どこの世界にも弱い立場の人はいる。
ただし、
弱い立場の人が別の立場では、
強い立場に立っていることがある。
いや、
ただ、あるではなくてよくあることだ。
解りやすいことで説明してみよう。
ある大会社の資材納入部署のN係長は、
万年係長で影が薄く、
部下からも小馬鹿にされていた。
直属の課長は自分より一回りも年下だった。
それなのに、
必要以上に卑屈になってペコペコ頭を下げた。部内では窓口的な係の係長として、
仕事には忠実だった。
Nのところへは、
1次下請けの人たちがよくやってくる。
その人たちには態度が横柄だった。
外で会っているときはさらに横柄になり、
殿様のように威張り散らかした。
1次下請けのW社のOは、
Nにことごとにいじめられた。
Oはまだ30そこそこだが、
見てくれが良い。
それだけではなくて、
W社内での信頼も厚い。
難関大学の出身で将来を嘱望されている。
要するに、
何から何までNに勝っている。
それがNには気に食わない。
1次下請けの何社かの人たちと会食をするときは、
必ずネチネチといびられた。
Oはいつも普通の顔色をして、
いびられるままにしていた。
大会社の1次下請けだから、
その下請けや、さらにその下請けの下請けもある。
厳密に言えば、5次下請け6次下請けもある。
1次下請けの社員は2次下請けの社員に対して、Nのような態度を取る者が多かった。
しかし、Oは違った。
2次下請けの社員に対しても、
紳士的な態度をとった。
相談されれば、有益なアドバイスも行った。
Oのような人は珍しい。
大会社ともなれば、
その下請け企業はピラミッド型を形造る。
何次まで下請け企業があるかはともかく、
大会社の1次下請けは大会社には頭が上がらない。
2次下請けは1次下請けには頭が上がらない。何次まであったとしても、
下の下請けは上の下請けには頭が上がらない。そういう世界なのだ。
よくも悪くも、
いじめ的な関係が成り立ってしまう。
その構造の中で、
いじめる側といじめられる側に分かれざるをえなくなる。
いじめられた側が
今度は自分たちの下請会社の者をいじめる。
さらに、同じ会社の中でも、
いじめる側といじめられる側が生まれてしまう。
そのときの立場次第がものを言う。
N係長は定年を何年も残して、
肩たたき退職に追い込まれた。
1次下請けの某社に拾われたが、
かっての職場の窓口には後輩がいる。
その後輩に、ペコペコする立場になった。
そのNにとっては、
晴天の霹靂のようなことが起きた。
W社のOが自分の元勤務先の大会社の役員にスカウトされ、
販売部門の係長に抜擢されたのだ。
伝わってきた情報によれば、
以前からその役員に目をかけられていたという。
宮仕えであれば、
それぞれの立場でいじめを受けやすい。
いじめることができる立場でいじめを行えば、
いずれは自分がいじめられる立場になるかもしれない。
Oはそういうことは百も承知で、
いじめられる立場の者にいじめられても耐えていたのだろう。
いじめることができる立場の者には、
いじめを行わなかった。
やはり、そういう人間性は、
どこの企業でも群を抜く。
将来大きな期待をかけていい人、
といことになる。
いじめられても耐えろ。
いじめることができる立場の者をいじめるな。
宮仕えではこれが最強の生き方になる。