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 あるアパートで二人の男が酒を飲んでいた。一人は宮大進、一人は清水健太といった。二人は市内の食品工場で契約社員として働いていた。二人は週末の仕事終わりにビールを買い込んで宮大の部屋で夜通し飲んでいた。夜空には月とオリオン座が光り輝いていた。
 宮大の部屋はアパートの2階だった。宮大は独り暮らしだった。宮大は高校は卒業したが大学受験に失敗し、就職も叶わず、仕方なしに市内の食品工場で契約社員として働いていた。清水も同じであった。清水は気楽な男だったが、宮大は軽度の神経症を患っていた。宮大の両親は彼の大学進学を希望したが彼はそれを断った。両親の重圧から逃れるため市内の安アパートで独り暮らしを始めた。気弱な宮大にとって気楽屋の清水と共に酒を飲む時間は至福であった。気楽屋の清水は艶福な男であった。内気な宮大とは対称的であった。宮大は清水のいい加減さが好きであった。生真面目で内向的な宮大にとって清水は自分の気持ちを代弁してくれるような頼りがいのある男であった。今夜の宮大は艶福家の清水に相談があった。それは心療内科での主治医、村上あゆみについてのことであった。
「で、なんだよ、話しって?」
 清水が切り出した。清水は結婚願望のない男であったので恋愛や交際について悩むということがなかった。むしろ二十歳を過ぎて恋愛経験のない宮大に呆れていた。宮大は迷っていたが、缶ビールを2本も飲むと、ようやく重い口を開いた。
「村上先生とデートしたいんだ」
 言った瞬間、宮大は自分の発言を恥じた。下を向いているしかなかった。宮大は恥ずかしかった。そもそも、艶福家の清水に相談することではなかった。清水は悠々と複数の女性との交際を楽しんでいるが、それは決して尊敬できることではなかった。宮大は結婚願望はあるが、22歳にして未だ交際経験がなかった。そして、主治医である村上あゆみとの関係は大切にしたかった。宮大にとってのあゆみは天使とか女神とかのような、決して汚したくはない大切な存在であった。それを先の一言で艶福家の清水に知られてしまったことを悔いた。
「昼飯にでも誘えば?」
「うん。先生と予定合わせてクリスマス休暇を取ったんだ」
「そんな深い仲なん?」
「うん。そろそろいいかなって」
「初めての夜がクリスマス・イブか。なんかドラマみたいだな」
 それが清水の答えであった。いつのまにか、夜が明けていた。
 翌日。朝まで飲んでそのまま寝てしまった宮大は、朦朧としながらシャワーを浴びていた。清水は先に浴びて着替えを済ましてテレビを観ていた。宮大は熱いシャワーを浴びながら村上あゆみのことを考えていた。宮大とあゆみは知り合って3年ほどになるが、二人の関係はもはやカウンセリングではなく恋愛にほかならなかった。カウンセリングを通じて好意を持ったというよりは、互いに好意を持ちながらカウンセリングをしていた仲であった。宮大の緊張は究極に達していた。熱いシャワーが全身に染み込むほどに宮大のボルテージは上がっていった。
 村上あゆみはパープルが好きであった。宮大はあゆみとの食事の際にパープルのダウンジャケットを着ていこうと決めた。上着の色が決まったところで宮大はシャワーを止めた。宮大は体を拭きながら、あゆみと過ごす夜を想像せずにはいられないでいた。宮大の緊張は更に高まり、部屋に清水がいることを完全に忘れてしまっていた。
「おい、早くメシ買いに行こうぜ」
「あ、ごめん。いまいく」
 宮大はそそくさと支度を始めた。
 いつのまにか、季節はクリスマスになっていた。宮大進と村上あゆみは3日間のクリスマス休暇を取り、二人で過ごすことにした。宮大のアパートには冷蔵庫とテレビしかないので、宮大があゆみの部屋に泊まることになった。二人はクリスマスの飾りや料理の材料などを市内のショッピングモールで揃えることにした。宮大が約束の時間にあゆみの部屋を訪れるとあゆみは快く宮大を部屋に招き入れた。村上あゆみの洗髪したての黒髪から香る甘美な誘惑が宮大を包み込むように部屋の奥へと誘い込み、引き込むようにして部屋の扉が閉められた。あゆみはこの日が来るのを待ちわびていたかのように宮大が荷物を置くのもかまわず宮大を激しく熱く抱き締めた。あゆみの抱擁が宮大の運命を縛るかのように二人は抱き合った。
 初雪が二人の夜を包んだ。