ソースフィルタ理論の基本はこちら。
このように、ソースフィルタ理論というのは、かなりシンプルに発声の核心を突いている。

言語の研究では、国による母音の違い、わずかな構音の変化など、研究を支える重要な理論なんだと思う。そこから発声障害を技術支援したり、Siriが出来たりとその社会的意義はとても大きい。人類史に迫るような広がり方もできるかもしれない。言語の音声学的研究にハマる人の気持ちは心底分かるw

では、言語ではなく、歌においてはソースフィルタ理論をどう活用できるだろうか?

①【母語の違いによる影響】

例えば韓国人は有声閉鎖子音が無声になりやすい。日本人は弱母音が苦手など。

国による歌唱の上手い下手の解明にも、一役買うかもしれない。

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②【個人レベルの発声傾向】

これは言語との大きな違いだが、歌唱時の発声状態はとにかく崩れやすく、崩れ方もさまざま。

つまり、ソースフィルタ的な捉え方によって、言語の傾向の違いのように、個人の傾向の違いを捉えることが出来ると思う。

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③【発声調整のロジックツール】

トレーナー的には、歌唱におけるソースフィルタ理論は、発声を調整するための指標になる。

例えば、トレーナーが生徒に発声させたい音と、実際の音とのズレをソースフィルタ的に捉え、修正した音響となる発音をソースフィルタ的に考え処方する。

聴き取る難しさは置いといてw、理屈はシンプル。

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前回の記事を含めて、ここまでがソースフィルタ理論で押さえときたいポイント。



ここから、本来話したいテーマに少し触れたい。

空間の広さが母音などの認識に重要なことはわかった。

じゃあなんで、僕の「こんにちは」と3歳児の「こんにちは」は、「こんにちは」と認識出来るんだろう?空間の大きさ全然違うけども。

トレーナー的には、なんで小さい女性のトレーナーが、大きい男性の生徒に、母音や子音を指導できるのだろう?さすがに空間のサイズが違いすぎるでしょ。逆も然り。

この問題を、音響分析で発声を捉えてきた音声学では、

「身体的格差があれども、各母音のフォルマント周波数は特定の周波数帯域(画像の水色範囲)に収まる」

と考えてきた。たしかにそれで、概ねの人間のフォルマント周波数は捉えることができる。
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しかしこの考えは、原理的には間違っている可能性を指摘できる。

最小の男が、最長の男と会うという動画。それぞれ規格外のフォルマント周波数を持っていて、もはや先ほどの表のような周波数帯域には収まらない。

でもこれが、言語が同じだと、なんと会話しだす(らしい)!!
※すみません、実際会話する動画は見つからず。。

この事実は、音声学の「各母音のフォルマント周波数は特定の周波数帯域に収まる」という原則に対し、矛盾している。

その答えとなりそうな見解を、また暇見つけてご紹介しようと思います!(笑)

参考リンク、参考文献: 
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発声の超シンプルなモデルは、声帯原音と声道形状の組み合わせである。

声帯原音のビーって音を、声道形状がグネグネ動くことで「こんにちは」という音を作ることができる。

これを「ソースフィルタ理論」という。

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この記事は、その後の話したいことに繋げるために、ソースフィルタ理論の概要を書いていこうと思う。

実際、声帯原音を模したBEEP音と、プラスチックで作った声道模型だけで、人は母音を知覚することができる。

リンクは上智の荒井先生のサイトで、1年半前かな?お話伺いに行ったことがある。研究室は声道模型だらけだった(無論テンション上がりまくったw)


人間の発声器官はプラスチックではないが、重要なのは「形状」という条件が、音声の知覚に超影響大きいということ。

この声道形状と、声帯原音の組み合わせの研究は、音声学の十八番である。母音や子音の基本的な仕組みは、音声学で学ぶべきだと思う。

声道の形状は、声帯原音をなぜ違う音に変化させることができるのか?

そのためには、声道を「管」で理解する必要がある。つまり、管が持つ空間の周波数で考える。

管が持つ空間の周波数的特徴はふたつ。

①管の空間が広い(狭い)と、低い(高い)周波数となる。
②その管の出口が限りなく小さいと、管は2倍の広さとほぼ同じ周波数となる。

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※ここでいう周波数とは、フォルマント周波数のこと。空間には必ず固有のフォルマント周波数が存在する。グラスに水入れて演奏する仕組みが分かりやすいかな。

声道という管は、なんも形作ろうとしていない状態(ニュートラルな状態)を、ざっくり「出口の狭まっていない一本の管」と考える。ちなみに管の曲がりは、あまり影響しない。鼻腔はいったん無視。

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この状態からどこかを狭めたり広げたりして、「あいうえお」などの母音を作る。

その際、主役となるのは舌。舌の位置によって、声道内で1番狭まるポイントを境に、2つの異なる大きさの管がくっついた状態と考える。

これに唇による出口の狭めを加えれば、概ね母音の物理的な状況を語れる。

つまり、次の画像ような状態を、

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下の画像のようにみなして考える。
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※各母音の具体的なフォルマント生成については別の記事にまとめます。

