「そういえば、あいつクラミジアにかかったらしいよ!」
じめじめとする夏の夜。いつもと変わらない飲み会の最中、友達が突然声を発した。
"クラミジア"その単語を知らなかったわけじゃない。
じめじめとする夏の夜。いつもと変わらない飲み会の最中、友達が突然声を発した。
"クラミジア"その単語を知らなかったわけじゃない。
保健体育の教科書でちらっと載っているし、というか、ある程度性交渉を持つ同年代の男女の中ではたまに話題に上がるのもあってフランクな印象が強かった。
「誰から性病貰ったんだよ」
「よく遊んでるもんなー」
ヘラヘラとした笑い声に似つかわしくない話題は少しばかりの盛り上がりを見せる。
「ちゃんと検査行ったのかな、誰か言ってあげなよ」
私も他人事のような言葉を投げるも、次から次へと移り変わる他愛ない会話とアルコールによる酔いで、まるでその単語を気に留めることもなく夜は更けていった。
(遊ぶなら、セックスするなら、)
(ちゃんと守るところ守ってやればいいのに)
(馬鹿だなあ)
自分自身、性についての知識が無いわけじゃないという自負はあった。 小学校低学年から図書の時間に性教育本を「必要な知識」として読んでいたし、何より性に関する記事を書く身として人並み以上に学んでいる事実もある。
「よく遊んでるもんなー」
ヘラヘラとした笑い声に似つかわしくない話題は少しばかりの盛り上がりを見せる。
「ちゃんと検査行ったのかな、誰か言ってあげなよ」
私も他人事のような言葉を投げるも、次から次へと移り変わる他愛ない会話とアルコールによる酔いで、まるでその単語を気に留めることもなく夜は更けていった。
(遊ぶなら、セックスするなら、)
(ちゃんと守るところ守ってやればいいのに)
(馬鹿だなあ)
自分自身、性についての知識が無いわけじゃないという自負はあった。 小学校低学年から図書の時間に性教育本を「必要な知識」として読んでいたし、何より性に関する記事を書く身として人並み以上に学んでいる事実もある。
それこそ、人によっては行くことすら躊躇する婦人科にも定期通院していた。これだけ書くと堅い印象を抱かれがちだけど、月経によるPMS(月経前症候群)が酷すぎて低用量ピルを処方してもらうためだけ。ただそれだけのことだ。
本格的な秋になり始めたある日も、いつもと同じように二か月分のピルを処方してもらうため掛かりつけの婦人科に足を運んだ。予定と予定の間での通院。若干、時間も押していた。
そんな時に限って、処方に関する話が終わると担当医は投げかけてきた。
「ねえ、前回伝えてた検査、やりましょうよ」
前回伝えてた検査…ゆっくりと二か月前の記憶を辿っていると、担当医は続ける。
「子宮頸がんと淋菌とクラミジアの検査のこと、覚えてない?」
ああ、確かにそんなことを言われていたような気もした。チラッとiPhoneを見ると次の予定の時間が刻々と迫っている。
(面倒くさいなあ)
正直、婦人科で行われる検査が好きじゃなかった。何て言ったって、潤滑剤も何もない状態で腟内にひんやりとした器具を挿入される、一種の拷問に近い内容だ。好きな人がいるわけない。
困惑を隠せない私に呆れと心配を混ぜたような顔の担当医は、諭すようなトーンでこう付け加える。
「あなたは今、特定のパートナーはいないでしょ?」
「ここ数か月の間で複数の男性と関係を持ったなら特に受けたほうがいいわよ」
担当医に診てもらい始めてから、早一年以上が経っていた。
「婦人科はここ以外行きたくない」と思わせてくれるほどの信頼を置いているのは間違いなく、とても親身に接してくれる彼女をお母さんのようだと思う気持ちすらある。
「すぐ終わるから」
「…うーん」
悩む間もiPhoneに表示されている時間は止まってくれない。
自治体で行う子宮頸がん検査をすっかり忘れていて、今まで一度も検査を受けたことは無かった。無論、性病検査もまた然り。
「じゃあ、お願いします」
担当医は「えらいわね」と満足そうに笑った。看護師さんが私を別室へと案内する。「まずは子宮頸がんの検査からです」看護師さんの指示を受け、静かにショーツを下ろした。
(ああ、)
