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(画像はこの記事とは関係ありません)

もうとっくに
留年が確実だったけどね
なにしろ
100単位は不足していて
追再試験を受けたって
到底 おっつかない

末っ子だったから
両親は共にもう60代
卒業できないと知って
嘆かせたくなかった

いや
本当は嘆かれたり
怒られたりしたくなかったのよ

でも
親許から通学していたのだから
僕の実態は把握していたと思うよ

今だったら
ヤバイっす ってところだから

当時
しょっちゅう会っていた
親友が1人いてね
自宅から1駅上りの街の
アパートに住んでいた

学部は違ったけど卒業を控えていた

よけいなことになるが
隣室に僕らとほぼ同年の
女の子が2人住んでいた

親友の部屋は3畳で殺風景
彼女たちの部屋は4畳半で
雰囲気も華やかっぽい

彼女たちの部屋で
合コンを数回やったっけ

そんなことはどうでもいっか
卒業式を終えて
親友は研修で出勤が始まった

「卒業証書を貸してくれ。
  この部屋もきみが戻るまで貸してくれ」
「どうすんのよ?」
「卒業証書を偽造すんのよ」
「何に使うんだ?」
「親孝行のためだ」

それ以上何も訊かずに
親友は卒業証書と
日中の部屋を貸してくれた

その部屋の机に僕が用意したものは
以下の通り

彫刻刀
無地の賞状用紙3枚(2枚は予備)
謄写版用原紙3枚(2枚は予備)
鉄筆1本
墨汁と筆
サツマイモ1本
朱肉

卒業証書の上に謄写版原紙を重ね
印刷されている文字の輪郭を
鉄筆でなぞる

古新聞にその原紙を重ね
今度は彫刻刀で輪郭通りに
切り取っていく

次に賞状用紙に原紙を重ね
筆に墨汁を含ませ
原紙に塗っていく
乾いた頃を見計らって原紙を取ると
印刷されたように
卒業証書ができあがる

筆で僕の名を書き入れる

さつまいもの断面を使って
彫刻刀で総長印の偽造にかかる

これには細心を極めて
集中力を要したな
それでも 雑になった

ままよ
と 朱肉をべったりつけて
総長氏名のすぐ下に捺した

できたできた
と喜んで見直したら
学部が商学部になってんのよ
僕は法学部だもん

ガックリきたけれど
同じ手順で作り直した
孝行心を募らせてな

法学部の卒業式に
映画館で暇を潰して自宅に戻り
母に見せると
よかったよかった
と 感激してくれた

夕食はお赤飯
それを食べているときに父が帰宅
母が卒業証書を嬉しそうに見せた

父は見ているうちに顔を険しくした
でも ただ一言
「大事にしろよ」
と 僕に卒業証書を返した

4月に入って
授業料納入の案内が郵送されてきて
僕の偽卒業はバレた

しかも
次の年も留年したのだから
偽卒業証書に父母は
どんな思いをしただろう

2年留年して卒業したときは
母は本当に喜んでくれた

父は本物の卒業証書を見て頷くと
「これも大切にしろよ」
と ただ一言

偽の卒業証書は
何年かはあったと思うが
いつのまにかなくなっていた

結婚が決まって
母がそっと抜いて
焼却処分にしたのだと思う

記念にとっておきたかったけど