長回しが大好きだ。初めて撮った映画「ラヂオの時間」のファーストシーンも長回しだった。

 僕は本来舞台の人間である。僕の芝居は場面が変わることがあまりない。一度幕が開くと、暗転を挟まずに最後までノンストップで進む。言ってみれば究極の長回しみたいなものだ。つまり僕にとって長回しという撮影法は、映画と舞台の幸せな融合なのである。

 長回しがうまく行くと、観客はカメラの存在を意識せずに役者の芝居に集中できる。それが映画であることすら忘れてしまうくらい、リアルでスリリングだ。

 今回の「記憶にございません!」にもいくつか長回しのシーンが出て来る。総理(中井貴一さん)とフリーライターの古郡(佐藤浩市さん)が出会うバーのシーンは、現代を代表する名優二人の息の合った芝居を堪能することが出来る。そして総理と野党党首(吉田羊さん)がホテルの一室で会う場面。ここは本来、カットを割って撮るつもりだった。狭い室内では、カメラが動き回れないので長回しは難しい。でもロケハンで、都内一の高級ホテルの一泊百万円以上もする広大なスイートルームを見つけた時、ここならカットを割らなくてもいけると確信した。

 撮影当日は、台本三ページ分を一気に撮った。吉田さん、中井さん、そしてカメラ(撮影監督は山本英夫さん)はその間、縦横無尽に室内を移動する。時間にして約三分半。吉田さんはその間に服を着替え、メイクを変えて、どんどん見た目が変貌していく。実はこの場面、かなり刺激的なシーンでもあり、リハを重ねながら、(え、羊さんにこんなことをさせていいのだろうか)とか(わ、羊さんにこんな格好させて本人に嫌われないだろうか)とヒヤヒヤしていた。ところがここだけの話、彼女は台本を読んだ時には、もっと過激なものを想像していたらしい。それを先に聞いていたら、「全裸監督」とは言わないまでも、もっといろいろチャレンジしたのにと、少々悔やまれる。

 それでも女優吉田羊の新しい一面を出すことが出来たのではないだろうか。なにしろ長回しは、一度しくじると最初からやり直し。役者も気合いが入るのである。