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昔なあ


 まだ復員兵が


 働き盛り盛りの頃のことだ


 バイト先にね


 仏のおっさんと異名をとる四十男がいてね


 バイトの世話係だった 


 話せる人で面倒見がよくて


 俺たちバイトを可愛がってくれてね


 それで仏のおっさんと言われたんだが


 のちに独立して大をなした


 俺がまだいるときに


 独立のためにやめるんで


 バイトの有志数人で


 送別会をやった


 仏のおっさんは


 気持ちだけもらうよ


 と涙ぐんで言って


 その頃のおれたちにとっちゃ


 高嶺の花もいいところの


 魚料理の店へ連れていってくれた


 初めて話すことだけど


 と前置きして戦争体験を話してくれた


 仏のおっさんがいた部隊は


 南方のジャングルで敗走を続け


 生き残ったのは10分の1以下だったそうだ


 仏のおっさんが所属していた小隊に限れば


 生き残ったのは仏のおっさんを入れて


 たった2人だった


 殆どが戦病死で


 そのうちの半ばは飢餓死だったってよ


 仏のおっさんは行き倒れた看護兵から


 包帯を託されたそうだ


 薬はもう何もないからってね


 敗走中に負傷した戦友は


 力尽きてバタバタ倒れていく


 仏のおっさんは


 もう助からないと思っても


 包帯を巻いてやったんだな


 そのとき


 ダラダラ流れる血を


 舌でぺろぺろ舐めてやった


 それから包帯を巻いた


 仏のおっさんは


 お父さんから


 スッポンの生き血や


 コイの生き血は精が付くぞ


 と聞かされていたんだよ


 戦友の生き血を舐めることで


 餓死を免れたんだそうだ


「おまえら 人生では飢狼になんなきや

 生き残れないときもあるぞ

 俺のように生き血を吸えとは言わないが

 何が何でも生き残れ

 でも 人間性を失くすなよ

 流れる血をぺろぺろ舐めたのは

 死んだ戦友の肉を食らうのとは

 違うだろうが」


 そのときの仏のおっさんが


 俺には鬼に見えたね。