大きくならなくっちゃ。

早く大きくならなくっちゃ。 

ボクはアオムシ。

まだちっちゃいが、

青い葉っぱをどんどん食べて、

大きくなって大きなサナギになって、

やがて、

メッチャきれいなチョウチョになって空を舞うんだ。



ボクは今、

この家の庭にある畑の

サトイモの茎を登っている。

8坪ぐらいの小さな畑だけど、

この家の夫婦が野菜作りに熱心で、

四季それぞれの野菜を栽培しているらしい。

それで、

今はサトイモということなんだよ。

そういうことを教えてくれるのは、

この家のルルちゃんという女の子だよ。

畑のそばへ屈んで、

いろいろ話しかけてくるんだ。

寂しいんだろうな。

一人っ子で、やや引きこもりの傾向がある。

お父さんは住宅会社の経理マンで、

お母さんは保健所勤務の保健師さん。

今、人間社会はコロナ禍だから、

お母さんは大変だろ。

夜遅くの帰宅も多いし、

休日に出勤することもあるんだって。

お父さんは定時に帰れるからいいけれど、

お母さんの分も家事をやっているし、

畑をやる時間が少なくなっている。

そのため、ほら、

雑草も茂ってるだろ。

あっ、ルルちゃんがやってきたよ。

ボク、茎の後ろへ隠れるね。


「サトイモさん、とっても暑いよ、今日」

ルルちゃんは、

屈んでサトイモさんに話しかけた。

「サトイモさんは、優しいね。大きな葉っぱで

 日陰を作ってケムシとアリさんたちの

 ゲームを応援しているもの」

えっ、

ケムシとアリさんたちのゲーム?

ボクは地上を見た。

確かに、

いい日陰ができているけれど、

毛がないアオムシのボクと違って、

毛むくじゃらの茶色いケムシはアリたちに襲われ、

体をくねらせ、

のたうって必死に逃れようとしている。

自然の生存競争はきびしい。

この畑でも、

毎日のように弱肉強食が行われている。

ごく近い種であるケムシくんに肩入れしたいが、

明日は我が身、ということもある。

ボクは見て見ぬ振りをした。

サトイモの葉っぱが大きく揺れた。

風が湿っぽくなった。

「あっ、灰色の雲」

ルルちゃんが空を見て立ち上がった。

夕立ちがくるのだ。

ルルちゃんはお家に向かって駆けていった。


激しい土砂降りが30分以上続いて、

カラリと晴れあがった。

ボクはまた茎を這い上がりだした。

葉っぱの裏に到達したとき、

ルルちゃんがやってきた。

雨降りの間に折ったらしい

紙ヒコーキを手にしていた。

ルルちゃんはまた屈んだ。

ボクは葉っぱの裏を這い出した。

「あっ、アオムシ」

ルルちゃんに見つかった。

「サトイモさん、優しいね。子どものアオムシに、

 葉っぱの端を食べさせてあげるんだ」

ルルちゃんは立ち上がった。

「わあっ、葉っぱの真ん中に、

 大きな雨の玉ができているよ。

 お日さまを受けてキラキラ光っている。

 プチトマトぐらいに大きいよ」

 少し厚みが足りないけれど」

ルルちゃんは、はしゃいでいる。

ボクは葉っぱの端に取りついて、

葉っぱに端に食いつこうとした。

そのとき、

ブーン、とたくましい羽音を聞いた。

「スズメバチだ!」

ルルちゃんが叫んで、

紙ヒコーキを飛ばした。

ボクはスズメバチの足に抱えられそうになったが、

飛んできた紙ヒコーキに体当りされて、

スズメバチはボクを放して舞い上がろうとした。

そのはずみで、

サトイモの葉っぱは大きく揺れて、

雨の玉がドドーッと流れながら飛び散った。

その飛沫で体を濡らしたスズメバチは、

ヨタヨタ飛びながら逃げていった。

ボクは九死に一生を得た。

ルルちゃんが地面に落ちた紙ヒコーキを拾い上げた。

「有り難う、ルルちゃん」

ボクは心から感謝した。

ルルちゃんは紙ヒコーキを葉っぱに乗せて、

「スズメバチと戦うヒコーキ用の緑の飛行場だよ」

と声を弾ませた。

今まででボクが見た中で、

いちばん嬉しそうな笑顔を見せた。