春の蠢きが覚めたくもない目を覚ましてくれた朝。
舞台の稽古に向かうために予定よりも5分遅く家を出る事を固く決意する。

いつも通り、いつも通りのはずだった。

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ドアを激しめに開けて空見て、意識して光を浴び、おしゃれなミュージックビデオの主役になったつもりで颯爽と家を出たらすぐにアリをふんでしまった。
きっといつも通りのはず、いつも踏んでいるはず、しかしアリを踏んだと認識した事は暫くなかった。

思えば幼い頃はアリがたくさんいた気がする。スズメも今より沢山いたような気がする。公園の遊具はデカかった。そして親父のちんちんは神だった。

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最近は新しい事が少なくなり日常というものを意識しなくなっていた。
意識してアリを探してみたらもちろんいるんだろう。壮大にかつ、か弱く、まるで地球が自分の物かのように這っている。

思考を止めて歩き出すと地面がやけに近い、周りのものが大きくなってないる、大きいどころかそれが物だと認識することもできないほどになっていた。

俺はアリになっていた。

おい!と声が聞こえる

恐怖からなのか俺は振り返らずに前方を見続けた。

ちいせぇなぁお前都会のアリだな?

ここは東京。そりゃそうだろ。と答えた

しってっか?田舎のアリはでかいんだぜ!?イキった話し方でグイグイくる。苦手なタイプだ。

しっている。俺は北海道生まれだからな。
振り返るとそこには俺より小さい都会のアリがいた
モハメドアリからとって、モハメドと名付けた。

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モハメドは俺に説いた
遠くにいるあの鳥。厄介だから気を付けろよ?

人を鳥と呼ぶ事に違和感はあったがアリから見れば全て同じかと自分を納得させた。

あいつらやっかいな鳥なんだ、生きること以外にも他の生き物を殺したり、捕獲したりする。
だがあいつらは同じ動きしかしない!誰かから指示されたような行動しかできねぇんだ!あいつらに捕まるのは馬鹿だけだ!ははは

その瞬間大きな影に呑まれ、ドカンップチャッ!と言う音と共にモハメドは潰れ朽ち果てた

モハメドォォ!!!!も、モハメドォォ!もは!!!もはめ!!モハメドォォ!?
ピクリとも動かない。
残念無念高速今生の別れ。

しってっか?都会のアリはでけぇんだぜ?

イキったその言葉が木霊する。

その時自分の意識がその影の正体にうつっていった。
ふと周りを見渡すといつもの場所に俺が立っていて、足元には潰れたあり1匹。

モハメド、、、

そう呟きまた目的地へ歩き出した。
鳥や虫の数など気にせずに、今日も俺は日常を意識せず同じ動きをして過ごす。

アリが少なくなったと思うくらい歳をとった。
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ライブが終わり、賑やかさが何故か切なくさせる渋谷の喧騒の中、ヨシモト∞ホールから渋谷駅にいつものように何も考えずにダラダラとTwitterみたり、ラインをみたり、ワンピースのネタバレをみたりしながら禁止とされている歩きスマホをしていた。
丁度スクランブル交差点を渡り切った辺りで突然、本当に突然、30%も余力を残していた携帯の電源は音を立てずに、いやTwitterのタイムラインを指で弾いたタイミングだったので、「シュポッ」と音を立てて切れた。
家に着くまでの最高の暇潰しがなくなった。

ションテンガルサーで山手線に乗り込み、電車の広告、中吊りを見たりしてみる、、、

あぁ、、こんな時はいつもより電車に乗っている時間が長くかんじる。

ふと対面に座っているおじさんに目がいく
髪が薄くなり、少し歪んだメガネを装備して、自分と世界に絶望しながらもまだ未来を諦めていない光をメガネの奥から放っていた。
彼のきらきらな未来を願って、きらじぃと名付けた。
広告をみている俺の視界に入ってくるきらじぃは、俺を見ているのではないかと錯覚させる力をもっていた。
しかしきらじぃをみても、どこかぼんやりと目の前の空間を見ているだけ。
安心してまた広告をみるが、空間をみてる雰囲気を出して俺をみているのではないかと錯覚してしまう。
電車が発車したと同時にきらじぃの目がブルブルと揺れた
そうか俺のうしろのけしきをみているんだ
過ぎ行く景色を必死追うその瞳に映るものを俺も見たくなって肩が痛いフリをしながら振り返ってその絶景をみた。
俺の目に映るのは安易に想像出来る程の当たり前の景色。
ガッカリした自分に嘘をつき、こんなもんだろう。と前を振り返ると
目の前にきらじぃが立っていた。

弟子にしてください。ときらじぃが言う

は??理解はしたが一応言ってみる

弟子にしてください。とまた言ってきた

トンチンカンな事を言われている俺は、きらじぃの口元の端に白い唾が溜まっているのを意識していた。小学校の頃、先生に怒られた時も同じ感覚で口元を意識したのを思い出した。

嫌悪感を覚えた俺は言った
あなたが思っている以上にモヤシのナムル持ち歩いてますよ。

え?きらじぃが聞き返す

ナムル。持ち歩いてますよ??

それでも構いません!!

では開会式はじめます!

選手宣誓します!

よし!試験には間に合わせてやるからな!

なんの会話なのか、なんの弟子なのかは誰にもわからない。つっこみがいないボケ合いはキツイ。

その時つり革が叫ぶ
だれもつっこまないんかい!

俺も叫んだ
お前は突っ込まれる側だろ!

すかさずきらじぃがつり革の輪に腕を突っ込んだ。背伸びをしながら肘まで突っ込んでから俺の方にニヤリと右の口角と眉毛をあげながら得意げな表情を向けてきた
やけにムカつく表情だ。

肘まで突っ込まれたつり革は言った
連れねぇなぁ。吊られてるけど。

高田馬場、高田馬場、と車内に響き
無意識にドアの前に立った俺に、ムカつく表情のきらじぃが立ち塞がる。

そして俺の中の天使と悪魔が喚き出した
天使が叫ぶ
そんな!きらじぃを置いて行かないで!弟子にして!

悪魔も叫ぶ
つめてぇじゃねぇか!きらじぃを置いてくのか?弟子にしてやれ!

つり革が叫ぶ
連れねぇなぁ。吊られてるけど。

きらじぃが叫ぶ
ナムル1つ下さい!!

俺は言った。
すいませーーんここで降りまーす。通して下さーい。

プシューーとドアが開き、振り返るときらじぃは鉄の棒に頭を擦り付けながら気持ち良さそうに眠っていた。

そしていつもの高田馬場に到着した。
さぁ乗り換えだ。。。まだまだ先は長い。

こんな時はいつもより電車に乗っている時間が長く感じる。
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