少し濡れたね

 これから土砂降りになりそう

 強く握りしめた傘を

 差さないで飛び込んできたけれど

 帰りは差さなきゃ

 きみがどこの誰かは知らない

 たまたま僕がいたカフェに

 きみは飛び込んできた

 ただそれだけのことだもの


 でも  解る

 きみはすぐそこの地下鉄の出口で

 人待ち顏だった

 少し表情を歪めて

 待たされていたんだね

 過去にもあっただろう

 遅れてきた彼と短い口喧嘩をした

 どうしたの 前にもあったわね

 そのきみの詰問に

 彼は黙っていた

 もう会わないわ  サヨナラ

 きみは背中を向けて

 走ってここへ飛び込んだ

 きみはこの街の子じゃないだろ

 本当にサヨナラするつもりなら

 エスカレーターを降りて

 改札に向かう

 本当に振ったのなら

 背筋を伸ばし背中に

 決然としたものを滲ませて

 未練を断ち切るように

 降りていく


 きみの今の表情は

 悲しそうだもの

 好きなんだね 彼のこと

 濡れた髪が乱れてる

 雨の日は心にもないことを発し

 すぐに悔やんで

 悶々と悩みがちなんだ

 彼が遅れた事情は

 きみに言いたくないんだと思う

 きみが心配するから

 
 出がけにお母さんに

 何か言われたのかな

 きみのことで


 きみには死角になってるけど

 今 街路樹の陰に彼が現れ

 きみのほうを見てるよ

 傘を持たずに髪や肩は

 ずぶ濡れだよ

 早く気づいて迎えに出なきゃ

 無言のお節介は

 もうやめるから

  ゆっくり話しあいなよ