26RAfvCeYH.jpg

2019年の秋、

書店の人からコミックの「鬼滅の刃」が大変よく売れている、

 と聞いた。

テレビ化されたアニメの好評も後押ししたらしい。

翌2020年になって映画の公開もよくうわさに上がり、

少年ジャンプの連載終結も近づいて、

「鬼滅の刃」ブームは明確に社会現象化してきた。

この頃に、

僕は第1巻から第22巻までを一気に読んだ。

最終巻になる第23巻はまだ出ていなかった。

読まずとも第22巻まで読めば、

大団円までの流れは予想できた。

第1回の緊急事態宣言が発出されて間もなくの頃で、

「鬼滅の刃」ブームが社会現象化した大きな理由の1つは、

新型コロナウイルスの流行にある、

と僕は見ていた。


第1回の緊急事態宣言時は、

私達国民がよく自覚してマスク、手洗い、うがいなどの

感染予防を励行し、

不要不急の外出を控えた。

それだけ未知のウイルスに対して恐怖と脅威を抱いた、

ということだ。

特に欧米で蔓延しパンデミック状態になると、

日本も早晩そういう状態になるのではないか、

どのように迎え撃てばいいのか、

などと不安を募らせた。


私達は約100年前に世界的に大流行し、

日本でも当時の人口の3分の1弱が感染し、

約40万人の死者を出したスペイン風邪を知らない。

新型コロナウイルスをどこからか降って湧いた

得体の知れない怖ろしい敵軍に見立てて、

欧米を圧倒的に席巻しつつ、

日本へも本格的に押し寄せてくる、

という悪夢のシナリオを描いたのは、

僕だけではなかったろう。


幸い日本の感染拡大は下火に転じ、

緊急事態宣言は解除された。

しかし、

収束させての解除ではなかったために、

再び感染拡大が始まり、

夏に第2波に見舞われたが、

その勢いはあまり強いものではなかった。

政府は経済を活発に回す好機と捉え、

Go To トラベル、Go To イートなどを打ち出したが、

国民の多くにコロナに対する根強い不安は残ったままだった。


この時期に劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」は公開になった。

鬼と人間の戦いを描いて、

選ばれた強い鬼達と戦う人間である「鬼殺隊」柱達は、

劣勢に立たされながらも熱い友情や、

深い肉親愛に支えられて鬼達を斃していく。

観客は鬼達をコロナにたとえ、

柱達の大奮戦に感情移入し、

いっときコロナに対する恐怖や、

不安を一掃させカタルシスを味わったのだろう。


同映画は「千と千尋の神隠し」の興収記録を軽く塗り替えた。

2020年の暮れに第3波が始まり、

年が明けて第2回の緊急事態宣言が発出された。

それが解除になった頃は、

あれほどのブームはまぼろしだったのかと思えるほど、

日本での「鬼滅の刃」の社会現象は駆け去って消えた。


コロナ禍は第4波に入り第3回の緊急事態宣言下の今でも、

第1回、第2回の同宣言の発出中の感染者数を

上回る規模で続いている。

私達から恐怖も不安も拭い去られたのか。

そんなことはない。

ただ、慣れてしまったという側面がある。

自分は大丈夫だろう、

という虫のいい慣れ方の人も多い。


さて、小中学生の読者感想文を選考のために読む機会が、

この3,4年間で4,5回あった。

感想文の対象になる本は定番の感じの課題書が多いが、

制限がない場合は新しい作家による児童書、ラノベも入ってくる。

小学生の感想文で「ふしぎ駄菓子屋 残天堂」のものがあった。

偕成社から2013年に初巻が刊行されており、

廣島玲子さん作。

その初巻を読んでの感想文だった。

感想文そのものは感心できるものではなかったが、

その児童書作品そのものは発想が面白く、

主人公の残天堂主人紅子は不可解な魅力に富んでいる。

展開も意表を突いてくるし沁みるような恐怖もある。

しかし、癒やし系と言えるだろう。

同シリーズは、

現在までに15巻まで刊行されており、

累計発行部数は300万部超だという。

「鬼滅の刃」のそれの億超えとは二桁も違うが、

コミックではなく児童書である点を考慮すると、

見るべき売れ行きである。

また、

昨年9月よりNHKEテレでアニメ放送され、

この4月6日からは新作の放送がスタートしたこともあって、

社会現象化するかどうかはともかくとして、

かなりのブームになりそうである。

「鬼滅の刃」とは違った意味で、

コロナ禍による不安や、

恐怖を和らげてくれるかもしれない。