(女ってなんて面倒くさいんだ)
意味もなく自分の性別を恨みながら、まるでロボットのコックピットのような椅子に腰を掛ける。何度座っても、憂鬱さが変わることはなかった。
アラームが鳴る。通っている学校も職場もない私の起床時間は、日によってまちまちで、特に早い時間からの予定が無い日はアラームを掛けることはない。最大音量を発するiPhoneに手を伸ばすが、不思議なことに昨晩はアラームを掛けていなかったはずだ。
どうやら記憶は間違っていなかったらしく、その大きな音の正体は03から始まる電話番号だった。起きなくてもよかった時間に起こされ、不機嫌になりつつも受話ボタンを押す。
「…もしもし」
「こちらマドカさんのお電話でお間違いないでしょうか?」
「はい」
名乗られたのは、つい数日前に検査を行った婦人科だった。電話の主は淡々とした機械のようなトーンで、そのトーンに似つかわしくない言葉を並べた。
「先日の検査結果が出ました」
「お知らせをしなければいけない内容ですので、どうぞ早めにご来院ください」
「あ、はい」
「予約しますか?」の質問にどう答えたかよく分からない。何故なら、"オシラセヲシナケレバイケナイナイヨウ"に頭がぐるぐると掻き乱されていたからだ。なんだそれ、私どこか悪いの?病気なの?電話の切れたディスプレイをボーっと眺める。思考を落ち着かせようとする一方で、じんわりとした恐怖と不安が身体を包んでいることを何とか無視したかった。
「…どれだ」
今回の検査は、子宮頸がん・淋菌・クラミジアの三種類でこの三つのどれかの疑いがあるらしい。すぐさま淋菌とクラミジアの症状をGoogleで調べる。チェック項目をざっと読んでも、これといってピンとくるものは無い。それにこの約一か月間は異性と関係を持っていなかった。
「となると、子宮頸がん…なの」
さっきまでのじんわりとした恐怖と不安が一変し、強い雷が落ちたような、深い海に溺れるような、自分ではどうしようもできない恐怖と不安になって襲い掛かってきた。検索欄に"子宮頸がん"と打ち込んだ。出てきたページを読んでいく。秋晴れの天気とは裏腹に私の脳内では嵐が吹き荒れていた。
産まれてから二十二年、親がびっくりするほど大きな病気も怪我もなく、持病と言ってもコントロール出来る程度のアトピー性皮膚炎のみ。そんな人間がいきなり、自分も周りも知っているような病気の可能性に直面するとどうなるか。
前回伝えてた検査…ゆっくりと二か月前の記憶を辿っていると、担当医は続ける。
「子宮頸がんと淋菌とクラミジアの検査のこと、覚えてない?」
ああ、確かにそんなことを言われていたような気もした。チラッとiPhoneを見ると次の予定の時間が刻々と迫っている。
(面倒くさいなあ)
正直、婦人科で行われる検査が好きじゃなかった。何て言ったって、潤滑剤も何もない状態で腟内にひんやりとした器具を挿入される、一種の拷問に近い内容だ。好きな人がいるわけない。
困惑を隠せない私に呆れと心配を混ぜたような顔の担当医は、諭すようなトーンでこう付け加える。
「あなたは今、特定のパートナーはいないでしょ?」
「ここ数か月の間で複数の男性と関係を持ったなら特に受けたほうがいいわよ」
担当医に診てもらい始めてから、早一年以上が経っていた。
「婦人科はここ以外行きたくない」と思わせてくれるほどの信頼を置いているのは間違いなく、とても親身に接してくれる彼女をお母さんのようだと思う気持ちすらある。
「すぐ終わるから」
「…うーん」
悩む間もiPhoneに表示されている時間は止まってくれない。
自治体で行う子宮頸がん検査をすっかり忘れていて、今まで一度も検査を受けたことは無かった。無論、性病検査もまた然り。
「じゃあ、お願いします」
担当医は「えらいわね」と満足そうに笑った。看護師さんが私を別室へと案内する。「まずは子宮頸がんの検査からです」看護師さんの指示を受け、静かにショーツを下ろした。
(ああ、)
(女ってなんて面倒くさいんだ)
意味もなく自分の性別を恨みながら、まるでロボットのコックピットのような椅子に腰を掛ける。何度座っても、憂鬱さが変わることはなかった。
