私の2018年を費やして完成させた私小説「檸檬の棘」の刊行が発表されました。

 
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 10月にリリースされるアルバムと同じタイトルを冠した作品ですが、実は小説のほうが先にできていたのです。

 

 小説を書きながら感じていた音、それから書き終えたあとに感性の蓋のようなものがパカリと開いて出てきたものを音楽にしてアルバムにしたという流れです。

 

 私は小説家になってから既に4冊の本を出しています。

 その間に「私小説を書きませんか」という打診を何度も受けました。

 けれど、ずっとお断りしていたのです。

 

 私自身の物語など、面白くもなんともないだろと思っていました。

 それに面白く書ける自信もありませんでした。

 

 他人のことはよくわかるのに自分のことは全然わからない、という感覚、皆さんにもありませんか? そういう意味でも自分語りというのは難しいジャンルに思えました。

 

 ですが作家活動をしているうちに、自分は私小説の洗礼を受けるべきではないかという思いがわいてきました。

 

 私だけが持っている物語、まずこれを書けなくてどうする。

出し惜しみする前にさっさと書いて楽になってしまえという自分の声に従い書くことを決めたのです。

 

 

 書くと決めたは良いものの、そこからが苦難の日々。

 

 せっかく時間をかけて忘れてきたことを思い出すのが嫌で嫌で、パソコンの前で数時間うずくまっていることもあれば、現実逃避のために酒ばかり飲んでいる時期もありました。

 

 それでも、この小説を書き終えなければならないことはわかっていました。

 私の作家人生は始まってすらいないのです。

 

 こんな風に思い詰めていたのも、きっと喉が不自由な時期だったからかも知れません。

私は歌えない自分をまだ許せていなかったのです。

 

 クリエイターとしての自分の価値をどうにか確かめなければ、自信をなくして立てなくなりそうでした。

 

今となって思うのですが、この小説を書いたのは精神的な自傷行為だったのかもしれません。

音楽活動がストップしたとき、ファンの皆さんもスタッフも全ての人が歌えない私を許してくれました。優しい人々に囲まれて私は死ぬほど幸せだったけど、同時に罰されたくてしょうがなかったのだと思います。

「どうして歌えない、生きている意味はあるのか」と自分で自分を罵る代わりに、一番書きたくなかった私小説を書き続けました。

 

こうしていざ小説が完成し、いよいよ皆さんに私の内臓が晒されるのだと思うと、かえって胸のすくような不思議な脱力感があります。

 

 私小説なんてそんなに大したものじゃなかったわ、と思える程度には健全な心を取り戻しましたし。笑

 

 大人のくせして毎日わんわん泣きながら書いていたのも、今となっては馬鹿らしくて笑えます。

 

 

 

 檸檬の棘に描かれているのは、音楽家の私とは正反対の私です。

 これまで皆さんが見てきた強い黒木渚はそこにいません。

 それでも良かったらどうぞ受け取ってください。


<お知らせ>
黒木渚『檸檬の棘』発売記念トークイベント「渚のバルコニー」出張編&サイン会

11月16日(土)15:00〜【名古屋】HMV栄
11月17日(日)18:00〜【東京】HMVエソラ池袋
11月23日(土)15:00〜【福岡】HMV&BOOKS HAKATA(博多マルイ6F)
11月24日(日)18:00〜【大阪】HMV&BOOKS SHINSAIBASHI

「檸檬の棘」特設HP OPEN!
http://www.kurokinagisa.jp/lemon/