今回のキャストで、僕にとってもっともスペシャルだったのが、柳先生役の山口崇さん。僕らの世代で山口さんといえば、NHK「天下御免」における、天才平賀源内。「クイズタイムショック」の司会もされていたので、知的でクールで都会的な俳優といえば、山口さんだった。

 僕にとって憧れの存在。二十五年前に「古畑任三郎」にも出て頂いた。その時は超常現象を否定する科学者の役。そして今回が小学校の元教師だ。山口さんは僕にとって永遠の頭脳労働者だ。一九三六年生まれの八二歳。長年映画には出てらっしゃらないと聞いていたので、失礼な話だが、ひょっとしてヨボヨボだったらどうしようと思っていたが、颯爽とご自分で車を運転して撮影所に現れたお姿に、胸をなで下ろすどころか、感動に震えた。お歳は召されたが、知的でクールで都会的な山口さんは健在。録音部さんがびっくりするくらいの通る声で、柳先生を完璧に演じて下さっている。

 スペシャルといえば、もう一人忘れてならないのが、天海祐希さん。物語の冒頭、記憶を失った総理がたまたま入った定食屋。テレビでは、キャスターの近藤ボニータ(有働由美子)が総理のニュースを伝えている。その後、画面手前で総理(中井貴一)が店主(阿南健治)と会話。その時、テレビで流れているのがドラマスペシャル「おんな西郷」の番宣で、そこに映っているのが西郷隆盛に扮装した天海さんなのだ。「おいに任せてくいやい」と台詞まである。

 実は、この定食屋のシーンを撮った時(クランプアップの直前だった)、予定より長めにテレビが映り込むことが分かった。となるとそこに映る映像が必要になる。画面は後ではめこむので、これから撮ればいいのだが、有働キャスターの撮影は既に終わっている。さあ、どうする。そういえば、天海さん、なんでも力になるって言ってくれてたな。ここは彼女の好意に甘えよう。天海さんといえば「女信長」の主演女優。「女信長」があるなら「おんな西郷」もあってもおかしくない。よし、天海さんで「おんな西郷」の宣伝番組を作ってしまおう。そんな流れで誕生したミニ番組。ナレーションは山寺宏一さん、薩摩弁監修は大河ドラマでも方言指導をしていた迫田孝也さんと、豪華版。なのに映画を観ている、おそらくほとんどの人が気付かない。それでいいんです。大事なのは店主と総理の会話の方だから。それを承知で力を貸してくれた天海さんの男気に感謝。

 ちなみにここだけの話、ドラマスペシャル「おんな西郷」本編は八時五十五分から放送の五分番組という設定です。みじか!