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ーー扉ーー

初秋の夜空はやたらと澄み渡り、心地よい風が吹いている。

夜風に吹かれながらも、考えれば考えるほど残念賞…闇は深くなっていった。


あぁ、体がダルい…起きたくない。
次の朝は最悪な目覚めだった。

見守ってくれていたマネージャーさんの感想に少しばかり期待をしていたが
(ひとり就職試験みたいだった)…と、
ばっさり。(トホホ)

はぁ…モヤっとスイッチがあったらバンバン押しちゃうんだけどなぁ〜

(どうにもならないこの気持ちをどうやって解消したらいいの?ねぇ誰か教えて!)


三人姉妹の真ん中っ子の私は、基本平和主義で、都合の悪いことに直面すると、とても便利な記憶抹消装置が作動してしまう悪いところがあるのだが…

今回はいつもと様子が違っていた。

(あぁ、アイドルになりたかったなぁ。)


数日が経過しても、毎日体の細胞のどこかが訴えていた。

(わたし、こんなネチネチした性格じゃないはず!切り替えなきゃ!)

…ため息しかでない日々で思い出すのは、
緊張しながらも、大好きな歌を歌った時のあの気持ち…

(あれが、いわゆる快感というものなのだろうか。)

脳裏をよぎったのはセーラー服と機関銃のあの名場面名台詞…「か・い・か・ん」。

何を考えても溜息しか出ない。

マネージャーさんが結果はまだだと、私を気遣い続けてくれた。


何日経っただろう…「通過したから…」という連絡をいただいた。


奇跡が起きた…

嬉しい気持ちを通り越し…手放しに喜ぶというよりも…
じわじわとふつふつと…
ヤル気魂が体全体にみなぎる感じがした。


書類、一次、そして二次オーディションまで辿り着いた私に、次なる課題曲が与えられた。


すでに意識は高まり、いつでも出走できる競走馬の心境。

もう走り抜けるしかない…

私は新たな扉を開いて…

ただ真っ直ぐ前だけを見て、ゆっくりと走り出した。

(アンナいきまーす!)

明けの明星が輝いて見えた。

(2016.6.11)



ーー感謝ーー

天からの蜘蛛の糸を掴んだ私…

糸が切れないように、そっと握ってしがみついている…

次の日から再びカラオケ通いが始まった…



審査課題曲は「ありがとう」
朝ドラでお馴染みのいきものがかりの曲だ…

優しく、軽やかに、滑らかに歌うプロの声に、自分も歌えそうな気になるが、
かなり難しい…

特に言葉が簡単なところほど表現することが難しい。

あまりの下手さに…気が遠くなった。



「ぷはぁ〜っ」

お風呂のお湯から顔を上げた私は
気合い十分…に見えるかもしれないけれど…

心の中はワクワクと、ちょっぴりの不安が入り混じっていた。

アヒルくんたちがこっちを見ている…

カラオケの後はいつもお風呂でアヒルと反省会。
オーディションに向けてお風呂場がもっぱら練習場になっていた。

課題曲を歌ってはお風呂に潜って悩む日々…

(うーん、難しい。ストレートに声を出すと合唱団みたくなっちゃう。どうしたらいいのかな。)


ちょうど通りかかった母に聴いてもらった…

すると母が…
「うーん、あんちゃん、誰かを浮かべて歌ってる?『ありがとう』って感謝を伝えたい人いるでしょう。その誰かを浮かべてみたらどう?」

(確かに!えっ、でも誰かに…ありがとうねぇ〜)

ぴかーん!…ひとりしか浮かばなかった。


私が『ありがとう』って感謝を伝えたい誰かは…
瞳の綺麗なマネージャーさん。

私の成長ために、
いつも的確なアドバイスをくださり…

時にはズバリ言われたくないことも…言うけど。

元気のない時はすぐに見抜いて、
実(みのり)のある言葉で励ましてくださる。

…やたらと褒めたりしない。
っていうかほとんど褒めない。


(ちょっと歌詞のニュアンスが違うけど…単純に「ありがとう」を言いたい人は1人だけだから…ま、いっか。)

顔を浮かべて歌ってみた。

ちょっと笑ってしまったが…

私の『ありがとう』に光が灯ったように感じた。

それからは、少しずつ気持ちを込めて大事に、この歌を練習し続けた。



オーディションが近づいてきた…
課題曲だけではなく、質疑応答…これがまた怖い。

提出した応募書類はびっちり書いた2枚。
これを基にして質問が飛んでくるのだ…

(あぁ、一次の時の反省を活かさなきゃ。)


二次に進めた人数も、最後に残れる人数も何もわからない。

他所から受けに来た知らない顔もいたから…状況もわからず、想像もつかない。
でも…


(私は絶対に残る!アイドルになる!)



二次オーディションを前に、マネージャーさんから頂いた言葉が更に私を変身させてくれた…

心の底から『ありがとう』が歌えそうな予感…


(よし、勝ちに行くぞ!)


再び慣れないお化粧をした私は…

密かな闘志を燃やし…

秋風の吹く中

足早に虎の潜む街に向かった。

(2016.6.16)



ーー迷走ーー

ラッシュアワーにさしかかる頃、少し混み合った電車内…

1/fゆらぎを感じても少しも眠くなんかない。

むしろ私は、今から虎の潜む街へいざ出陣という気分なんだから。


電車内の人々をひとりずつ観察して、緊張を解していた。



虎ノ門駅に到着した私にある子が…

「今日、さとれないるらしいよ。」


(マジか…)


同時にコロチキさんのやっべぇーぞ!が頭の中で繰り返された。



武道館で可憐に舞う〝さとれな〟に審査されると聞いて、私の緊張バロメーターはMAXを超え、ガタピシガタピシと壊れて発炎…迷走しそうになっていた。


(今の呼び方で言うと…)麗奈ちゃんは、レッスン生のまさにアイドル、高嶺の花っていう存在で近寄り難いところもあったからだ。


このオーディションに合格した暁には、私は高嶺の花である麗奈ちゃんと一緒にやっていくんだ…


(いや、ちょっと待って…だいぶ麗奈ちゃんと私は掛け離れてるけど…やっていけるのだろうか)


そんな心の中の大渋滞など関係なく、
その時は刻一刻と近づいていた。



運命のオーディションが始まった。


今回は、特技披露→課題曲披露→即興ダンス→質疑応答、その他。



何時もながらのトップバッター!



まずは、特技披露から…

私にはスポーツしか特技がなく、当然バスケやラグビーボールを持っていくわけにもいかず、

悩んだ末選んだのが…


『バビ語』


少しは耳にしたことがあるかもしれないこの『バビ語』 私は小学2年生の頃、うーちゃん(第2回のブログ参照)と、おふざけでバビ語を生活に取り入れて愛用していた。


これは、話す言葉と同じ母音のバ行をつけて話すものなのだが…


緊張の渦の中、大きく息を吸って…

「あさのあんなです
よろしくおねがいします(バビ語ver.)」

「...........。」

(完全にスベったあーーーーーー)


空気がやたらと冷んやりしている…
しかし華麗なスベリを魅せた私はめげなかった。


審査員席に座っている麗奈ちゃんの反応が気になって仕方なかったが…メガネをいじる仕草がすごくかわいくて…


なんだか救われた。


よし!次の歌…「ありがとう」は最高のありがとうを歌うんだ!


と、頭を切り替えられた。


たぶん…麗奈ちゃんのおかげで。


スベったおかげ?で、すっかり緊張がほぐれ、怖いものがなくなった私のカラダは

どんどん熱くなって燃え滾る炎のようになっていった…

(2016.6.21)
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