
 「ある巨大なものの崩壊に陶酔しがちな傾向」を持つ日浅という男と、語り手がともに釣りをする、その濃密な描写が、本作の魅力の一つとなっている。

 本作が、東日本大震災とその巨大津波をモチーフの一つとしていることは、すでに各所で報じられているところである。加えて、日浅の一身上のある事情が響き合わされることで、『影裏』は、独創的な作品となっている。日浅が陶酔していた「ある巨大なものの崩壊」とは、自分自身を取り巻く世界に関わることであった。

 それにしても、人は、なぜ、破滅までの時間をやり過ごすために、釣りをするのだろうか。
 
「一時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。」
「三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。」
「八日間、幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい。」
「永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい。」

 これは、確か開高健が好んで引用していた警句だったと思う。
  
 その開高健は、ベトナム戦での苛烈な経験の後に、釣りをする『オーパ!』の人となった。
 それまでの、生きること、人間の条件をぎりぎりと詰めていくような第一期開高が、「イトウだ!」と魚影を追う第二期開高に接続されていったその経緯を、私はある種の悲痛の感覚とともに眺める。
 作家は、釣りをしながら、何ものかの崩壊の予感に、いや、おそらくはすでに崩壊してしまった何ものかの残滓に向き合っていたのだ。
 
 日々変わっていく世界の中で、私たちの生命、そして意識がかろうじて息づくことができる環境が、「水たまり」だとすれば、それは、いつ干上がるか、埋め立てられるか、あるいはより大きな海にのみ込まれるかわからない儚い存在である。
 
 人は、なぜ、破滅までの時間をやり過ごすために、釣りをするのだろうか。

 人間世界のやり切れない事情の中で、釣りを、ここまで魅力的に描けたことだけでも、『影裏』という作品は成功している。


影裏.jpg

おけまるさん


茂木先生、おはようございます。おけまると申します。(20代・女性・大学生) 漫画中毒についてのご回答ありがとうございました。研究を楽しいと思う努力をしています。

別件で、また質問がございます。

「みんな、あなたと同じだから大丈夫よ」というような励まし方に違和感を持ちます。
この励まし方は日本独特なのでしょうか。

大学受験するとき、勉強が大変で辛いですと担任の先生にこぼすと「みんな頑張ってるから、頑張ろう」と言われました。私はおそらく、「そうだね、頑張ってるね」など、わがままですが、同調して欲しかったと思います。

これ以外でも、例えば自分が課題が全然できていないと友達に言うと「みんな出来てないから大丈夫」と言われます。みんな出来てなくても、結局自分が出来てないのだから関係ないと思ってしまいます。せっかく励ましてもらっているけれど、そう思ってしまいう自分は性格悪いなと思います。

でも、このような励まし方に本当に励まされる時があります。それは、論文や本を読んでも一回でなかなか頭に入らない時が多くて落ち込んでいる時、先輩に「私もそうだよ、何回も読むよ」と言われた時です。解決策ではありませんが、自分以外の人もそうなのかと安心しました。

今後、私が人を励ます時、この「みんなor私もそうだから大丈夫」と使いたい時がくるかもしれません。
相手に違和感を与えないためには、どのような状況ならばこの励まし方は使えるでしょうか。

ご回答していただけると幸いです。

ご回答。

日本は、いわゆる「同化圧力」が強い社会だとされます。

逆に言えば、みんなと同じだと、安心しやすい社会だということです。
ただ、社会が流動化し、破壊的イノベーションも必要とされる時代には、同化圧力だけだと発展が止まってしまいます。

みんなと同じだととりあえずは安心だけど、それは発展性のある安心ではないということです。

小津安二郎は、「どうでもいいことは流行に従い、重大なことは道徳に従い、芸術のことは自分に従う。」という言葉を残しました。

自分にとって、さほど重要でないことは、流行、みんなと同じで良い。そこには注力せずに、自分にとって大切なこと(小津の場合は芸術)は、自分を貫く。
そんな、力の配分の「バランス」を目指されるのが良いのではないでしょうか。

人を励ますときにも、そんなことを心にとめつつ、励ますのが良いのではないでしょうか。


nounandemo

 
脳なんでも相談室へのご相談は、https://lineblog.me/mogikenichiro/archives/1294423.html のコメント欄までお願いします。

『すベての悩みは脳がつくり出す』

宇宙だいすきさん

子育て中の母です。子供が、「無駄なことはやりたくないし、がむしゃらに頑張るのが嫌い、努力を積み重ねるのは嫌い」という性格で、小学校中学高校はよく休む子でした。大学も中退です。中高ではテストも欠点はとらないものの合格ラインスレスレで通過し、卒業も単位と出席日数あと1日あと1単位足りなかったらアウトというとこまでいき、なんとか周りの方々に支えられ助けられて卒業できました。本人の思う「無駄」をはぶきたがります。
無駄ではない!すべて経験や知識は役に立つからと教えてきました。が、他の努力型の兄弟とは違うタイプです。それは個性と信じてきました、エネルギーを使いたくないタイプなのかわかりません。
こと就職に関しても、正社員はリスクが多いからと前フリーターのままです。
性格はとても優しい子ですし、友達もいます。
感謝もわかる子です、
責任感もありますし、成績も悪くはありません。
あとは男女をとわず素敵な方々と出会い、これから
いろんな価値を知ってほしいと願い、
見守ってはいますが、これから行きて行くのに若さがないというか夢もなければ欲もないし、、、
たしかにどれもありすぎても困るのですが、、、
本人が幸せなら良いのですが、無駄をはぶく、自己防衛本能、リスク回避、、わたしの時代にはなかったことで、どのように励ますのがいいのかわかりません。本人も、自分はなんでこうなのか?と悩んでいました。このような若い人いま実は多いかと思います。茂木先生はどう思われますか?宜しくお願い致します。

ご回答。

個性というのは、ある視点から見れば欠点で、別の視点から見ると長所で、それが表裏一体になっていることが多いです。
「やさしい」「感謝もわかる」「責任感もある」など、きっと、たくさんの良いところがあるお子さんなのではないでしょうか。

そのような長所をうまく伸ばせるような人生になったら、と思います。
また、努力とか、頑張るとか、そのようなことが好きな人の近くにいるのも、一つの手だと思います。

お子さん自身はそのようなことをしなくても、熱い人の近くにいることで、逆に、その熱い人にはないこと、見落としがちなことを補ってあげられるように思います。

個性を変えよう、とするよりは、他人との組み合わせでその個性を活かそう、と考える方が、きっと素敵なことがたくさん起こるように思います。


nounandemo

 
脳なんでも相談室へのご相談は、https://lineblog.me/mogikenichiro/archives/1294423.html のコメント欄までお願いします。

『すベての悩みは脳がつくり出す』

↑このページのトップへ