ライライが
 おれのパソコンの上に
 座ってる。

  「落ち着かないな
   姿 見せないんじゃ」

  「あなたにだけ
   姿が見えるようにもできるんだけど
      めんどくさいし」

  「オバケもめんどくさがるんだ」

 おれは口パクで話してる
 ライライの声は
 他人には聞こえない。

  「それより
   回された資料
   早く入力しないと
   あれに怒鳴られるわよ
   いつも あなたを怒鳴ってるの
   あれでしょう」

 やべ
 ライライがあれと言った
 正社員のやつがこっちへくる。

  「おい 派遣」

  「あのぉ 僕
   名前があるんですが…」

  「派遣で上等だろ
   派遣なんだから
   それよりモタモタしてるな
   さっさとすませろよ」

  「はいはい」

  「クソガキが
   はいと1回だけ返事しろ!」

 あれは行ってしまった。

  「パワハラじゃない」

  「慣れっこだよ」

  「でも それ 片づけなきゃ
   大変でしょ」

  「やる気しねー」

  「何甘えてんの
   よし
   オバケのおまじないしてあげる」

 おれの額と後ろ首が
 やや冷たく湿った
 マシュマロのような感触に
 侵された。
 ライライの手らしい。

  バケバケバケバケバケ オバーン
  バケバケバケバケバケ オバーン

 ええっ とおれ自分を疑ったぜ。
 もう何年も忘れていた
 やる気が起きたのよ。
 おれの指は速射砲の勢いで
 キーボードを叩きだした。

  「やればできるじゃない
   終わったわね
   ちょうどお昼休みか
   さあ 外へ行こ」

 おれとライライは
 社の外へ出た。

  「ねえ 姿を現すわ
   わたし
   下部から糸を垂らすから
   それを握って」

 ライライは
 おれの頭上2メートルのところに
 姿を現した。
 円盤状の下面中央から
 タコ糸のような糸を垂らした。
 おれはそれを握って歩いた。

 ライライは
 円盤状の下半身?を
 ゆらゆら波打たせている。

  「うわーっ
   カワイイ風船!

  「どこで売ってるの?」

  「ほしい!!!」

 道行く会社勤めの女の子たちが
 口々に歓声を挙げた。

  「ねえ 何食べるの?」

  「豚骨ラーメンと餃子」

  「バランス悪いわよ」

 ライライは苦言を呈した。
  



   
    


 おいおい

 目立つよ

 誰が見ても変だよ

 そうか

 本州最果ての営業所に

 異動になったのか

 今までヒラだったのに

 営業所次長だって

 たった3人しかいない?

 所長と現地採用の女の子と

 きみと3人しかいない

 いいじゃないか

 会社ってのは肩書社会

 早いうちについたほうが

 勝ちなんだよ

 島流し用の営業所って

 噂があるのか

 上等じゃないか

 雌伏して力を蓄える

 それに遠くにいると

 よく見えるんだよ

 会社のことが

 勉強になるよ

 きみの会社のこと

 ちょっと調べた
 
 春に40歳そこそこで

 執行役員になったSさんているだろ

 彼
 
 きみが行く最果ての営業所に

 飛ばされたんだってよ

 上司に煙たがれたらしいね

 3年で本社の流れが変わった

 彼は 仙台支社の部長に

 抜擢された

 それから3年で

 本社の部長だろ

 それからはとんとん拍子だ

 僕の見るところ

 きみの会社は

 新旧交代期に入ってる

 新旧交代が完成するまで

 いろいろあるだろ

 本社にいて巻き込まれ

 あたら将来を危うくするより

 ここは雌伏のときだよ

 雌伏3年で大きな流れが生まれる

 それからだよ

 最果てで

 しっかり勉強してこい

 

   
 どこまで続くんだ
 このぬかるみ
 ってとこだろうね

 同情するよ

 でも
 心が折れかけている
 自分に同情したら
 そこで終わる

 ここに100社あってね
 その中の1社が
 きみを採用するところだ
 としようか

 1社目が当たりだったら
 そりゃ楽だ
  100社目が当たりだったら
 なんて自分は不運なんだ
 と思うだろう

 確率の問題と考えれば
 そう思ってもいいよ

 でもでもサ
 ここが大事なところで
 就活は社会に出るためには
 どうしても
 抜かなければいけない
 難関なんだ

 しかも
 人生で抜くべき難関の中でも
 重要度が高い

 ここで苦労を味わった人間は
 伸びるんだよ
 社会に出るための
 磨きをかける関門なんだよ
 1回で通って
 社会を甘く見るようになる
 のと比べてごらんよ

 きみは何回やったんだ?
 36回か
 100回まではまだまだだな

 エッという顔をしなくてもいい
 あと数社だな
 耐久レースによく耐えた
 そろそろ結果が出るだろう

 ぬかるみを転ばず
 踏破してきたんだから
 待ってる社があるよ
 

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