月別アーカイブ / 2020年04月

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感染を避けて

自宅でくつろぐ人や

在宅勤務の人が増えて

軒並みとまでは言えないが

多くのテレビ番組の

視聴率を押し上げている


もともと高視聴率の

テレビ朝日系「ポツンと一軒家」は

今年に入り しばしば20%以上の

視聴率を叩きだしている


同時間帯のNHK大河ドラマの「麒麟がくる」

に常に後塵を拝させてのことだから

文句のつけようがない


特に直近の26日放送分では

番組歴代最高の22・9%


「麒麟がくる」は14・9%だったから

ブッチギリの勢いで大差をつけた


同時間帯番組の中で

1位を快走し続ける「ポツンと一軒家」は

外出自粛の恩恵も確かに受けているが

それ以上に

現代人の多くが自覚している

自分の心の隙間に訴えている



現代人の心の隙間は

ネットに仕事や

生活の多くの部分を依存しなければ

立ち行けなくなったことで生まれたもの

と 言えるかもしれない


ネットを便利に自在に使っているつもりが

気がついたらネットに隷属させられている


そのことを現代人は自覚している

自覚しているのにどうにもならない


そのジレンマが心に空隙を造る


それでなくても

社会生活をしている人というものは

心細い風景や

事柄に惹かれるところがある


浮世のしがらみを

いっときでも絶つには

心細さの中に身を置きたくなる


心細くて

寂しく孤独になるのに

更に少しの怖さにも包まれるのに

あえてそれを求める


とっぷりと暮れた

野辺の道を

心細さを覚えながら歩き続けて

彼方に

一軒家の明かりを見つけてホッとする


その一軒家の住人と

何かを共有したくて

怖さもあるけれど

その門戸を叩いてみたくなる


人は昔から心の隙間を埋める

ものを探す衝動にかられた


今はネットのしがらみから遠ざかりたい

という思いが加わり

心の隙間は

深く大きいものになっている


「ポツンと一軒家」は

その一軒家を探して訪れるまでが

現代人の心の隙間を 疼かせる


けして野中の一軒家ではなく

その家の住人は

意外な一面はあっても

しっかりと現代社会と関わり

現代的生活を享受している


それはそれで

視聴者は安堵して胸をなでおろせる


山姥や

九尾の狐が出てきたんじゃ

落ち着けないんだよ


「ポツンと一軒家」は

まだまだ快走を続けるだろう












 

