横浜のみなとみらいから少しいったところに、顔が三つある女の子が住んでいて、名前を、時計回りにサリュー、ドリュー、馬頭(うまがしら)といいます。彼女たちは一つしかない体でまともに生きるために、天然パーマの黒い髪の毛を腰までのばし、順番をきめて交互に顔を出すことにしています。サリューが長い髪の毛を額で二つに分けたときは、くしゅくしゅした毛にドリューと馬頭が隠れます。サリューは手先が器用なので、ふたりが苦しくないようにきれいに髪の毛を整えてあげます。サリューが顔を出した次の日には、ドリューがヘヤーバンドーで前髪をそっくりあげて顔を出します。ドリューは少々荒っぽいので、サリューと馬頭は目の中に短い毛が入ったり、息が苦しいのを我慢しなければなりません。そしてドリューが顔を出した次の日には、サリューが顔を出します。馬頭の番は来ません。18年間くしゅくしゅした長い毛の中で待ち続けました。雨が降って息の詰まるときも、雪のせいでまぶたが開かない日も、じっと待ち続けました。それでも馬頭の番は来ません。なぜなら馬頭の顔は馬だからです。しかもサリューとドリューの顔は比較的お腹側についているのに対し、馬頭の顔はぴったりと背中側を向いてついてるのです。ドリューは運動が得意なので、ドリューの顔がでているとき、女の子はよく走ります。すると馬頭は走りたいのと、悲しいのとで、蚊の鳴くような声でヒヒン、ヒヒンと嘶きます。くしゅくしゅのすきまから手の届かない世界が離れてゆく光景が一瞬目に映り、やがてぼやけた視界に毛がはりついて目の中でぎりぎり暴れるので、馬頭はおろおろと涙をこぼしながら、何も考えないことを考えます。今、何年なのか、馬頭は知りません。ある年の、一月一日、サリューが死にました。ドリューがドッチボールをして転んで、強く頭をぶつけたときに、サリューをぶつけ、へこんだ顔がぐずぐずにくずれてとれたのです。とれた顔の処分に困ったドリューは、ふさふさの髪を束ねるリボンをほどいて馬頭の顔を突き出してやりました。突然視界に溢れる閃光と色の世界に興奮した馬頭はいつもよりもほんの少しだけ強く啼きました。「食いなよ」馬頭が初めて食べた食べ物は、ぐずぐずで味もよくわかりませんでした。上手く飲み込めないので、今食べたばかりのものが鼻の穴から垂れて唇を濡らしました。
 ドリューはいつものようにヘヤーバンドで前髪を止めて、後ろで一つに結びます。その中で馬頭がふさふさのしっぽのことを夢に見ながら、何も考えないことを考えます。ドリューが馬頭の顔を潰そうとしてるという考えを、考えないように考えます。