にわか雨がやんで、
鮮やかな虹が出た。
私は湧斗を車椅子に乗せて、
テラスに出した。
「ほら、とてもきれいでしょ。
  東京では見られない虹ね」

私は急いで、
洗濯機のところへ行った。
下着類だけでも洗濯して、
夜になるまで乾かしたかった。
「ウワッ、キィーッ!」
するどい叫び声に、
私は顔色を変えて、
テラスへ向かった。

湧斗は、
庭の百日紅の幹あたりを指差して、
表情を固まらせていた。
恐怖のものではない。
むしろ、
喜びのものだった。
「あそこに、ダース・ベイダーのおじさんが
  将来の僕のお嫁さんを連れて、
  現れたんだ」
「まさか」
「ほんとだよ。2人ともはじめは
虹の上に立っていたんだ」
湧斗は不服そうに私を見た。

白昼夢を見たのかな、
と私は思った。
親にほとんど弱音を吐かない
子だったが、p
心での葛藤は小学2年の
子供には耐え難いときもあるだろうに。

湧斗は6歳になる少し前に、
小児期に発症することの多い
難病にかかった。
不幸中の幸いというか、
進行はいたって緩やかで、
まだ普通に歩くことができた。
車椅子は、
疲労を蓄積させないよう
使わせている。

湧斗が小学校に上がる前、
我が家は東京から首都圏内の、
この地へ引っ越してきた。
夫の実家は農家で、
その農地の1部を宅地に直してもらい、
家を新築した。

湧斗が通う養護学校は、
この我が家から
車で約10分のところにある。
その送迎は私がやっていた。

「虹が消えたな」
義父が田仕事の格好で、
庭から入ってきた。
私は湧斗が言ったことを、
そのまま話して聞かせた。
「俺がやったDVDを
 観てくれているんだ」
義父は相好を崩した。

義父はスターウォーズのフアンで、
買いためていたシリーズのDVD を、
去年の暮れに湧斗にくれた。
湧斗は今でも観て楽しんでいる。
「2人とも、1本足だったんだよ」
湧斗が義父に訴えるように言った。
「1本足のダース・ベイダーか。
  おっ、それは~」
義父がごつい手で自分の膝を叩いた。
「3歳の夏にみんなで泊りにきたときに、
  うちの田んぼで見たんだぞ、湧斗。
 俺が作ったダース・ベイダーの
 案山子だよ」
「お義父さん、悪役が好きなんですか?」
私の声には咎めるものが
こもってしまったらしい。
「ダース・ベイダーはな、
 人間味があって、ときどき、
ホロっと させるのよ」
私にむきになって言い、
義父は湧斗に顔を向けた。
「そうだよな、湧斗」
「うん」
湧斗は大きくうなずいた。

次の日曜日の昼に、
我が家の庭で
バーベキューをやった。
湧斗と私たち夫婦、
 義父夫婦で
総勢5人の食事会だった。
義母が庭先で作っている
夏野菜を両手で抱えて
持ってきてくれた。

湧斗が見た白昼夢(?)が話題になった。
「きみの将来のお嫁さんは、
 どんな顔と格好をしていたんだ?」
夫が湧斗のほうへ身を乗り出した。
「顔はシンデレラかな」
「うちの絵本のシンデレラの顔か?」
「うん」
湧斗は恥じらうようにうなずいた。
夫は社員10人前後の児童出版社で、
編集長をやっていた。
新刊が出るたびに家へ持ち帰り、
湧斗に渡していた。
「真っ白いドレスを着ていたんだ。
  それが段々こんな色に
  染まっていったんだよ」
湧斗はまだ焼いていない
ニンジンを指差した。
「やはり、1本足だったの?」
訊いた義母の頭を
ポンと軽く叩いてから、
義父は私たち親子を向いて、
「そんな案山子は、
  俺、作っていねえぞ」
と笑いながら言った。

開放したままのドアから、
湧斗の寝息が届いた。
私たち夫婦の部屋と湧斗の部屋は、
それぞれにリビングに出入りする
ドアとは別に、
そのドアで直接行き来できた。
「先週、診察があったの。
 気になるほどの呼吸器障害は
 認められないし、
 相変わらず進行は緩やかだ、と
 褒めていただいたわ」
「それはいい」
「さっき、庭で湧斗が、あの言葉を言ったとき、
 私、胸が詰まったわ。一瞬、
 しんとなったわね」