アラームが鳴る。通っている学校も職場もない私の起床時間は、日によってまちまちで、特に早い時間からの予定が無い日はアラームを掛けることはない。最大音量を発するiPhoneに手を伸ばすが、不思議なことに昨晩はアラームを掛けていなかったはずだ。
どうやら記憶は間違っていなかったらしく、その大きな音の正体は03から始まる電話番号だった。起きなくてもよかった時間に起こされ、不機嫌になりつつも受話ボタンを押す。
「…もしもし」
「こちらマドカさんのお電話でお間違いないでしょうか?」
「はい」
名乗られたのは、つい数日前に検査を行った婦人科だった。電話の主は淡々とした機械のようなトーンで、そのトーンに似つかわしくない言葉を並べた。
「先日の検査結果が出ました」
「お知らせをしなければいけない内容ですので、どうぞ早めにご来院ください」
「あ、はい」
「予約しますか?」の質問にどう答えたかよく分からない。何故なら、"オシラセヲシナケレバイケナイナイヨウ"に頭がぐるぐると掻き乱されていたからだ。なんだそれ、私どこか悪いの?病気なの?電話の切れたディスプレイをボーっと眺める。思考を落ち着かせようとする一方で、じんわりとした恐怖と不安が身体を包んでいることを何とか無視したかった。
「…どれだ」
今回の検査は、子宮頸がん・淋菌・クラミジアの三種類でこの三つのどれかの疑いがあるらしい。すぐさま淋菌とクラミジアの症状をGoogleで調べる。チェック項目をざっと読んでも、これといってピンとくるものは無い。それにこの約一か月間は異性と関係を持っていなかった。
「となると、子宮頸がん…なの」
さっきまでのじんわりとした恐怖と不安が一変し、強い雷が落ちたような、深い海に溺れるような、自分ではどうしようもできない恐怖と不安になって襲い掛かってきた。検索欄に"子宮頸がん"と打ち込んだ。出てきたページを読んでいく。秋晴れの天気とは裏腹に私の脳内では嵐が吹き荒れていた。
産まれてから二十二年、親がびっくりするほど大きな病気も怪我もなく、持病と言ってもコントロール出来る程度のアトピー性皮膚炎のみ。そんな人間がいきなり、自分も周りも知っているような病気の可能性に直面するとどうなるか。
とんでもなく、怖い。
婦人科への通院は三日後に予約を取った。大きな病気を患った人が最期まで黙っていたなんて話を耳にしたことはあるけど、この時に悟った。私には絶対無理だ、と。経験したことのない、得体の知れない恐怖を一人で抱えられるほど強くなかった。
『まあ、珍しい話ではない』
『そうなの?』
『うん、周りにも何人かいた』
『しかも仮にそうだとしても、初期だと思うから経過観察だね』
仕事のことから何から何まで相談に乗ってもらっている先輩にだけLINEで伝えると、想像以上に前向きな返事が返ってきた。『とにかく検査結果を聞いてからだよ』確かにその通りだ。
先輩からの言葉に少しホッとし、大人しく通院日を待った。けど、検査結果を聞きに行くまでの三日間は、近年稀に経験する最悪な時間の一つだったことは間違いない。
ようやく来た通院日。心なしか緊張している。(もしこれで子宮頸がんだったら…)考えても仕方ないことは分かっている。でも、最悪の状況だけが頭に浮かび、離れてくれない。婦人科への足取りは鉛がついたように重かった。
「さて、こないだの検査結果についてね」
気落ちしている私とは対照的にいつもと変わらない明るさと落ち着きを併せ持つ担当医が口を開いた。来るのか、"シキュウケイガン"という響きが。覚悟して、伝えられるであろう言葉を想像した。
「子宮頸がんは陰性です」
(え)
「淋菌も陰性です」
(は)
「ただ、クラミジアの陽性反応が出ました」
(ちょっと待って)
「…クラミジアなんですか、私?」
「そうね。なので薬を飲んでもらって、今日から二週間は一切の粘膜接触が禁止」
クラミジア。飲み会での会話を思い出した。他人の話なら、「よくあるよね」で済まされる筈なのに自分の事となると話は違う。まさか自分が感染するなんて夢にも思っていなかったし、鈍器で頭を強く打たれたような感覚に陥った。
