きみ、きみ、
きみの劣等感は何だい? 
数え切れないよ、なんてふてくされるなよ。
1つでいいからあげてみてくれ。
そうか、何かを考えてこうしようとやってみると、
十中八九は裏目に出るということか。
あまり心配いらない ぜ。俺なんかもそうだったんだ。
十中八九じゃない。元は100中1ぐらいだったものよ。
でも、これじゃいけないと思って少しでも確率を高くしようと努めた。
100中20になり、100中50になり、100中60になった。そうなるまで5年はかかったかな。
でも、それ以上確率が上がることはなくなったんだよ。
それでよかったんだ。
なぜなら、中学高校を通しての最大の不得意科目を克服するためだったんだが、
そのために常にアンチョコの利用を考えた。
アンチョコって今あんまり聞かない言葉だよな。
教科書や参考書と違って、
式と答えを丸暗記するための近道を教えてくれる低レベルの本だったのよ。
本当の理解力がつかないから、ある程度のところまでいくと理解不能になる。
本当の理解力を得るためにはいくら時間をかけたっていい、ということを学んだかな。
それは社会に入ってからが実のところ大変役に立った。
職場にアンチョコはなかったからな。理解するためにはいくつもの瑕疵を咎められ、
ようやくおぼろげに理解できてくるんだ。それの積み重ねなんだよ。
ところで、きみの場合、どのように裏目に出るんだ?
何、得意先の新規開拓月間というのがあって、
同僚にどういうところに目をつければ新規開拓の実績を出せるかと問われ、
未開拓の会社を何社かあげてみせた。
実は別に本命の会社があって、開拓が難しい会社ばかりをあげてみせたってのか。
策を弄して失敗が続く、というのがきみの劣等感になっていたんだな。
本命の会社にあたってみると、すでにその同僚がきていて成約間近の状態になっていた。
仕方がないから、開拓が難しい会社に当たってみると、
そこもとっくに同僚は唾をつけていた。
同僚はきみがどこまで新規開拓の実を挙げているかを知りたかっただけなんだ。
裏をかこうとして逆に裏をかかれた。
まっ、策士策に溺れるといったところかな。
裏をかこうとしたら本当の実力はなかなかつかないよ。
考え方も汚いと思われるようになる。
難しいことを手抜きしないで1から始めたほうが、結局、力がつく。
力がつくと姑息な策を巡らすこともなくなる。
あいつはやれるという良いレッテルを貼られ、信望を集めるだろう。
裏をかくのはやめよう、遠回りを苦にしない。
それが宮仕えの、
いや、人生の極意なんじゃないかな。