月別アーカイブ / 2019年08月

 一昨年の舞台「子供の事情」で、悪ガキの小学生を演じてくれたのが小池栄子さん。お仕事をするのはその時が初めてだったが、その度胸の良さ、頭の回転の速さ、そして芝居の巧さにたちまちファンになり、ぜひまた一緒に仕事をしたいと思っていた。

 「記憶にございません!」では、記憶を失った総理の秘密を知る秘書官三人組の一人、番場のぞみを演じている。

 「子供の事情」でダイナミックな歌と踊りを披露してくれた小池さんには、今回もぜひ踊って欲しかった。彼女のダンスを映画史に刻みたかった。そこで、総理夫人(石田ゆり子さん)の代役として急きょテレビに出演。踊るはめになるシーンを作った。ここだけの話、実際もほぼぶっつけ本番で、小池さんには自由に舞い踊って貰った。映画の見所の一つである。

 日本人離れした容姿。出て来ただけで、画面が華やかになる小池さん。彼女の顔が画に入ると、「映画度」が三割アップするように感じる。頭の回転も速いのでバラエティ番組でも活躍しているが、彼女の本質は映画女優だと僕は思っている。

 本人はウルトラマン顔ですからと謙遜するが、たまに見せる憂いを含んだ表情は、お地蔵様のように神々しい。立っているだけでも絵になる人。休み時間にケイタリングを待っている彼女の姿は、まるで激しい向かい風の中、びくともせずに佇んでいる軍鶏くらいに勇ましかった。

 芝居は出来るし、見た目もいい。しかも性格はいたって真面目。映画のラスト近く、総理のある行動に彼女が拍手を送る場面がある。その拍手の仕方が実に力強かったので、他のシーンの撮影時、「小池さん、ここでも拍手するのはどうですか」と冗談で言ったら、リハーサルで彼女は本当に拍手をしてしまった。

「本当にしなくても良かったのに」「ひどいじゃないですか、しろって言うから」「冗談に決まってるじゃないですか、まさかやるとは思わなかった」「そりゃやりますよ、監督に言われたら。いやだ私、拍手大好きな人みたいになっちゃってるじゃないですか、どうしてくれるんですか!」

 失礼いたしました、小池さん。

 

 

 

 僕の映画のスタッフは一流の方ばかり。「ラヂオの時間」から一貫して録音を担当して下さっている瀬川徹夫さんは、僕が子供の頃にはまった特撮もの「マグマ大使」にスタッフとして参加していた、まさに大ベテラン。あのマグマ大使が変身する時のシャキーンシャキーンという独特の効果音は、瀬川さんが出されていたという。

 そんな凄い人たちに囲まれて、監督だけが、アマチュア感丸出しの三谷組。舞台やテレビの仕事をして、数年に一回、映画の世界に戻って来る。そんなパターンが続いているせいか、いつになっても僕は、映画の世界の住民票を貰えずにいる気分だ。

 撮影監督の山本さんからは、「三谷さんはこれ以上上手くなる必要はない。三谷さんにしか作れない作品を作って下さい。それを映画にするのは僕らの仕事だから」と、有り難く、そして格好いい言葉を頂いたけど、それでも上手くなるに越したことはない。

 少しでもスタッフに追いつこうと、誰よりも早くスタジオに来て、その日撮影する場面のシュミレーションをする。どんな風に俳優さんに動いて貰えば、面白いシーンになるか。台本片手に一人何役もこなしながら、動きを考えていく。

 「記憶にございません!」に出て来た深夜の秘書官室。井坂(ディーン・フジオカ)とのぞみ(小池栄子)の秘書官同士の会話。短いシーンだが、二人は立ったり座ったり、結構忙しく動き回る。まずのぞみがビールを出し、井坂がデスクの引き出しからなぜか駄菓子(干したいかを串に刺したもの)を持って来て、今度はのぞみがお手ふき用のティッシュを用意する。ここだけの話、この一連の動作は、撮影当日の朝に考えた。実際のセットに立ち、何度も何度も動いてやっと思いつく。優れた監督さんなら台本を読んだだけで、動きが見えて来るのだろうが、こっちはもう必死だ。

「駄菓子(干したいかを串に刺したもの)があると嬉しいんですが」と助監督さんにお願いしたら、撮影が始まる時間にはきちんと用意されていた。優秀なスタッフたちに支えられ、僕はなんとか監督業を続けている。

 

 

 

 ジャルジャルの後藤淳平さん。今回は草刈正雄さん扮する官房長官の秘書官役で出演してもらった。

一緒に仕事をするのは初めてだが、

「めちゃイケ」で彼の存在を知ってから、いつか僕の作品に出て欲しいと思っていた。

 後藤さんの、特徴のない顔が好きだ。普通、特徴のない人が画面に映ると、特徴がないので印象に残らないものだが、後藤さんの特徴のない顔は、その特徴のなさが半端ではないから、すでに特徴のなさが「特徴」になっている。だから印象に残るのである。

 彼が扮する八代は、常に官房長官のそばにいて、出番も多い。官房長官より目立って欲しくはないけど存在感も必要。そんな難しい立ち位置の役を、後藤さんは淡々とそして的確に演じてくれている。漫才やコントで鍛えているから、笑いのセンスもある。台詞の間もいい。ここだけの話、八代の台詞は現場で追加したものが多い。画面の中の彼を見ていると、何か喋らせたくなるのだ。最後にちょっとした見せ場があって、このシーンの後藤さんもとてもいい。ずっと自分を殺してきた八代が、初めて感情を少しだけ出すシーン。この「少しだけ」が後藤さんらしくて、素晴らしいのだ。

 撮影終了後、M—1グランプリでジャルジャルが惜しくも優勝を逃した時、ジャルジャル贔屓の僕は彼らのネタがとても面白かったので、後藤さんに励ましのメールを送った。すぐに返信があったが、その内容がかなりフレンドリーで、最後が「またご飯行きましょう」で締められていた。フレンドリーなのは気にならなかったが、「ご飯行きましょう」は、ご飯に行ったことがないので不思議に思った。二日後、後藤さんからメールがあり、どうやら僕と同じ名字の友人と間違えてしまったらしい。普段はとても礼儀正しい方なので、間違いに気付いた時はさぞパニックなったことだろう。想像するだけで楽しい。

 役者後藤淳平は、その独特な存在感で、これからもっともっと活躍していくと思う。また僕の作品にも出て下さいね。

 

 

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