「クラミジアは二人に一人が感染する可能性があって、潜伏期間が二週間と短いのよ」
「マドカさんが誰かから感染させられたかもしれないし、感染させたかもしれない」
担当医の丁寧な説明を聞きつつも、衝撃に上手く思考が回らない。思い返してみれば、オリモノの匂いに違和感を覚えることもあった。だとしても、免疫力が低下しただけだと思っていたし、そう安易に捉えていた自分の浅はかさが恥ずかしかった。
「特定のパートナーでなくても、この数か月で関係を持った人はいたのよね?」
「…はい、何人か」
「それなら二択です。その人たち全員と縁を切るか」
「世界平和のためにも、カミングアウトして全員に検査を受けさせるかよ」
思わず目を見開いてしまった。ヒーロー作品などで主人公がいきなり世界を救う使命を授かる時の気持ちはこうなのかもしれない。担当医が私の性分を知っているか否かは別として、まさか婦人科で「世界平和のためにも」なんて表現を聞くとは夢にも思っていなかった。ただ、担当医はいつにも増して、真剣な顔をして私を見つめている。
「あなたはたまたま検査を受けて治療できるけど、感染した相手がまた別の人と行為をすることでどんどん広がっていく」
「特に女性は自覚症状が殆どなくて、悪化すると不妊の原因にもなりかねない」
"不妊"の単語に唾を飲み込む。この数カ月で関係を持った男性は全員もう関係を持っていなかったし、持つつもりも無い。言ってしまえば、その人たちが誰と性行為をしようが私には一切関係のないことだ。けれど、仮に私が原因で見知らぬ女性が不幸になるのは訳が違う。
"世界平和のためにも" "間接的な人助け"
「先生、分かりました」
"自分の責任は自分で果たす"
「私、カミングアウトします」
「世界平和にほんの少しだけでも貢献します」
意識高く宣言はしたものの、カミングアウトを行えないまま数日が経った。いつもTwitterで偉そうに意見を主張している身分なのに、一個人へはあと一歩勇気が出ない。もっと言えば、クラミジアに感染していた現実を受け入れられていない自分もいた。
「よくない、これ以上先延ばしするのはよくない」
独り言を呟いては送れずを繰り返し、また日が進む。自分が感染者になって強く感じたのは、性病…いや、性感染症を患ったことに対する後ろめたさだ。病気であるし、誰しもが感染する可能性がある。なのにも関わらず、閉鎖的で差別的なイメージが強い。脳内は毎日のようにそれら理性と「カミングアウトして酷い返事が来たらどうしよう」という感情がバトルを繰り広げていた。
そして、理性と使命感が勝利を収めた。
「埒が明かない!!!!!こんなの私らしくない!!!!!!!」
決意してからの行動は自分でも驚くほど早かった。比較的交流のある人にはダイレクトに、そうじゃない人にはテキスト・電話・直接会うの三択を組み込んだ文章を作り、思い当たる六人にLINEでメッセージを送る。これでどう思われても仕方ない、大事なのは行動したことだ。そう言い聞かせながらも、心臓の音がうるさい。
外国に行っている一人と不仲な一人、仕事中と思われる一人を除いた三人は送信後すぐに既読を付けた。三人とも想像していた反応とは真逆な誠意ある対応をしてくれたので、電車の中で泣きそうになってしまった。
後からもう一人から返信があり、夜中には外国にいる人からも返信が。しかも、外国にいる人は定期検査を受けていて、日本を出国する前に感染が判明し、既に治療を終わらせていたとのこと。カミングアウトから性のリテラシー問題の話に花が開き、より一層一人の人としてとしてさらに好きになった瞬間だった。
カミングアウトから一日が経つも、残りの一人から連絡が一向に来ない。他の五人と違って、不仲で連絡すらろくに取り合っていない人だった。連絡が来ないまま二日が経ち、「もしかするとLINEはブロックされているのでは?」という疑問を抱いた。電話番号も知らない。だとすれば、唯一の手段はFBのmessengerのみ。カミングアウトに躊躇していた私はもうそこにはいなかった。
(嫌われていようが、蔑ろにされていようが)
(これは私とあなただけの問題じゃないんだよ!!!!!!!)
