2008年。今から11年前のこと。
俺はルーデ・サックというバンドでドラムを叩きながら歌っていた。
カレン・カーペンターとYOSHIKIに憧れた支離滅裂な俺と、弦を3つまでしかいっぺんに押さえることの出来ないギタリストと、事件的に歌が下手なベーシストの3人組だった。

埼玉県内の小規模な枠の中ですらムーブメントにもなれず、客なんて名ばかりの友達だけが増え、それでいてその状況をひっくり返してやる気もない、今振り返っても最高に格好いいバンドだった。メンバーの3人だけしかそんなこと思っていないだろうけど。

そんな俺たちを見るに見かねた大学の同級生が「俺の働いてるライブハウスに出てみない?」と声をかけてきた。
それが今年の頭に解散したばかりのロックバンドSUNDAYSのドラム渡辺かづきだった。

そのライブハウスは下北沢にあると言っていた。俺たちは演奏できるならどんな場所でもいいと思っていたから二つ返事でOKした。
そしてその日は来た。

リハーサルには俺しか来なかった。
2人とも寝坊していた。
俺たちをブッキングしてくれた気の良さそうな兄ちゃんは「他のメンバー、本番には来ますよね?」って少し心配そうにしていた。
それが後にバンドを組もうと俺に言い出すツネだった。

俺はひとりでリハーサルすることに慣れていたし、初めてのライブハウスで歌うことに気分も高揚していた。
PAと照明しかない空っぽのライブハウスで、たったひとりドラムを叩きながら歌う姿は変な風に見えてるんだろうなあと想像しながら良い気分になってた。

メンバーは全バンドのリハーサルが終わる時間にやって来た。
半分は反省した顔、半分は笑っていた。俺たちはいつも仲が良かった。

するとライブハウスの人たちが「顔合わせをします。」と言い出した。
なにそれ?と思って聞いていたら、出演バンドをひとつひとつ紹介し始め、ライブハウスからの諸注意、打ち上げが終わった後に会場内であるという旨を俺たちに伝えた。

俺たちは呆然としたが、周りのバンドたちを見ていると当たり前のような顔をしていて、それに何倍も愕然とした。
なるほど。これがここのルールかって。

俺たちがそれまでやっていた埼玉の小さなライブハウスでは他のバンドの名前も知らなければ、一言も話さずに帰ることがほとんどだった。それが当たり前だと思っていた。

続けてPA兼店長の女性が「他のバンドさんのライブもよかったら見ていただいて、バンド同士繋がって帰ってもらえると嬉しいです。」と言った。

俺たちはその一言でこのライブハウスを大好きになった。
今でもはっきりとあの日のことを覚えてる。

だが現実。
引っ込み思案の俺たちは対バンと一言も話すことなく帰った。
対バンのライブも全部見て、話したいこともきっと山ほどあっただろうけど、始まった打ち上げの場で俺たちは何も話せなかった。
その代わり、ツネと死ぬほど話した。

「どうなりたいの?」と聞かれ「おもしろいことがしたいです。」と言った。
PA兼店長の女性には「どんな音が出したいの?」と聞かれ「おもしろい音を出したいです。」と言った。
ふたりとも「そうなら力を貸すから、また出てよ。」と言ってくれた。

その日から俺たちは埼玉のライブハウスに出ることをやめて、下北沢に通うことになる。
この街にはなんでもあった。
知らない音楽も、知らない絵も、知らない飯も、知らない文字もなんでもあった。
色々なライブハウスがこの街にあることを知ったけれど、中心はいつでもそのライブハウスだった。

初めて本気で音楽をやって、初めて挫折して、初めて立ち直って、初めて悔しくて嬉しくて泣いた。
ツネとPAさん以外のスタッフともどんどん知り合い、毎回毎回チーム一丸となって新しいこと、やりたいこと、おもしろいことを実践して、やってやってやってやりまくって最後には解散した。

解散ライブが決まってすぐにツネは「一緒にバンドやろうよ。」と言った。
「俺のバックバンドなら良いよ。」と照れ隠しで返したその日、THEラブ人間は結成した。
場所はやっぱり、あのライブハウスだった。


-----------------


8年後、2017年、現在に戻る。
そのライブハウスは3月いっぱいで閉店する。

ツネは今も俺とバンドをやってる。
あの日、話せなかった対バンの中の1人はバイオリンを弾いてる。
あのPAさんは、それからラブ人間の専属PAとしてSUMMER SONICやCOUNT DOWN JAPAN、ROCK IN JAPANなどデッカいフェスまで一緒によじ登った。

辛い時、空を見上げることなんてしたことなかった。
泣きたい時に上なんて向いたりしたら、せっかくの涙を飲み込んじまう。
悔しくてしょうがない時は、黙って声を押し殺してうつむいて泣いた。
そんな時はいつも誰かが肩を叩いてくれる気がした。
友達だったり、仲間だったり、音楽そのものだったりが俺の肩を叩いてくれた。
そうして初めて俺は空を見上げることができた。

あのライブハウスは地下一階にあって、上を見上げるとビートルズの赤盤、青盤のジャケットみたいだった。
そこから見る空は、いつも誰かが肩を叩いてくれた後だった。

ライブハウスの名前は下北沢CAVE-BEといった。

_var_mobile_Media_DCIM_123APPLE_IMG_3643.JPG
_var_mobile_Media_DCIM_123APPLE_IMG_3644.JPG
_var_mobile_Media_DCIM_123APPLE_IMG_3645.JPG
_var_mobile_Media_DCIM_123APPLE_IMG_3646.JPG