小説 
金星の守護神 
アフロディーテ、またの名を
ヴィーナス。〜美と愛と性の女神〜

Part3

ギリシャ神話のお話をそのまま現代版にして書いてみました。


主な登場人物

アフロディーテ またの名をヴィーナス
金星
星の神話では、恋愛や金運、女性をあらわす星
守護神   愛と美の女神アフロディーテ   
ローマ読みで、ヴィーナス
オリュンポス12神のひとり

アレス
火星
星の神話では、行動、男性をあらわす星
守護神  軍神   アレース  アレス
オリュンポス12神のひとり

ヘーパイストス
鍛冶の神
アフロディーテと結婚した神
オリュンポス12神のひとり

ゼウスまたの名をジュピター
木星
全宇宙の神 雷を持ち神の中でも絶大の力
オリュンポス12神のひとり

ヘラ
女神ヘーラー
最高位の女神   ゼウスの妻






ヴィーナスとアレスとの馴れ初めは、ギリシャのエーゲ海である。日差しが眩しく、太陽が波間に銀色に輝いていた。青い海の砂浜にアレスが横たわっていると、突然、風が吹き抜け、すると、海の中から、美しい女が白い波間を背にしてあらわれた。女の、その真珠のような美しさは、女神そのものであった。
「やあ。こんにちは。海の中から、美しい女神があわれて、びっくりしたよ。」
そう言って、まだ15歳になったばかりのアレスは、弾けるように笑った。女は、青年のアレスを黙って見つめていた。
「君は、もしかして、オリュンポスの屋敷に養女になったアフロディーテかい?」
アレスが訪ねると、彼女はうなずいた。そして、
「あらもう、こんな時間。太陽が真上にあがっているわ。」
そう言うと、彼女は、銀色の太陽、青い海、白い波間を背にして、砂浜の陸へと歩いてきた。彼女が歩くと、花の香りが一面にひろがりるように、波の音と調和して、甘く美しく、華やかに舞った。一瞬にして、春が訪れたようであった。
「アフロディーテ。君は女神のようだ。」
アレスが彼女を呼びとめた。アフロディーテは立ちどまって
「私ね、美と愛と性の女神なのよ。アフロディーテ。ヴィーナスって呼ばれているわ。よろしくね。」
そう言い残して、屋敷へとむかって行った。
「ヴィーナス。美と愛と性の女神。アフロディーテ…。」
アレスは、彼女の残り香を、胸いっぱいに吸い込んで、青く、美しいエーゲ海を眺めていた。



アレスとヘーパイストスとは、従兄弟であった。ヘーパイストスは、容姿の醜さに、母親のヘラに嫌悪され、生まれて間もなく親戚の家で育てられていたが、10歳になる頃に、育ての親が亡くなったため、オリュンポスの岩屋の屋敷に帰ってきた。しかし、オリュンポスの本当の両親には完全に疎外されていた。ヘーパイストスは、いつも暗い奥の間で一人孤独に、ひっそりと暮らしていた。いっぽうアレスは、ローマの軍人の血筋を持ち、黒髪の美男子であった。成長するにつれて、戦を好み、均整のとれた美しい肉体と、爽やかで浅黒いマスク。ヘラもゼウスも我が子以上にアレスを可愛がった。何かにつけて、ローマからアレスを呼び寄せては、何かとアレスの世話をして、アレスの欲しがるものは何でも与え、特に母親は、過保護といっていいぐらいにアレスを溺愛し、ギリシャ中の皆にアレスを自慢していた。ギリシャでは珍しい、一流名家のローマ軍人の血筋、均整のとれた逞しく美しい肉体、爽やかな甘いマスクのアレス。いつしかアレスはオリュンポス中、否、ギリシャ中で軍神の若き神聖と称えられていた。
「アレス。あなたは、私の最愛の息子です。私は、あなたを世界一の軍人にしてさしあげますわ。」
ヘラは、アレスにいつもそう言っていた。
「ありがとうございます。お母様。」
ヘラにそう言われると、アレスは決まって礼を言い、ヘラの手の甲を手に取ると、優しくキスをした。



アレスは、エーゲ海の海辺で出会った時から、ヴィーナスに恋をしていた。しかし、花の雫のような美しい姿に恋焦がれてはいたが、ヘラに気をつかい、自分の心は隠し通していた。ヴィーナスも、海辺でアレスと出会った時から、彼の均整のとれた肉体、若く頼もしい姿に惹かれていたが、自分は養女の身であるため、母親のお気に入りのアレスに恋することなど許される筈がなかった。しかし、2人はエーゲ海のオリュンポス山の岩屋の屋敷で、互いを見つめ合っては、熱い視線を交わしていた。
「ヴィーナス。君のために野ばらを摘んできたよ。」
アレスは、ヴィーナスに美しい花を贈り、
「アレス。あなたに私の貝殻を差し上げますわ。」
ヴィーナスは、アレスのお守りに、自分の髪に着けていた帆立の貝殻を贈った。2人の熱い視線は、日ごとにつのり、互いに胸を高鳴らせていたが、その熱い想いは、誰も知るところはなかった。そんな矢先に、ヘーパイストスが騒ぎを起こす。母親のヘラに黄金と宝石の機械仕掛けの椅子を贈り、ヘラを機械仕掛けの椅子で拘束し、解放する代わりにヴィーナスとの結婚を要求したのだ。ヘラはヘーパイストスとの結婚を、あっけなく承諾してしまう。涙にくれたヴィーナスだったが、アレスとは、叶わぬ恋とわかっていた。強大な権力を持つ弟にも、決して逆らえる立場ではなかった。
「ヴィーナス。かわいそうなアフロディーテ。なんて、かわいそうなんだ。」
アレスの浅黒く引き締まった頬に、涙が落ちた。
「ああ。アレス。私はいったいどうなってしまうのでしょう。」
ヴィーナスの真珠のように透きとおった肌に、花のような涙の雫が流れた。
2人はお互いの瞳に涙を流し、沈黙のまま時を過ごすのだった。


つづく。



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