今日、電車に乗ったら寝ている人がいました。


サンダルを投げ出して、椅子を全て使って寝そべっていました。とても気持ちが良さそうです。あんまりに気持ちよさそうだから、誰も起こしません。その人はすやすやと、まるで冬眠しているみたいでした。電車に乗る人々は最初に驚くだけです。あとは普通に、何も無かったように過ごします。木目田もその一人。親切な人は起こしてあげますが、木目田は親切ではありません。ただその人の隣に座って、本を読んでいました。


駅が何個も何個も過ぎていき、木目田が降りる駅になりました。


ふと、木目田は不安になりました。この人はどこでこの電車を降りるのだろうと。でもその人がどの駅で降りるか知りません。終点まで行くから寝ているのか、はたまたもう乗り過ごしているのか。本人以外の誰も知りえないのです。だから起こそうと思っても、起こせませんでした。やっぱり気持ちよさそうにすやすやと寝ているのを邪魔したくないから。
だけど本当は怖かっただけなのかもしれません。自分が臆病だから、勇気が出せないから、声をかけられなかっただけなのでしょう。他の人と同じように何事も無かったように振る舞う。それが、自分にとって一番良い方法だったから。悪いと思いながら、自分が正しかったと思い込む他ありません。木目田はそういう風にずる賢くなってしまったのです。


その人は家に帰ってもぐっすり眠れてるといいなと願う、急行電車の待ち時間。そうして木目田も揺られながら眠りについたのでした。









_var_mobile_Media_DCIM_104APPLE_IMG_4331.HEIC