子音は、母音の応用と声帯原音の使い方で考えていくと分かりやすい。
※これも別記事で書こうかな。

このソースフィルタ理論は、言語に強みのある音声学で広く利用されている。

歌では、どのようにソースフィルタ理論を活用することができるだろうか?次回の記事で紹介します。

参考リンク、参考文献: 
音声生成の科学 (医歯薬出版) 著者: Ingo R. Titze 監訳: 新美成二
音声の音響分析 (海文堂出版) 著者: Ray D. Kent, Charles Read 監訳: 荒井隆行, 菅原勉

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最近VTブログにこんな記事を書きました。
年齢や筋力は関係ない?驚異の92歳に学ぶ「歌と加齢」の真実
みなさんこんにちは、VT Artist Developmentボイストレーナー小久保よしあきです! まずはこちらの動画をご覧ください。 92歳のおじいちゃんがNessun Dorma歌います! すげーーーーーーーーー!!!!!!!!!! 歌声フォルマントばりばり出てますね!爆音! しかし、 音をミュートして映像だけ見ると、 こんな声出てるなんて絶対わからないくらい、超リラックス。 筋力的に明らかに衰えてきているのに、 こんな発声ができるというね。 発声練習に間違った認識を持っている人に是非見ていただきたい(笑) 爆音のエネルギーの正体はなに?! でっかい音がバリバリ出てますが、 この爆音エネルギーは筋力的な生み出され方ではなく、 喉頭蓋の狭めを活かしたものです。 (歌声フォルマント、シンガーズフォルマント) 決して喉を締めたり怒鳴ったりはしていません。 また声帯自体がムキムキなわけでもないでしょう。 なぜなら、 声帯は加齢と共に脆弱となり、 男性特有の力強い声は、若い頃と比べて 根本的に出なくなっていくからです。 このおじいちゃんも例外ではありません。 こちらのインタビュー動画をどうぞ。 もはやギャップに笑えます。 とはいえ、 声帯は爪程度の大きさで、 人が発声で作り出すエネルギーは、 人が全身で作り出すエネルギーの1%程度。 そう聞くと、まあなにか奇跡でも起きれば 92歳でも可能なのかなと思いますが、 それでも若い頃に比べて衰えた発声器官を見事に コントロールしているのですから、信じられません。 姿勢が変わらないのも凄いですね。 おじいちゃんだから動けないだけかも知れないけど 音声の生成に必要な箇所は ほとんどが声道内にあり、 本人の見た目の変化はむしろ 発声の妨げとなっていることが多いため、 発声器官の運動に絞られていることがわかります。 息吸うときにお腹がちょっと膨らむくらいですね。 横隔膜で必要なだけ肺に 空気入れているんでしょう(腹式呼吸)。 胸郭がまったく上がらない (胸式呼吸になっていない)ことから、 大胸筋、小胸筋、僧帽筋、三角筋、 そして胸鎖乳突筋に余計な力が入っていないことが想像できます。 Gregもワークショップでいってましたが、 胸鎖乳突筋に力が入ると喉が締まって苦しい声になってしまいます。
www.voicetrainers.jp
記事の中の動画はこちらです。

92歳が歌っている動画
92歳が話している動画

歌とか関係なく、こういう凄いお年寄りみると、年齢は言い訳に感じますよね(⌒-⌒; ) なぜ俺は30代のくせに、もう若くないから…とか考えてるんだろう、みたいな(笑)。

こういう加齢と発声の不具合は、臨床中心に色々研究されているみたいです。例えば甲状軟骨そのものの柔軟性が落ちたり、関節の弾性率が低下したりするようです。ただ、年齢を推測できないくらい個人差があるようです。

このような楽器そのものの硬化は、ある程度までは発声を助け、ある程度を超えると発声の邪魔になる、ということなんでしょう。コントロールは難しそうです。

では年齢による筋力の低下はどう影響するでしょうか?

発声的には、声が震えてしまいます。
若い頃はできた筋肉の使い方が、筋力低下によりできなくなることが原因のようです。

多くの場合は、アンバランスを筋肉で無理くり"成立"させていた声が、筋力低下により成立しなくなるケースでしょう。

この状態に対し、適切に筋トレ出来れば効果的だと思いますが、本質的なバランス改善は得られないので、いずれまた震えだすと思います。

発声バランスの改善も行なって、効率的にエネルギーを作れるようにすれば、もっと楽に震えを止められるかも知れません。

…ん?

ふと思ったんだけど、「若い頃みたいに声が出ない」って言う30、40代くらいの人って、ある意味これと同じ現象かも。

だいたいそういう人は、「喉鍛えないと」「腹筋鍛えないと」と言うんですが、お年寄りよりは遥かに「バランス鍛えないと」でしょうね。

僕はよく、発声練習はスポーツのフォーム練習と似ているって話をします。腕の力だけじゃ上手にボール投げられないですよね?それと同じ。

さらに発声は、必要な筋肉が小さく複雑にからみあっていて、関係させたくない筋肉もたくさんあります。ゆえにスポーツと比べると、筋力よりバランスが大事。

そしてバランスさえ整えば、そこそこ高齢でも十分なエネルギーが生み出せるわけです。

高齢でなければ尚更ですね。

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