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インターハイの中止は

懸命に練習に励んできた最終学年の

きみたちにとっては

青天のへきれきが

悲しみを背負って 

ドカンと降ってきたものに等しい



インターハイを更なるステージに上がる

ための試金石にしようと

意気込んでいたきみも


高校生活を象徴する思いでにしよう

と 一瞬を惜しむように

練習と向き合ってきたきみも


等しく

その夢を砕かれたんだからな


自分たちのことばかり考えるな

コロナ禍を跳ねっ返そうと

どこの国の人間もみんな必死なんだ


などと無理解なことは言わない


ただ

ケンスケ君という

今年の秋に19歳になる

高校3年生のことを知って貰いたいんだ


お気づきのように

彼は1年遅れて

最終学年を迎えている


1昨年

ケイスケ君は首都圏にある

私立の高校2年だった


そのときの担任が

僕の母校の30何年か後輩の

ホリエ君だった


ホリエ君は高校時代陸上の選手で

最終学年のインターハイに出場

100メートルで6位入賞を果たした


我が母校では画期的な記録だったが

ホリエ君はこれが自分の限界と悟りつつ

最高の思い出を造れた

と 大いに満足して大学へ進学した


卒業後

今の私立高に奉職して

インターハイ入賞の経歴を知られ

陸上競技部の監督兼顧問に請われた


国語の教師をしながらのことで

ハードになるのは覚悟で引き受けた


スポーツが強い高校ではない

陸上競技部は特にレベルが低かった


しかし

ホリエ君は地道な指導で

部のレベルを徐々に高めていった


と言っても

県大会のリレーで

決勝に残れるかどうかの程度だった


3年前

ホリエ君は金の卵に出会った


ホリエ君はバイクで学校へ通勤している


学校まであと7,800メートルの道に入り

彼のバイクを鞄を小脇に抱えた

生徒が追い越していった


走りは洗練されていないが

素晴らしいバネの持ち主で

一目でその素質を見抜くことができた


ホリエ君もスピードを上げた


その生徒もホリエ君も

それこそタッチの差で遅刻を免れた


その生徒こそ新1年生のケンスケ君だった


ケンスケ君が体育系の部に所属していない

ことを知ったホリエ君は

熱心に陸上競技部へ誘った


驚いたことに

ケンスケ君は小学低学年時代に

野球のリトルリーグで

1年ぐらいの経験をしただけで

他にはスポーツを本格的にやった

ことはないのだという


「いい体格だな。筋肉が発達している」

「おれ、2,3年前から伯父がやってる

 躯体工事の仕事を手伝ってるんです」


学期休みに手伝い

バイト料を得ているという


入部したケンスケ君は

ホリエ君の期待にたがわず

目に見えて上達していった


2年の夏

ケンスケ君は400メートルで

地区予選で2位

ブロック予選で3位

大会決勝で6位になった


「凄いぞ。でも、お前はこんなもんじゃないぞ」

「おれ、6位入賞で先生と並べてよかったです」


ケンスケ君は

躍りあがるような喜び方ではなくて

淡々と喜んだという


2年の2学期の終り頃

ケンスケ君は3年の生徒と喧嘩をして

鼻骨骨折のけがを負わせた


非は一方的に向こうにあったが

ケンスケ君は無期停学になった。


義務付けられた反省日記も書かず

学校は自主退学に持っていこうとした

ケンスケ君もそれに異議がなさそうだった


ホリエ君はケンスケ君を説得し

一方で学校側と必死に掛け合い

休学というかたちにした


ホリエ君は ときどき

ケンスケ君に会いにいった

いつも門前払いされた


道でバッタリ会ったことがあった

復学するよう説得したが

にべもない返事をたたきつけられた


「うっせえな。もう、つきまとわねえでくれよ。

 おれもキレたくねえからさ」

「よし、ケンスケ、おれを見事に殴り倒せ。

 それで2度と会おうとは思わん」


ホリエ君はしっかり立って目を閉じた


「先生よう、俺を殴り倒せよ。

 それで縁切りできるぜ」


ホリエ君が目を開けると

ケンスケ君は目を閉じて立っていた


ホリエ君は黙って去った


半年以上

ホリエ君はケンスケ君に会わなかった

しかし

自分の夢をケンスケ君につないでいた

彼はどうしてもあきらめきれなかった


彼の伯父の会社が下請けしている

工事現場を調べて行ってみた


彼は足場を身軽に歩いて

鉄筋を組む仕事をしていた


表情が溌溂としていた

ホリエ君が過去に見た

どんな表情よりも活きていた


気がつかれないうちに現場を離れ

道で仕事帰りを待ち伏せした


「時間ないか。食事でもしないか?」

「腹は減ってますが、部には戻りませんよ」


ケンスケは自分と再会するのを

どこかで待っていたようだ

と ホリエ君は思ったという



食事中は

ただの世間話で終わりそうだった

じゃ これで

と ケンスケ君が腰を浮かしかけた


「ケンスケよ、高校だけは出ておけよ。

 お前の仕事っぷりに感心したんだ。

 だからだよ、中退じゃなく高校は卒業しておけよ。

 それだけだ」


その翌日

ケンスケ君から 復学したい

と 言ってきた


彼は

昨年の4月から

2学年をやり直すことになった




ホリエ君は何も言わなかったのに

2学期が始まって間もなく

陸上競技部の練習に出てくるようになった


3か月もすると

インターハイ6位入賞の

タイムを超えるようになった


今年になって

ホリエ君はケンスケ君の

インターハイでの3位以上を

確信するようになった


休校が長引いても

東京五輪が延期になっても

部は連絡を密にとりながら

個々の自主トレというかたちで

練習を続けた


「今年の高校総体は中止と決まったよ」


ホリエ君は中止の一報を得ると

ケンスケ君には会って伝えた


「世の中はそれどころじゃないでしょうから」


ケンスケ君はさばさばした態度で

屈託なさそうに笑った


「くやしくないのか?」

「おれには卒業という目標が残っていますから」

「お前を欲しがる大学はきっとあるぞ」

「伯父がね、高校の卒業を楽しみにしているんですよ。

 卒業したらまっすぐうちにこいって」


ホリエ君は何も言えなかった

ケンスケ君は母子家庭の1人っ子だ

お母さんは細腕1本で彼を育ててきたが

病弱なタイプだ

と 聞いたことがある


ケンスケ君の話はこれで終わる


インターハイ出場を

目標にして切磋琢磨してきた

3年生のきみたちは

それぞれに無念の思いを

それぞれに心に刻んで

気持ちを切り替えてほしい


目標はいくらも見つかるじゃないか


それが青春というものだぞ









 





















