俺は千駄木は団子坂に当時あったレストランでバイトをしていた。
きっかけは地元本八幡にあった歯医者に通ったことに遡る。
俺が通った高校は白山にあった私立で
受験勉強なんてやらないでギターばかり弾いていたものだから
公立の滑り止めで受けたその高校がそのまま受け皿になった。
そんなわけで私立だから親は余計な金を払うことになり
地元から1時間くらいかけて
1人文京区にあるその私立高校に通ったわけだ。
で、話を戻すと
地元に戻ったその足で
その歯医者で治療を受けていると
その先生は俺の制服に気づいて
「五味くん○○高校?」と話しかけてきたのが高校3年のはじめ頃。
卒業後はそのままメタルなロン毛になるわけだけど
まだその時点ではちょい長いくらいだったのだろう。
その先生は
奥さんが千駄木にオープンさせるレストランで俺をバイトさせようとスカウトしてきた。
お店は当時のその界隈には似つかわない造りで
重厚なグレーの大理石の床
グランドピアノを大胆にカットしカウンターとドッキングさせたカウンターバー
個室もひと部屋あり
テラス席もあった。
料理はフレンチをベースにしながらも
鉄板焼きスペースで本格的な肉料理や帆立や海老や鮑も味わえ
チーズフォンデュにヒントを得たオイルフォンデュなどもあり
とにかく素敵な店だったのだが
当時の場所柄からすると斬新すぎて
土日以外はほとんど客も来ないで
漫画を読むか
先生とマダム(奥さん)の子供たちと遊んでいるかだった。
その2年半で俺はプライベートでは見事なメタル仕様のルックスになっていくのだが
そんな素敵なお店には似合わないロン毛化していく俺を受け入れてくれ
ライブがあるとなればチケットを20枚とか購入してくれたり
父親が亡くなった時も葬儀に参列してくれたり
マダムと2人で何かと心配してくれていた。
店はマンションの中1階の半分を使い
残りの半分と
2F丸々が先生の自宅であったのだが
斬新すぎたその店は
俺がバイトをやめてしばらくしてちがう店へと変わってしまった。
その10年後に
歯の治療を再び受けたり
変わった店に遊びにいったりもしたが
それからまた20年近くが経とうしている。
谷中はテレビなどでも度々取り上げられて
小道に入れば昔のままの顔を残しつつ
街自体が変わりながらも
活気にあふれていた。
先生、マダム、ご子息たちは
ご健在なのだろうか。
今度はじっくり寄ってみたい。
街の変化を感じ
活気を感じながらも
時間の経過も感じ
人生はやはり短いのだと思った。
ただ寂しさよりも
だから人生を楽しまなければと
相変わらずに思うのである。
作品を残すこと、人生を楽しむこと
有限だからこそ楽しむ。