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ものを書く世界を目指す人には
ぜひ読んでもらいたい

いや
読まないで貰いたい
という思いも強い

それだけ怖い掌編である

読む人によって
また 読み方によって
毒にも薬にもなる

副作用が強い
しかし
惹かれる

主人公は
ものを書く世界の闇に
自らを落としめることによって
そのことを光のようにまばゆく
描出している

主人公は
を この作品の作者は
に置き換えてもいい

山月記は
唐代の「人虎伝」に材を得ている
「人虎伝」は文中で語られる因果によって
人から虎に変じた因果譚に過ぎないが
山月記の主人公 李徴は
どんなに研鑽を積んでも報われぬ
おのれの詩業に怒り狂い
荒野に駆け入って虎に変じる

しかし
虎になっても報われないでいる
おのれの詩業への思いを断ち切れず
今は官の世界で
順調に出世コースを歩んでいる
旧友の行列が通りかかると
その思いを綿々と訴える

そして
詩業の犠牲にした妻子のことには
付け足しのように触れて
自分が虎に変じたことは言わないでくれ
と 頼むのである

さらに 虎の李徴は
未発表の詩を口承して
旧友に記録させる

報われぬと悟りながら
なお 自分の作品を後代に伝えなければ
虎になっても死んでも死に切れない
という妄執が痛切に読む者に迫る

虎に変じた因果は
その妄執を捨てられない
李徴の内面に存在した

それは
この作品の作家の思いそのものに違いない

作家 中島敦は
その生涯で作品数は20編に満たない
中編が1、2編
あとは短編 掌編で
未完成のものがいくつも混じる

最初に世に出た作品は
この山月記で
昭和17年の2月に発売された
文學界に掲載された

中島敦は
その年の11月に
喘息の発作で他界した
まだ 33歳だった

山月記は戦後
芸術性に優れた作品として
評価を高めてきた

中島敦は
ものを書く世界の闇に浸り
報われぬ思いを強く遺して
旅立ったかも知れない

しかし
山月記を初めとして
その遺作は時と共に
見事 その闇から這い上がり
鮮烈な光彩を放って
読者の心を捉えて離さない