思いで造りに


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15歳年長の兄は

終戦の前年の秋に

税務の専門学校を

繰り上げ卒業すると

東京都下の我が家に戻ってきた



新しい年(終戦の年)が明けると

召集令状がきて

色々

身辺の整理を行っていた


早春の頃

結露した窓ガラスに

カタカナ ひらがなを書いて

5歳になったかならずの僕に教えた


このときのエピソードは

以前に書いた



それとは別に

僕の心にくっきりと刻まれた

エピソードがある


兄は

父と2人で庭に防空壕を作った


その防空壕が使われたのは

僕の記憶では数えるほどだった


空襲警報が鳴れば

最初は家族みんなで

防空壕へ避難した


しかし

すぐに防空頭巾をかぶり

庭へ出て様子見をするだけで

防空壕へは避難しなくなった


隣町の軍需工場が爆撃される音が

地響きのように伝わってきたのに


さすがに

夜の空襲警報では

防空壕に避難したが

すぐに慣れて

庭で待機するだけになった


この頃には

ほぼ上空で敵味方の戦闘機が

夜の空戦を行うようになっていた


兄はもう召集されていなかった


僕は父母や

2人の姉たちと縁側にかけて

夜の空戦を見物していた


戦闘機が発砲すると

数弾に1弾

曳光弾が混じっていて

それが夜空に

オレンジ色の点線を描いた


妖しく美しかった


なんでみんな平気だったんだろう

感覚が麻痺していたのかな


一帯は平屋の官舎群だったから

焼夷弾も落とされないし

機銃掃射も受けない

という変な自信があったものか



防空壕ができて兄がまだいた頃

昼間の防空壕で

兄はよく寝転んでいた


板敷きの床で毛布にくるまって



隠れ家気分だったのかもしれない


ある日

兄の吹く口笛に誘われて

入り口が開放されて

薄明るい防空壕に入った

兄は口笛を吹くのをやめて

起きあがり胡坐をかいた

「昼飯、できたか?」

「ううん、まだ」

僕は首を振った

「そうか」

兄はうなずいて続けた

「ドイツの童話を話そうか」

同盟国ドイツの名が出て

僕は目を輝かせた


兄は手ぶりを入れて話し始めた

そのとき聞いた話で覚えているのは

死神が悪い?男を連れて

洞窟に入った場面だった


火がともされた無数のロウソクが

並んでいる

長さはみな違っていた


そこまでの情景を話すと

兄は防空壕の棚に置かれた

燭台のロウソクに

マッチで火をつけた


溶けたロウに埋もれて

とても短かくなっていたロウソクで

小さな炎を上げたが

それは今にも消えそうに

ユラユラ揺れた


兄は僕を見つめ

そのロウソクを指差して言った

「これがお前の命だ」

無論

死神として

連れてきた男に告げたのである


でも

僕はもの凄い恐怖に襲われ

全身を凍りつかせて泣き出した


「あなたたち、お昼ご飯よ」

母が防空壕を覗いた

「ごめんごめん、怖がらせちゃって」

兄は僕の頭をなでて笑った


その年の8月下旬

兄は旧満州の荒野で

終戦を知らずに戦い

20歳の命を散らした


小学5年の秋だったかな

僕は

絵本も漫画も好きなままだったが

大人が読む岩波文庫を

すでに数冊読んでいた

 
新しく購入した岩波文庫は

グリム童話集だった


読み進めて「死神の名付け親」になった

死神が名を付けてやった男を連れて

地獄の洞穴に入ったたときに

僕は言い知れぬ恐怖をよみがえらせた


どうしても

結末まで読めなかった

文庫を閉じると

僕の心は兄に対する思慕の念で

いっぱいになった



兄ちゃん

あの短いロウソクは

兄ちゃんの命だったんだね




















 

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