月別アーカイブ / 2016年06月

  「生まれ変わりだとか聞いて、驚かないのですか?」

 ジャックは、マツに聞いた。

 「さあ、そういうお客さん、時々いらっしゃいますから」 

 「そうなの?」

 「ええ、この前も、私はキリストの誕生でかけつけた東方の三博士の生まれ変わりだ、という人が来ました。」

 「へえ。」

 「それで、あとの二人のうち、一人は、ブリトニー・スピアーズなのだけども、もう一人がわからないので、今、探しているというのです。」

 「なるほど。」

 マツは、他のテーブルで呼ばれたらしく、白いふきんで急いで手を拭いて、出ていった。

 後には、ジャックと、トムと、シャーリーと、そしてほんのすこしやわらかい静寂が残された。

 マツと軽口を叩いているうちに、ジャックは、トムのことを真剣に考えていたことが、なんだかおかしくなってきていた。

 今時、トマス・アクィナスの生まれ変わりだとか、この世が煉獄だったとか、そんな話を、まともに受け止める方がおかしい。

 ジャックは、軽い気持ちで、トムにいろいろと質問がしたくなった。

 「トム、君がかつてトマス・アクィナスだったとして、どうして生まれ変わってきたの?」

 「悪魔の代理人のせいです。」

 「悪魔の代理人?」

 「ええ、それで、奇跡が足りない、と言われたものですから。」

 「奇跡が?」

 「そうです。聖人認定の時に、奇跡が足りないと言われたものですから。ですから、それが悔しくて。何か奇跡を起こそうと思って、私は生まれ変わってきたのです。」

 シャーリーは、真ん中で、黙って聞いている。

 
つづく。


「オデュッセイア」これまでの連載。     

昨日、東京大学駒場キャンパスでの授業のあと、飲んでいたら、イギリス出身で今はドイツのベルリンにいる、という人がいた。それで、いろいろ話していたのだが、ちょっとおもしろい点があった。

彼によると、EUの構成国のほとんどを占める大陸ヨーロッパの雰囲気としては、今回の英国の離脱を、残念がる気持ちの一方で、せいせいした、という意見もあるというのである。

英国は、これまでのも、EUのやり方に対して、いろいろな「文句」を言ってきた。EUのメンバーでありながら、EUのさまざまな改革、路線に対して、いわば「抵抗勢力」であり続けた。その英国が抜ければ、かえってやりやすくなる、というのである。

彼は父親がアイルランド出身なので、アイルランドのパスポートをとることができるから、そうするかもしれない、と言っていた。アイルランドのパスポート申請者が殺到していて、「ちょっとまってください」ということになっているらしい。

英国内では、以前から、ユーロ懐疑派が存在して、EUのあり方に対して、いろいろと文句をつけてきた。その際に、自分たちは特別だという、「上から目線」があったことは、事実だと思う。EU離脱で、そのような英国のあり方に対する反発が噴き出しているのだろう。

英国は、世界的に見れば、もはや特別な存在ではないのに、自分たちだけは別だと思い上がっているところがあったのかもしれない。EU離脱の火遊びをしているうちに、スコットランドも、そして北アイルランドも離脱し、連合王国自体が危機にひんしているのは、皮肉なことである。

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