messengerに同様のメッセージを送ると、拍子抜けするほどすぐに返信が来た。喜んだのも束の間。一番会いたくない人に限って、直接会うことを選択してきたのだ。不仲で数か月ぶりに会う人にクラミジア感染をカミングアウトする。拷問めいた三拍子に頭を抱えずにはいられなかったが、自分が与えた選択肢に入っている以上「No」とは言えなかった。言いたくなかった。
(嫌われていようが、蔑ろにされていようが)
(これは私とあなただけの問題じゃないんだよ!!!!!!!)
messengerに同様のメッセージを送ると、拍子抜けするほどすぐに返信が来た。喜んだのも束の間。一番会いたくない人に限って、直接会うことを選択してきたのだ。不仲で数か月ぶりに会う人にクラミジア感染をカミングアウトする。拷問めいた三拍子に頭を抱えずにはいられなかったが、自分が与えた選択肢に入っている以上「No」とは言えなかった。言いたくなかった。
次の日。彼が何を察したのかは知らないが、全室完全個室のお店を指定されていた。先に到着しているという連絡が来ていたので、さながらダース・ベイダ―に立ち向かいに行くジェダイのような心持ちでお店へ入る。通された部屋に入れば、最後の一人が真正面に座っていた。
「久しぶり」
「…お久しぶりです」
お互い探り探りな視線が交じり合う。運ばれてきたビールで潤った喉も一瞬で乾く。
「んで、何があったの」
先攻は彼だった。真剣とも、冷たいとも捉えられる表情で私に投げかける。メッセージで伝えるのと、直接伝えるのとではハードルの高さが深海と天ほどの違いがあることにそこでようやく気付いた。(言わなきゃいけない、言うためにここに来た)心の中でそう言い聞かせ、彼の目を見つめる。
「実はですね、この前、子宮頸がんと淋菌、クラミジアの検査を受けました」
「結論から言うと、クラミジアが陽性でした」
「そうだったんだ」
「時期的にあなたに感染させたかもしれないし、感染させられたかもしれません」
「なので…一度検査に行ってください」
最後の言葉の後に自然と頭を下げていた。ゆっくりと頭を上げ、何かを考えているかのように頷きながらビールに口を付ける彼の姿が目に入る。トンッ。ジョッキをテーブルに置く音が一段と大きく聞こえた。
「体調は大丈夫なの?」
「うん、平気」
心なしかさっきよりも柔らかくなった表情での気遣いにようやく緊張が解けた。
「わざわざ伝えてくれてありがとう」
「犯罪にでも巻き込まれたかと思ってたよ」
「検査ちゃんと行くね」
そこからは他愛のない会話が始まり、結局終電近くまで世間話が続いた。カミングアウトによって、疎遠で不仲だった人との仲まで修復できるなんて…最後の一人にまできちんと伝えられたこともあって、確かな達成感としっかりと対応してくれた六人への感謝が生まれていた。
「検査を受けたら連絡するよ。社会人として報告は大事だからね」
「よろしくお願いします!」
頼もしい言葉を土産に清々しい気持ちで帰路に着く。これにて、「世界平和のためにも」から始まった私のカミングアウトは無事終了したのだ。検査結果を告知された時の衝撃と恐怖や戸惑いは、身体が震えるほどの安堵に変わっていた。
後日、検査を受けたかの再確認をしたところ、既に検査済みの一人以外で「受けた」の返信をくれたのは四人。
「久しぶり」
「…お久しぶりです」
お互い探り探りな視線が交じり合う。運ばれてきたビールで潤った喉も一瞬で乾く。
「んで、何があったの」
先攻は彼だった。真剣とも、冷たいとも捉えられる表情で私に投げかける。メッセージで伝えるのと、直接伝えるのとではハードルの高さが深海と天ほどの違いがあることにそこでようやく気付いた。(言わなきゃいけない、言うためにここに来た)心の中でそう言い聞かせ、彼の目を見つめる。
「実はですね、この前、子宮頸がんと淋菌、クラミジアの検査を受けました」
「結論から言うと、クラミジアが陽性でした」
