TEDの最終日、聴衆代表による「フィードバック」があった。
事前にクリス・アンダーソンにメールで申し込んだ人から選ばれた人たちで、一分以内で、今回のトークの感想や批判を言う。全部で十人くらいだった。
一分経つと、マイクのスイッチが自動的に切れて、何も聞こえなくなる。
TEDの舞台からは、カウントダウンの秒数が見えるようになっている。
それがゼロになると、本当に音声が消えてしまったので、笑ってしまった。
聴衆代表のフィードバックは、期待値をはるかに上回るもので、TEDのコミュニティのすばらしさを改めて感じさせた。
一番大きな拍手(ほとんど全員がスタンディング・オベーション)を受けていたのは、テニスのセレーナ・ウィリアムズさんのセッションについてのコメントである。
聴き手が一人登場して、セレーナさんに質問する、というかたちになったのだが、結婚したきっかけや、妊娠のことなどプライベートなことを中心に話が進んでいった。
(聴き手は、どうも、アメリカのテレビのパーソナリティーみたいな人だったようだ)。
これに対して、壇上(TEDの、丸いステージ)に立った聴衆代表が、「セレーナは、アスリートとして卓越しているのであって、そのアスリートとしてのチャレンジの話とか、努力の話をもっと聞きたかった。男性アスリートだったら、あんな会話になっていただろうか?」と問題提起して、会場から、「イエーィ!」とものすごい歓声が上がった。
実は、全部言い終わらないうちに、一分経ってマイクが消えてしまったのだけれども、聴衆がずっとスタンディング・オベーションしたままだったので、クリス・アンダーソンが、「戻っておいで!」とセンターステージに呼び戻して、残りの部分(ほんとうに10秒くらい)を話させた。
次に順番待ちで立っていた人が、「私の1分を譲ってあげてもよかったくらい、素晴らしかった」と発言して、それでまた聴衆がものすごい拍手をした。
あと一人大きな拍手を受けていたのは、内容自体はすばらしかったデイヴィッド・ミリバンドさんを批判したコメントだった。
デイヴィッド・ミリバンドさんは、元イギリスの外務大臣で、今、難民支援の仕事をされているのだが(話の内容は情熱的で構成も素晴らしく、ぜひTEDのホームページで見てほしい)、その聴衆代表は、「デイヴィッド・ミリバンドが立っているべきなのは、このTEDのステージではない。今、イギリスは、どういう状況か。Brexitで、移民たちが厳しい立場に置かれようとしている。テレサ・メイ首相に対抗するはずの労働党の党首ジェレミー・コービンは全くダメだ。イギリスに戻って、首相を目指すべきなのではないか」と話して、喝采を受けていた。
TEDはコミュニティで、話の内容を厳しくしかし温かく吟味して、ほんとうに素晴らしいアイデアだったら惜しみなく拍手を送る、そのような反応の素早さがスピーカーに一つのプレッシャーとなって質を支えているように思う。