いつになく多弁だった湧斗が、
こんなことを言った。
「僕の将来のお嫁さん、僕がちゃんと
 迎えられるといいけれど~」
一瞬、止まった空気を破るように、
夫が高揚した声で言った。
「虹のてっぺんから、この庭へ
 舞ってきたんだな。
 凄いファンタジーじゃないか。
 湧斗、そのうち、それをヒントに
 童話を書けよ。きみなら書ける」

「あなたの言葉であかるくなったわ。
 ありがとう」
私は夫に頭を下げた。
「1本足のシンデレラの正体って、
 解るかい?」
「ううん」
私は首を振った。
「2歳のときかな。東武動物園に行ったろ。
 覚えてる?」
「覚えているわ。あっ、フラミンゴ」
思わず少し声が大きくなった。
あのとき、
湧斗はフラミンゴの展示場から、
なかなか離れなかった。
「湧斗は記憶力が優れている。
  ちゃんと覚えているんだよ」
「あの頃が私たち、
 いちばん幸せだったわね」
夫が軽く私をにらんだ。
「今と比較しているのか。
 僕は今のほうが幸せだよ。
 湧斗と共有できる夢があるから」
「夢って?」
「自分で考えてほしい。そして、
 きみもその夢を共有してほしい」
夫は厳しい目をした。

次の日、
夫を送り出し、
湧斗を車で送って帰宅してから、
私は自分を見つめ直した。
3時間ほど、
湧斗が発症してからの自分と湧斗、
自分たち夫婦と湧斗の関わり方を
振り返ってみた。

大きなことに気がついた。
私は湧斗を不憫がり、
返す刀で、
そんな自分を憐れんでいた
のではないか。
これも運命か、と自分を、
湧斗も夫も含めて我が家族を、
自分だけで慰めていただけだった。

湧斗の難病に、
湧斗自身は健気に
平静に振る舞っているのに、
母親の自分は負けていたのだ。
私は心で湧斗と夫に謝った。

夏の終わりに、
夫が切り出した。
秋の連休に家族3人で
ケニアのポゴリア湖に旅したい、
というのだった。
「ツアーではないし、向こうでガイドも雇う。
  カネはかかるよ」
「ローンを1年でも早く返したい、
 ってあなた、飲み会も断って貯めたおカネよ。
 それに手をつけていいの?」
「うん。湧斗にとって、そして、
  僕らにとってもとても大事な 旅なんだ」
「解ったわ。湧斗とあなたが共有している
 夢を、私も共有したいの」
「そうか」
夫は子供のように無邪気な
顔になってうなずいた。
「中学、高校になったら
 あの子、何か書きだしそう。
 私、校正の真似事ぐらいできるかな」


ポゴリア湖が見えてきた。
私は湧斗の将来に
思いをはせるのをやめて、
その湖面に目を凝らした。

夫の見る目に間違いがなければ、
湧斗は大学生か、
初々しい社会人の頃には、
年若い童話作家として
身を立てられるかもしれない。
しかし、
あくまで才能次第だし、
難病の進行が緩やかに推移する、
という条件がついて回る。
運よく名を挙げられたとしても、
それからの湧斗に残された時間は、
数年しかない。
そこへきて気持ちが沈んだときに、
窓外にポゴリア湖が見えてきたので、
救われた心地になった。


湖畔近くの湖面に、
白とオレンジのまだら模様ができていて、
巨大な織物がうねっているように見えた。
フラミンゴの大群だった。
その大群は、
いっせいに飛び立ち、
空中で帯状になり大きく弧を描いて、
他の群れが造る帯を
吸収していった。

後ろで車椅子のまま、
ガイドが運転する
このボックスカーに乗った湧斗が、
私の肩を突いた。
「この湖は、アルカリ塩湖なんだよ。
 それで大量に繁殖した藻を食べてさ、
 フラミンゴは白から紅くなっていくんだ」
私は黙ってうなずいた。

要望していた静かな湖畔に着いた。
ここにも大群が羽を休めていた。
ガイドを車で休ませて、
私は湧斗の車椅子を押して、
湖畔に近づいた。
夫はすぐ左横をのんびり歩いている。

フラミンゴが不意に鳴きかわし、
羽音を響かせていっせいに飛び立った。
たちまちのうちに、
何千、いや、万を超える
空飛ぶ帯になって、
緩やかな旋回を始めた。
息を呑んで見あげているうちに、
大群はやや西に傾いた太陽を遮り、
あたりを、さ~っ、と翳らせた。