「そうだったんだ」
「時期的にあなたに感染させたかもしれないし、感染させられたかもしれません」
「なので…一度検査に行ってください」
最後の言葉の後に自然と頭を下げていた。ゆっくりと頭を上げ、何かを考えているかのように頷きながらビールに口を付ける彼の姿が目に入る。トンッ。ジョッキをテーブルに置く音が一段と大きく聞こえた。
「体調は大丈夫なの?」
「うん、平気」
心なしかさっきよりも柔らかくなった表情での気遣いにようやく緊張が解けた。
「わざわざ伝えてくれてありがとう」
「犯罪にでも巻き込まれたかと思ってたよ」
「検査ちゃんと行くね」
そこからは他愛のない会話が始まり、結局終電近くまで世間話が続いた。カミングアウトによって、疎遠で不仲だった人との仲まで修復できるなんて…最後の一人にまできちんと伝えられたこともあって、確かな達成感としっかりと対応してくれた六人への感謝が生まれていた。
「検査を受けたら連絡するよ。社会人として報告は大事だからね」
「よろしくお願いします!」
頼もしい言葉を土産に清々しい気持ちで帰路に着く。これにて、「世界平和のためにも」から始まった私のカミングアウトは無事終了したのだ。検査結果を告知された時の衝撃と恐怖や戸惑いは、身体が震えるほどの安堵に変わっていた。
後日、検査を受けたかの再確認をしたところ、既に検査済みの一人以外で「受けた」の返信をくれたのは四人。
唯一返信が無かったのは、頼もしい言葉をくれた最後の一人だった。
あなたは人と真摯に向き合っていますか?
あなたは性と真摯に向き合っていますか?
生きることと、真摯に向き合っていますか?
今回の件で私は、自分が"性"を扱っている者として、いかに無知だったかを自覚しました。"性"の知識を学ぶことは、"生きること"を学ぶことと同じです。
だからといって、性行為をしない・特定のパートナー以外としないなどではなく、誰にでもそこから及ぶリスク…性感染症のリスクがあることを知っておかなければいけません。
リスクを回避する上で重要になるのは、性感染症の定期検査。しかし、現状は病院での検査は高額であるというイメージを抱かれていたり、保健所での検査は時間が限られていたりするなどの問題があるのも事実です。
それらの問題に一役買うのが、
あなたは人と真摯に向き合っていますか?
あなたは性と真摯に向き合っていますか?
生きることと、真摯に向き合っていますか?
今回の件で私は、自分が"性"を扱っている者として、いかに無知だったかを自覚しました。"性"の知識を学ぶことは、"生きること"を学ぶことと同じです。
だからといって、性行為をしない・特定のパートナー以外としないなどではなく、誰にでもそこから及ぶリスク…性感染症のリスクがあることを知っておかなければいけません。
リスクを回避する上で重要になるのは、性感染症の定期検査。しかし、現状は病院での検査は高額であるというイメージを抱かれていたり、保健所での検査は時間が限られていたりするなどの問題があるのも事実です。
それらの問題に一役買うのが、
『STD研究所の郵送検査キットSTDチェッカー』
私自身もそうだったように、性感染症は自覚症状が無いことも多く、あっても分かりにくい。 「検査に興味はあるけど、踏み切れない」そういった方々をサポートします。
早期発見・治療の補助として。
ただし、症状がある方は早めの受診を。
匿名で郵送するだけで検査結果が分かり、陽性の場合、全国4万件の医療機関から受診先を探すことが可能。また希望すれば、個別で医療機関への案内も。
あなたを守ることは、他の誰かを守ること。
あなたが愛する人を守ることは、誰かが愛する人を守ること。
性行為は、一人でしませんよね?
クラミジア(性器クラミジア感染症)の詳しい解説はこちら。
マドカ・ジャスミン
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