小説 
金星の守護神 
アフロディーテ、またの名を
ヴィーナス。〜美と愛と性の女神〜

Part2

ギリシャ神話のお話をそのまま現代版にして書いてみました。




主な登場人物

アフロディーテ またの名をヴィーナス
金星
星の神話では、恋愛や金運、女性をあらわす星
守護神   愛と美の女神アフロディーテ   
ローマ読みで、ヴィーナス
オリュンポス12神のひとり

アレス
火星
星の神話では、行動、男性をあらわす星
守護神  軍神   アレース  アレス
オリュンポス12神のひとり

ヘーパイストス
鍛冶の神
アフロディーテと結婚した神
オリュンポス12神のひとり
パンドラの箱をつくった

ゼウス  またの名をジュピター
木星
全宇宙の神 雷を持ち神の中でも絶大の力
オリュンポス12神のひとり

ヘラ
女神ヘーラー
最高位の女神   ゼウスの妻









「ヴィーナス。どうしたんだい?」
ヴィーナスの夫へーパイストスは、戸惑いながらも、妻の花の雫を舐めるように眺めていた。しかし、妻は微動だにせず、
「今日は、帰宅なさらないかと思っていたわ。」
そう言い放つと、冷たい視線を投げかけて、バスルームのほうへ行ってしまった。ヘーパイストスは、妻の潤んだ蜜のような美しさと、その氷のような冷たい関係に心が乱れたが、気をとりなおして、メイドを呼んだ。
「今日は、食事はいらない。」
そう告げて、外で食事をしようかと思ったが、それもやめて、コニャックを少し呑むことにした。
ヘーパイストスは足が悪い。彼が生まれてすぐに、母親が放り投げてしまい、その時に足を悪くしたと言われてきたが、母親が思わず放り投げてしまうほどに、ヘーパイストスの容姿は醜かった。醜いうえに、生まれてすぐに足を悪くして、引きずって歩く姿は、哀れで、悲惨であった。
しかし、ヘーパイストスは、容姿こそ哀れであったが、エンジニアであり、発明家の才能には秀でていた。自動車、飛行機、鉄道などの機械、重工業の会社を設立して、大成功を収めている。銀色の、あの、彼のエンブレムの自動車を知らない人はいないであろう。彼の会社の自動車は、ハイブリッドエンジン搭載のエコカーの先駆けとして大成功し、近年、飛躍的に売り上げを伸ばしている。また、軍事関連や巨大建設の技術担当としても、各国に彼の作品ともいえる技術を提供している。彼は、様々な国から名誉称号を与えられ、国王の来賓としても絶賛されていた。最近の彼の偉業では、完全な人型の人工知能ロボットを開発しており、その第1号の彼女『パンドラ』は、世界中の注目と希望をあつめていた。



ヘーパイストスとヴィーナスは、政略結婚であった。政略結婚といっても、それは、ヘーパイスト自身が両親に策略をして成し遂げたものである。彼の父親は、かの有名なゼウス、またの名をジュピター。父の権力は絶大なものであったが、そもそも、ヘーパイストスは、自分の容姿を酷く呪う青年に成長し、そして、自分にまったく無関心の両親、特に、母親を酷く恨んでいた。そこでヘーパイストスは、母親ヘラに、黄金とルビー、サファイア、エメラルドを散りばめた、とても豪華な椅子を贈った。ヘラは黄金と宝石の椅子の贈り物をとても喜び、そして座った。すると、椅子がヘラの体を拘束してしまう。黄金と宝石の椅子は、ヘーパイストスの特技、機械仕掛けの椅子であったのだ。ヘラは、慌てて椅子から離れようとしても、どうしても拘束から逃れられない。母親のヘラは、ヘーパイストスに拘束を解くように命じると、彼は偉大な父、ゼウスのコネクションを自分の会社設立に使うことを承諾させる。これは、もちろん事実上のヘーパイストスの社交会デビューであったが、母親ヘラは、醜いヘーパイストスを自分の子と紹介するのをとてもためらった。しかし、身動きが取れず、椅子の拘束から逃れるために渋々承諾したのだ。しかし、ヘーパイストスはなかなかの切れ者である。父のコネクションの口約束だけでは、まだ若い自分の会社設立にはどこかもの足りないと感じた。そして、かねてからのもう1つの願望でもある、父とは血の繋がりのない、美しい父の姉、ヴィーナスことアフロディーテとの結婚を要求したのだ。ヘラは、夫の姉と自分の息子との結婚に戸惑ったが、助かりたい一心であったし、この要求はあっさりと承諾した。こうして、ヘーパイストスは、父の姉、花のように美しく香るヴィーナスをも手に入れたのだ。いっぽうのヴィーナスは、自分を養女に迎えたクロノスが亡きあと、絶大な権力を誇っている弟ゼウスには逆らえなかった。ヴィーナスは、弟であるゼウスの、あの醜い子供と結婚することを承諾したのであった。
「旦那様。奥様は、もうお休みになられますと、お告げです。」
ヴィーナスが自分と顔を合わせないようにするのは、いつものことであった。きっと、この容姿に耐えられないのであろう。彼女は、美しいものを好む。オリュンポスの山の岩屋の屋敷でも、いつも髪をなびかせて、美しい花を抱き寄せていた。彼女は、青いエーゲ海を愛していた。これは、承知の上での結婚である。そう思うと、ヘーパイストスは、コニャックを少し口に含んで、熱い喉を唸らせた。




「だから、そんなに無茶なこと、おっしゃらないで。」
ヴィーナスは、アレスが電話越しにもひどくイラついているのがよくわかっていた。
「だったら、いっそ、今からあの出来損ないの旦那に会ってみようじゃないか!」
「嫌よ。そんなことなさったら、大変なことになりますわ。困りますわ。」
ヴィーナスは、ベットの中で、声を押し殺して、アレスに懇願した。
「ああ。かわいそうなアフロディーテ。」
アレスは、少し落ち着いた様子だったが、まだ、語気があがっていた。
「私はもう、休みます。今日は、ステージもありましたし、私、とにかく、今日は、疲れましたわ。」
ヴィーナスの目には、涙が溢れていた。
「かわいそうなアフロディーテ。ああ。僕は君のものだよ。」
アレスは、逸る心を押さえて囁いた。
「アレス。かわいそうなアレス。私のほうこそ、あなたのものですわ。」
ヴィーナスは、涙で頬を染め
「アレス。愛しい人。」
そう言うと、iPhoneをタップしてベットに横たわった。細い腕と、彼女の滑らかな曲線が、月の明かりに照らされ、妖艶に輝いていた。




つづく。






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