親方に、"それは駄目だ"と力士たちへの伝達役を頼まれたとき。

柔らかく伝わるようにと、
"それでいいのかな?親方に確認しなくて大丈夫ですか?"
"わからないときは、親方が相談に乗ってくれると思いますよ"


これが失敗を生むことを学びました。
回りくどくなり結局何にも伝わりません。
16歳最年少の若松永をはじめ、若い力士たちを混乱させるだけでした。


それは、着物を購入しようとしている力士たちへの言葉でした。

多少きつくなりましても、
"親方が、「その帯にその着物を合わせるのは、着物の世界ではあまり無い事。教えるから持ってきなさい。」だって"
"今はまだ自分の趣味で決めてしまわないで、親方に見てもらってから購入してください"
と、はっきりと親方の言葉をカギ括弧で伝え、駄目な理由まで言った方が力士たちは、理解してくれます。


西岩部屋の力士たちはまだみんな若いです。
柔らかい言葉で、、、などという、余計な気遣いは本当に余計なんだと実感する日々です。



大人になってまいりましたら、空気を読み、
私の「それでいいのかな?」の一言で、"あ、おかみさんがそう言うってことは、親方が良くないと思っているんだな"と理解するようになるだろうと、親方からも助言がありました。




毎日、事細かに言葉遣いや礼儀作法など、色んなことを指摘して、なんだか力士一人一人、それぞれにどんどん気が滅入ってしまわないかと心配になります。

・ 『教える』つもりで話し出したことが、注意に変わり、お説教じみてしまわないように
・ 「ずばっと言った方が解りやすいですか?」と訊いてみて、「はい、ずばっと言ってください」と答えが返ってきましたなら、そういった力士たちの要望に寄り添うこと
そういうことが大事なんだと思い知らされました。

反面、そうすることでの不安もあります。
・ ずばっと言い過ぎて傷付けてしまったのではないか
・ やろうと頭では積極的に動き出していたことを、これやっておいてくださいね、とタッチの差で頭ごなしに指摘してしまったのではないか
・ 指摘のあとには、必ずわかりやすく指導できているか

一日の反省として、親方と夜話し合い、一人一人の性格、個性を何度も何度も確かめ合います。
賭けのような思いきった指摘指導に、心が折れてしまっていないか心配でいっぱいになることもしょっちゅうです。





ある日、厳しく指導しました若松永に、一呼吸置き、「切り替えてがんばりましょう」とメッセージを送信しました。
すると、「はい!切り替えてがんばります!」と返信がきました。
カラッとした一言に救われます。


またある時は、こんな事がありました。
私が若中谷に伝えた言葉です。
「本棚が埃で汚れているから大部屋掃除班の若中谷、若野口、若松永の3人で掃除をしてください」

数十分後、見に行きますと、3人の中で一番兄弟子の若野口が、一冊ずつ本を出し、裏表綺麗に拭いて積み上げ、一人で掃除をしていました。

「松永くんも手伝ってくださいね」と言いますと、若松永が「はい」とだけ言い、若野口が戸惑った表情に。
(若中谷は親方から連絡が入り、ちゃんこの買い出しに行っていました)

数分後、買い出しから戻った若中谷が、若松永を後ろに連れて自宅階に上がってきました。

若中谷は、
「おかみさん、自分の伝達ミスでした。すみませんでした。」
そう短く言い、頭を下げました。

若中谷の潔い姿に、部屋頭としての自覚、責任感を感じました。
でも本当は違うのです。
若中谷の伝達ミスではありません。

もう若野口から事情を聞いたあとでした。

若野口が、本棚は小さいし一人でできるからいいよ、と弟弟子たちには掃除をさせなかったようなのです。
それでも若松永たちはハンディモップを持ってきたり手伝う姿勢を見せてくれた事も若野口は話してくれました。

私の「松永くんも手伝ってくださいね」に対し、
・若松永が言い訳せずに「はい」とだけ言ったこと
・一人で出来る場所の掃除だからと、弟弟子に頼まず、若野口が率先して掃除をしてくれたこと
・自分のミスだと若中谷が若松永を庇うように言いに来てくれたこと

全てにおいて、皆んなの仲間意識に感心させられました。

強くなって番付を上げて欲しいという願いも勿論ありますが、先ずは『人として成長して欲しい』というのが親方の想いです。
仲間に対する思いやり、このことも部屋全体で常々話し合ってきています。

中身の詰まったお相撲さんは愛されます。




若松永については、まだ16歳だから、と親方はいいます。
自分で気づき、目覚め、誰もが驚くほどの努力を積めば、群を抜いて頭角を現す。
そのような考えで親方は見守っていました。

毎日接するうちに、若松永の打たれ強く前向きな性格が徐々にわかってきました。








2月9日
「もう入門から一年経つ。しっかりしないといけない。」
親方から厳しい言葉がありました。
若松永の心が折れてしまわないか、或いはやる気をなくしてソッポを向いてしまわないか心配になるほどでした。

若松永は、親方を驚かせました。
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その夜、
稽古場には、眼の色を変えて、自主トレに励む若松永の姿がありました。



次は御当所大阪場所です。
お母様はこの一年間寂しくて何度泣かれたことでしょう。
最近では、"今でも息子の部屋を見ると切なくなります..."という文章が綴られていました。
それでも、若松永が頑張っているから、お母様も頑張れているそうです。




若松永へ、

どうして最近親方の当たりが強いのか。
それは、若佐竹、若野口に次いで、若中谷もとてもしっかりとしてきたからです。

次は、若松永にどんどん後輩の指導をして欲しいという、親方の大きな期待の高まりです。
若松永は、とにかく素直ですから、親方のどんな厳しい言葉にも付いてきてくれるという信頼の表れでもあります。

今までの自分を超え、もう一歩、その太い脚を前へと踏み出してください。
必ず未来が変わります。

あなたは自分で自分の素晴らしい才能にまだ気づいていません。

後輩への指導力
抜群の身体能力
両方持っています。

親方の言葉を信じ、兄弟子の背中を追いかけ、トレーニングに打ち込んでください。
頑張る自分をきっとどんどん好きになってきます。


2月12日
今日の夜21:00の写真です。
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お母様が、風邪をひかないようにと12月のお誕生日に贈ってくれた赤いトレーナーが汗ばむほど今日もトレーニングに励みました。
汗を掻けば掻くほど、これからもっと色んなことが面白くなります。
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16歳の若松永は
何もかもが成長期です。 

大阪場所まで一ヶ月を切りました。
初日を迎えるまでにまだまだ成長します。