2 とらわれの病理—注意と感覚の悪循環 2/2
ある引きこもりの青年は人前で緊張し、ぎこちなくなってしまいます。そのことが人にいやな思いをあたえるのにちがいないと考えています。その考えが自分の緊張を強め、そしてその緊張がさらに人前で相手にいやな感じをあたえているという考えを強めてしまいます。
彼はそして相手のちょっとした言動も、自分の緊張、ぎこちない態度のためと考えてしまいます。それにまた彼は深く傷つくのです。それがまた彼の緊張を強めます。そしてこの緊張が続くと、できるだけそのような場面を避けようとしますが、逆に緊張した場面への恐怖がつのります。これが、身体、感情、思考、行動を巻きこんだ悪循環過程です。
私は、自分で自分の症状を強めないこと、あるいは自分で自分の症状を作りださないこと、と悩む人にこの悪循環を指摘します。このような悪循環の指摘は、心身症や神経症の人には、そして引きこもっている青年たちにも理解されやすいし、あーそうだったのかと納得を得やすいものです。
またこのような現象は、けっして精神内界でばかり起こるものではありません。すでにのべたように家族や職場の対人関係でも起こることを指摘しておきます。これは次章でのべますが、親と子どもが相互にたがいの注意と緊張を強めあい、結果として事態がますます悪くなるプロセス(過程)を指します。
治療者がこの悪循環を把握すれば、悩んでいる人や家族に伝え、打破するための方策を共に考えることができるようになります。つまり臨床的に応用が広い可能な現象であります。
私は悩んでいる人のないかいや家族の中で起こっているこの悪循環を治療の最初の目標として取り上げます。そしてその悪循環の打破だけで、治療を終結できる症例も少なからずあります。悩んでいる本人も、家族もメンタルヘルスの専門家も知ってほしい現象です。
【親子療法引きこもりを救う 著 北西憲二 講談社】