風の便りにも見放された

元友達がいるの

高校時代からのだよ

21、2歳までつきあっていたけれど

大学生の身としては

負担がハンパない

借金を申し込まれ

断ったら消息を絶った

それから

20年近くが過ぎて

僕が直木賞を受賞して半年ほどの頃

彼は僕の前に忽然と現れた

窮状を伝え借金を申し込まれ

当時の直木賞受賞の賞金程度だったので

つい貸した

直木賞は正賞が懐中時計で

副賞が賞金だった

副だから少なかったな



話は戻るけど

返済は期待しないで貸した

それからひと月も経たないうちに

彼はまた現れ

土下座して

「何にも言わず
  500万円貸してくれ」

と 言った

「ひとこと言うよ
  きみに貸す金はない」

彼は土下座を続けた

その彼をそのままに

僕は締め切りの迫った

エッセイの執筆に入った

「解ったぞ お前の誠意」

彼は血相を変えて立ち上がった

鬼の形相で

しばし 僕を睨みつけ

「裏切りやがって」

という捨てゼリフを残して去った

彼のセリフにも1ミリの理はある

と 僕は独りうなずいた

明日返す

今度会ったときに返す

そういう言葉に

何度 裏切られたろう

僕は彼の土下座を裏切ることで

おそらく

一生悔やむことになったであろう

彼の大きな裏切りを防いだのだ


彼 今どうしているのかな

高校同期の誰に訊いても

その動静は知れない


ここからは

前述のエピソードとはあまり関係ない

僕の裏切り論になる


 人生は

 1度 裏切ったら

 殆どは後戻りはきかない

 人生は裏切りの誘いが多い

 本当に多いんだよ

 上向きの人生になると

 しょっちゅうあるんだ

 裏切りの報酬は

 蜜のように甘いんだ

 つい誘いに乗って裏切ると

 後戻りは不可能なんだ

 ちゃんとした人間は

 相手にしてくれなくなる

 裏切りは深く静かに

 広範囲に知れ渡る

 相手にされないから

 裏切りの誘いにまた乗る

 そうなって気がついたら

 裏街道の人間になってる

 
 裏切られた人間は

 凄く辛い思いをしたから

 人を裏切ることの罪深さを知る

 だから 人を裏切ることをしなくなる

 ということは

 自分を磨くしかない

 真面目に努力するしかない

 裏切られて人間として

 何が貴いかを知る

 裏切られていいってことになる

 言っとこう

 裏切りの誘いに乗ったら

 そこで人生終わるぞ!