病院の玄関入口前にあるをロータリーをゆっくりと歩きながら進むと大きなガラスの自動ドアが開きました。少し先にも同じガラスの自動ドアが。その先の院内には階段とセットになったエスカレーターも見えます。ロータリーや二重玄関、エスカレーターなんかがある辺りからして総合病院の風格は流石という感じで、同時にここならこの右足の激痛をなんとかしてもらえるという確信が自然と持てました。2枚目の自動ドアが開き、早速受付を探そうと右を向いた時でした。

???

尋常ではない人数の患者さんがいたのです。そこは受付と会計窓口が一緒になっている1階ロビーで、どのくらいの割合かは判断できませんがざっと200人位はいました。座席なんか当然のように空きは無く、通路や壁沿いにまで人で溢れ返っていたのでした。今まで田舎の病院の待合室しか見た事のない僕にとっては衝撃的な人数。そして同時に、

・・・無理じゃん

診察してもらう事など果てしなく先であると痛感しました。ため息混じりに見上げた空間の先に15時を過ぎた掛け時計。自宅から2時間半が過ぎていました。

行くしか・・ねぇか

その大人数を目の当たりにし、グッと痛みが増した様な気がした右足を引きずりながら15m程先にある受付窓口へ進みました。

「・・すみません。今朝から右足が痛いんですが」

「申し訳ございません。順番にお伺いしてますので少々お待ち下さい」

「あっ、すみません」

仕方なく元々居た場所に戻りました。5分程待ち、再び15m歩いて受付へ。

「すみません。今朝から右足が痛いのですが」

「診察券はお持ちですか?」

「あっ、初めてで持ってないんです」

「でしたら、まずこちらの問診票にご記入して少々お待ち下さい」

クリアボードに挟まれた問診票を渡され、その場で記入しようとすると、

「申し訳ございません。他の患者様もいらっしゃいますので(受付を)空けて頂けますでしょうか?」

「あ・・・はい」

受付の事務員さんにそう促され元々居た場所に再度戻って、立ちながら問診票に名前や住所、患部の事やアレルギー等々を記入。そして更に再び受付へと歩いて行きました。

「書き終わりました」

「恐れ入ります。準備できましたらお呼びしますので、また暫くお待ち下さい」

発狂しそうでした。もうこの場で喚き散らしたくて仕方ありませんでした。その理由は多々。まだ全く診察してもらえそうにない事。15m程の距離を何度も往復して歩かなくてはいけない事。歩くといってもただ無言でスタスタ歩いている訳ではなく、これまでと同様、激痛に耐えながら10cm刻みで「グァッ!!あぁ!!ガッ!!痛っ!!」と噛み締めた声をずっと上げて歩いている事。その自分の醜態が200人の人達に奇異の目で見られている事。そんな色々な理由から生まれた負の感情が僕のキャパシティを越えて一気に噴き出てしまいそうでした。

ダメだ
ダメだ
我慢
我慢
自分のせいだ
悪いのは俺だ

冷静さを保とうと必死でした。普段は発狂なんて全く無縁なのですが、やはり非日常の激痛によって相当キャパシティが狭くなっていたのだと思います。そしてまたお約束の15mを戻り始めた時、受付の事務員さんが言ってきました。

「久保田様、本日保険証はお持ちでしょうか?」

・・・・・ん?

「お持ちでしたらご提示をお願い致します」

・・・・・あれ?
・・・・・あれ?
・・・・・忘れた!
・・・・・忘れた?
・・・・・いや、作ってもない!!!

ヤバい。ヤバい。今頃気付きました。上京してから1度も病院に掛かった事がないのが完全に裏目に。そんな意識は全く持っていなかったのです。21歳のクソガキでした。本当にクソガキ。

「あの・・・すみません。持ってないです」

「ご自宅にお忘れでしょうか?」

「・・・・・はい」

最低のクソガキでした。嘘つきました。何の意味も無いのに。保険証自体を持っていない事がヤバい上に恥ずかしい事のように感じ咄嗟に嘘をついてしまいました。

「その場合ですと、10割の全額負担となりまして、月末までに保険証と本日の領収証をお持ち頂ければ保険適用分はご返金させて頂きます」

完全にマズい展開になってきました。お恥ずかしながら正直に話すと、21歳当時の僕はなんのこっちゃ分かっていませんでした。ただ〝10割の全額負担〟この言葉の響きが僕にとって何かマズい事であるというのは感じ取れました。そして、このマズい事は帰りの会計の際にしっかり登場してくるのです。

何はともあれ、とりあえず初診受付を無事(?)に済ませた僕。その後も1階のロビーで20分位待たされ、漸く自分の名前が呼ばれました。

「こちらを持って2階の形成外科に行って下さい」

A4サイズのファイルを渡され、病院玄関の自動ドアから見えたあのエスカレーターで2階へと上がるよう促されました。僕は足を引きずりながらエスカレーターの乗り口へと辿り着きました。

・・・結構速ぇ

久しぶりの難関でした。普段は全く気にしないですけど、歩くのが困難な状態から見るエスカレーターの速度はかなり速く感じるものでした。それでも行くしかありません。右足に更なる激痛が来るのを覚悟してエスカレーターに左足から乗ってみました。

あれ?行けた!

結構すんなり乗れてしまったのです。そしてエスカレーターを降りる際もすんなりと。不思議と難関かと思っていたエスカレーターが全くもって難関ではありませんでした。しかし、2階に上がった僕を待ち受けていたのは別の難関でした。いや、別のというかずっと難関は継続してたんだと思います。そこにはロビーよりも遥かに多い500人程の患者さんが待っていたのでした。

・・・マジか

最後の難関は〝待つ〟という事でした。

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