十三年前、「記憶を失った総理大臣」という十文字で作られたフレーズを思いつく。二年前の夏、プロデューサーにプロットを語って聞かせ、制作のGOサインが出る。最初から主演は中井貴一と決めていた。彼がダメならばやらないとまで宣言。中井さんからOKの返事を貰ってから、頭を絞って台本を書く日々が始まる。平行してスタッフ集め、そしてキャスティング。脱稿が遅れ、ホンのないところでスタッフミーティング。その時の僕の話を元にロケハン開始。ようやくホンが完成。セットプランも固まり、東宝スタジオに首相官邸、湾岸スタジオに首相公邸の巨大セットが組まれる。決まったキャストから衣装合わせ。ディーン・フジオカさんに呼び出されて役について質問を受ける。クランクインが去年の夏。猛暑の中のロケが懐かしい。約二ヶ月の幸せな撮影期間を経て、編集、音楽録音、CG合成、そしてダビング。映画が完成したのは今年の春のことだった。

 そして、大勢の人々の知恵と努力で作られた映画「記憶にございません!」は、最終段階で宣伝部に託される。この映画がどれだけの人に観て貰えるかは、この人たちの手腕に掛かっている。面白ければ、作品に力があれば、必ず人は観てくれる、なんて幻想だ。「あの映画、いつの間に公開されたんだ」と思う作品のどれだけ多いことか。宣伝しない限り、一般のお客さんは、公開日も、下手をしたらその映画が存在していること自体も知らないのである。

 そしてすべてのスタッフからバトンを渡された宣伝部の皆さんは、映画の認知度アップのために全身全霊を傾ける。

 新しいタイプの予告編、イラスト仕立てのティザーポスター、力の入ったツイッター、読みどころ満載のHP、斬新な新聞広告。膨大なインタビュー記事、国会審議を模したトーク番組。政見放送ならぬ宣伝放送もある。俳優の皆さんによるテレビ出演。豪華な完成披露試写会。中井貴一さんの所信表明演説。新宿で行われた「最後のお願い」等々。ネットの普及で映画の宣伝方法も多様化した。それをどううまく活用するかがポイントだ。そして地方ごとの独自の宣伝展開。映画館に足を運ぶ人達に、いかにこの作品をアピールするかも、皆さん知恵を絞ってくれた。

 僕もアイデアを出したが、宣伝部の頑張りには頭が下がる。街頭演説で、まるで新人候補の応援に駆けつけた幹事長のように絶叫する僕の姿を、また出たがりの目立ちたがり屋が馬鹿なことをやっていると、冷ややかな目で見ていた方もいらっしゃっただろう。しかし、全力を尽くしてイベントを成功させようと頑張るスタッフを見ていれば、自分に出来ることはなんでもやりたいと、そりゃ思うでしょう。しかもこれは僕が監督した映画なのである。僕がやらずに誰がやるというのか。

 「記憶にございません!」はまもなく公開です。さて、どれだけの皆さんが映画館に足を運んで下さるのだろうか。

 この短期集中連載エッセイは本日でおしまい。ご愛読、ありがとうございました。ここだけの話、大勢の方が映画を観て下さったら、嬉しくなってまた復活するかもしれません。