「記憶にございません!」は全百八十六シーンで成り立っている。その中でも、お気に入りのシーンの一つが、総理(中井貴一さん)と総理夫人(石田ゆり子さん)、そして息子の篤彦(濱田龍臣さん)の三人がレストランで食事をする場面だ。

 三分ほどのシーンを、役者さんには芝居を止めずに演技して貰い、それを二台のカメラで撮影する。さらにカメラの位置を変えてもう一度、俳優さんには同じ演技をしてもらう。当然、この時も芝居は止めない。こうすることで、都合四台のカメラで撮ったことになり、その素材を編集で繋いでいく。

 これは役者さんにとってはとても難易度の高い撮影法だ。三人とも一回目と二回目、まったく同じ芝居をしなければならない。しかも食べながら、飲みながら。一番大変だったのは濱田さんだろう。誰よりも食べていたから。もちろん好き勝手に飲み食いしているように見えるが、すべて演出だ。この台詞を言いながらグラスを置き、次の台詞のこの部分でスプーンを取り、この台詞で料理をすくって、この台詞を言い終わったところで口にいれて下さいと、そのくらい細かく指定されている。

 濱田さんはすべての動きをきちんと覚え、それをごく自然に再現。その上で感情を込めて台詞を言った。しかもノーミス。完璧だった。自分でやらせておいてこんなことを言うのもなんだが、よくあんなことが出来るものだ。だって、台詞は事前に覚えていたかもしれないけど、細かい動きや段取りはすべてその日、ロケ現場に入ってから付けたもの。よほど脳がしっかりしていないと出来ない。ここだけの話、中井貴一さんも撮影終了後、濱田さんの芝居を絶賛。「食べる芝居は難しいのよ、彼は見事だったね、若いって素晴らしい」と感心していた。

 濱田さんのおかげでこのシーン、カットは細かく割っているけど、全体に長回しに近い緊張感が漂い、面白い場面になりました。

 濱田龍臣さん。二千年生まれの十九歳。二千年といえば、僕は「オケピ!」というミュージカルを上演した年。つい最近じゃないか。

これからどんな役者人生を歩んでいくか、とても楽しみな俳優さんです。