口で言ったら、

恥ずかしくて真っ赤になるよ。

こうして書くと、

なんとか書ける。


僕はきょうだいたちと、

年齢が離れて生れた。

兄とは15歳違い、

長姉とは12歳離れ、

次姉とは8歳離れている。

兄は20歳で戦死してしまったし、

両親はそれで末っ子の僕を溺愛したものか。


そのことと、

直接関係あったかどうかは知らない。

僕はなかなか乳離れができず、

後年、

母に訊いたところによると、

5歳の誕生日を迎えても、

まだお乳を欲しがったという。

早生まれだから、

翌年は学校に上がるのに、

入営の日が迫った兄から

カタカナを教わっていたのにだよ。

とっくに通常食を食べていたはずだから、

デザートとして欲しがったのかな。


その日、

おそらくは3月25日の誕生日の数日後、

僕は母の膝に乗り、

いつものようにお乳をせがんだ。

そのとき、

その場には見たことのないおばさんがいて、

僕を粘っこい視線で見ていた。

少し気になったが、

いつものようにしゃぶりついた。

ギャッ、ギャギャ~ア~

僕はのけぞって奇っ怪な叫びをあげた。

舌や、唇がヒリヒリ痛んだ。


後で知ったことだが、

母は両の乳首に唐辛子液を塗ったのだ。

これは我が身に起きた初の衝撃的事件として、

今もフラッシュバックすることがある。

粘っこい視線で僕を見ていたおばさんこそ、

母に唐辛子液を塗れ、

と入れ知恵した張本人だったろう。

そう言えば、

魔女みたいな人相だった。

いずれにしても、

僕がその事件を契機に乳離れできた。


ずっと後年、

妻がゼロ歳の長男に乳を含ませているのを見て、

「今は何歳で乳離れするの?」

と、訊いた。

「1歳前後だと思うけれど」

「昔のことだけど、5歳じゃ遅い?」

「それは遅いんじゃなくてヘンなのよ」

唐辛子液事件について

打ち明けるつもりだったが、

またにしよう、と僕は思った。