佐藤浩市さんとは大河ドラマ「新選組!」で初めて仕事をした。それまでは、荒ぶる感じが好みでなく、僕とは縁のない俳優さんだと思っていた(大河の時はプロデューサーの意向)。ところがお会いしてみると、実際の佐藤さんは知的で茶目っ気があって、照れ屋で、たまに見せる人懐っこい笑顔がやけに眩しい。なんというギャップ。この面白さをぜひ皆さんにも知って貰いたいと思い、僕は佐藤浩市主演で「ザ・マジックアワー」を作った。

 歳も近く、生まれ育った環境も似ているせいか、彼と一緒にいると妙に心が通い合う瞬間がある。宣伝で一緒にバラエティーに出ても、彼の集中が切れて飽き始めた瞬間が手に取るように分かる。僕の集中も同じタイミングで切れるからだ。友達が極端に少ない僕にとって、佐藤さんは珍しく、プライベートでも相談に乗ったり乗って貰ったりする仲。どこか僕にとってプチ「ソウルメイト」的な存在だ。気持ち悪いですか?あちらがどう思っているかは分からないし、聞いたこともないし、聞くつもりもないけど。

 ここだけの話、今回、佐藤さんには衝撃の女装シーンがあるが、あんなに彼が楽しそうに現場に現れたのは、初めてだった。

 さて、この映画には実はもう一人、僕のプチ「ソウルメイト」の俳優さんが出ている。斉藤由貴さんだ。昔、僕の舞台に出て貰ったことがあり、それ以来のお付き合い。別に一緒にご飯を食べたりはしないけれど、僕のエッセイの解説を書いて貰ったり、彼女のライブにゲストで出たりと、浅く長く関係を保っている。今回の現場で久々にお会いしたが、まるでそんな感じはしなかったし、なんとなく、昔一緒に暮らしていたんじゃないかと思うような、安心感を覚えた。

 由貴さんは最高のコメディエンヌだ。放っておくと、カメラの前でいろいろ面白いことをしてくれるので、僕は嬉しくて仕方ないのだが、そういった部分は当然本筋とは関係ないので、だいたい編集でカットされてしまう。カットするのは僕なんだけど。ぜひとも、由貴さんとは、テレビでも舞台でももちろん映画でもいいから、彼女の可笑しさを全面に出した作品を作ってみたいものです。

 「記憶にございません!」は全百八十六シーンで成り立っている。その中でも、お気に入りのシーンの一つが、総理(中井貴一さん)と総理夫人(石田ゆり子さん)、そして息子の篤彦(濱田龍臣さん)の三人がレストランで食事をする場面だ。

 三分ほどのシーンを、役者さんには芝居を止めずに演技して貰い、それを二台のカメラで撮影する。さらにカメラの位置を変えてもう一度、俳優さんには同じ演技をしてもらう。当然、この時も芝居は止めない。こうすることで、都合四台のカメラで撮ったことになり、その素材を編集で繋いでいく。

 これは役者さんにとってはとても難易度の高い撮影法だ。三人とも一回目と二回目、まったく同じ芝居をしなければならない。しかも食べながら、飲みながら。一番大変だったのは濱田さんだろう。誰よりも食べていたから。もちろん好き勝手に飲み食いしているように見えるが、すべて演出だ。この台詞を言いながらグラスを置き、次の台詞のこの部分でスプーンを取り、この台詞で料理をすくって、この台詞を言い終わったところで口にいれて下さいと、そのくらい細かく指定されている。

 濱田さんはすべての動きをきちんと覚え、それをごく自然に再現。その上で感情を込めて台詞を言った。しかもノーミス。完璧だった。自分でやらせておいてこんなことを言うのもなんだが、よくあんなことが出来るものだ。だって、台詞は事前に覚えていたかもしれないけど、細かい動きや段取りはすべてその日、ロケ現場に入ってから付けたもの。よほど脳がしっかりしていないと出来ない。ここだけの話、中井貴一さんも撮影終了後、濱田さんの芝居を絶賛。「食べる芝居は難しいのよ、彼は見事だったね、若いって素晴らしい」と感心していた。

 濱田さんのおかげでこのシーン、カットは細かく割っているけど、全体に長回しに近い緊張感が漂い、面白い場面になりました。

 濱田龍臣さん。二千年生まれの十九歳。二千年といえば、僕は「オケピ!」というミュージカルを上演した年。つい最近じゃないか。

これからどんな役者人生を歩んでいくか、とても楽しみな俳優さんです。

  

 

 

 草刈正雄さんといえば、僕らの世代にとってはヒーローだ。キムタクが登場するまで、二枚目といえば間違いなく草刈さんだった(その前はアラン・ドロン)。ジーパンの前ポケットに手を入れ、やや猫背気味、なぜか歯を食いしばって「んー、草刈正雄です」と言うモノマネは、「こんばんは森進一です」と並ぶ定番だった。

 そんな大スターの台詞が書ける幸せを、僕はこれまで四回味わっている。「古畑任三郎」と大河ドラマ「真田丸」、NHK正月時代劇「風雲児たち~蘭学革命篇~」と今回だ(舞台「君となら」は再演で、草刈さんに当てて書いたものではないので除く)。脚本家冥利に尽きる。

 現場の草刈さんはいつも穏やかで、にこにこ微笑んでいらっしゃる。だが一度役に入ると豹変。今回も政界の巨悪鶴丸官房長官に身も心もなりきっていた。総理執務室に怒りながら飛び込んで来るシーン。「んぬああああああ」と言葉にならない雄叫びを挙げて廊下を足早にやって来る草刈さん。そのまま執務室のドアを開け、「んんんぐああああ」となんとノブを引き千切り、室内に乱入。手にしたノブを思い切り床に投げ捨てた。とてつもない迫力だったが、さすがに力任せにドアを壊すのはどうだろうということで、撮り直しに。「すみません、やりすぎましたね」と草刈さんはいたく恐縮。セットを破壊したことをスタッフに謝ってまわるその姿は、大先輩に失礼を承知で言わせてもらえば、とても愛くるしかった。NGにはなったけど、草刈さん。あのシーン、最高でした。

 ここだけの話、実は「記憶にございません!」には、もうひとつのエンディングがある。官邸のバルコニーに佇む鰐淵(ROLLY)が、そこで小さな石を見つける。それは南条(寺島進)が総理(中井貴一)に向かって投げた石。それを拾った鰐淵はバルコニーから下に向かって放り投げる。たまたまそこを歩いていたのが鶴丸。彼の頭に石が直撃し、転倒。秘書の八代(ジャルジャル後藤)が抱え起こすと、鶴丸はなんと記憶喪失になっていた。鶴丸の物語の締め方として、これ以上のものはないと思って撮影したが、実際に編集で繋いでみると、映画全体のリズムが悪くなってしまい、泣く泣くカット。このシーンの草刈さんも最高でした。いつの日か「特典映像」で日の目を見ますように。

 

 

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