空のフラミンゴ大群は、
みるみるうちに数を増やし、
5万羽10万羽の超大群になって
旋回を続けている。

その群れから抜けたらしい1羽が、
私たちの正面の浅瀬に降り立った。
「僕の将来のお嫁さんだ!」
湧斗が車椅子から離れて、
水辺へ歩いた。
すると、
そのフラミンゴも浅瀬を歩いて、
湧斗へ近づいて足を止めた。
私は目を疑った。
湧斗とフラミンゴの間隔は、
5メートルもなかった。
フラミンゴは、
片足を腹部へ上げて1本足になった。
体色の1部が薄く紅かったが、
お嬢さんぽかった。
ジイーッ、と湧斗を見つめている。
「お見合いだね」
夫がつぶやいた。

将来の湧斗のお嫁さんは、
名残惜しそうに飛び立った。
「待ってるよ~、
いつまでも待ってるよ~!」
湧斗は右手を高々と挙げて
強く振った。
「今の湧斗の言葉の意味が解る?」
夫が将来の湧斗のお嫁さんを目で追いながら、
何気なく訊いた。
「私も少しフラミンゴのことを調べたの」
「ほう」
「野生でも50年は生きるって。
 動物園では80年以上も生きた
 ケースがあるんだって」
「ということは・・・」
「湧斗にとって、いつかこの世を去るときは、
 新しいファンタジー世界へ旅立つことなのね。
 自分が開拓して幸せな主役になる。そこで、
 きみを待っているからね、ってことでしょう?」
「完璧な答えだ」
夫は満面に笑みを浮かべた。
きっと、
私も幸せにあふれた顔になっている。

「待っているよ~!」
超大群に紛れて、
もう将来のお嫁さんの特定は
できなくなっているのに、
湧斗はまだ手を振り続けていた。

 








  






  

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ももクロが歌うと
体が芯から熱くなってくる

男性的だとか
何とかじゃなくてさ

ほら
イソップにもあるだろう
旅人にコートを脱がせる話

風じゃ駄目なんだよ
坂口安吾の風博士じゃねえけど
後に何も残らねえ

ただ 限りない愛情で
歌ってくれりゃいい

身も心も熱くなってきてな
変な意味じゃなくて
生まれたまんまの姿になれる

名前に夏が2人いるからなあ
後の2人は春と秋か
どっちが春でも秋でもいい
春夏夏秋

春に芽吹いて
2つの夏の太陽で
秋の実りがでっかいぞ!!!
でいいだろ

夏の2人は
共にAB型だろ

血液型で人の性格が分けられたら
医学も科学もいらんわ
根拠はねえんだよ

でも
物心つく頃から
あなた〇〇型なの
じゃ
性格は△△△△△でしょ
なんて言われてみな
知らず知らずに刷り込まれる

それを念頭に置いても
AB型の2人は
補い合う関係になってる

AB 型はAとBという
相反した要素を内在させている

天真爛漫で
糸の切れた凧にもなりかねない
リーダーをリーダーとして支える
人がいて
天真爛漫な部分を活かし
リーダーとしても
大いにやっている

もう1人のAB型は
内在する要素の一方を抑え
リーダーを支え
他の2人にも目を配り
全体の調和と安定を図るんだよ
A型もO型も
ときに2人のAB型の間に入り
潤滑油の役を演じている

まとまってるぜ
この4人はよ

存在自体が四字熟語だ

原始女性は太陽だった
ってイメージをかき立てられるな

ゴタクを並べたけど
元気をなくしている輩は
音痴でいいから
この曲を歌え!

元気になるフレーズの
宝庫なんだよ

それと
これのMVも
シュールな傑作だ
と 言っておこう

乱世はチャンスだぞ
拾え拾え
そのチャンスをさl






奈摘がストレッチをやっっている。
くたくたのTシャツに、
洗いざらしのジーンズという
普段着姿で、
体のあちこちを
グニャリグニャリと折り曲げては
スーイスーイと伸ばしている。

本当に柔らかい体をしている。
見る角度によっては
両腕、両脚が見えず、
ダルマさんかと驚くことがある。

見ていて、
変な気になることがある。

「何、そんな顔をして~」
奈摘が動きを止めずに、
切れ長の目を少し流して
僕を見た。
「いや、なに、相変わらず柔らかいね」
僕は心の底を見透かされたように、
しどろもどろになった。
「あなたもやれば」
奈摘の弾むような笑い声を背に、
僕は小さな書斎兼仕事部屋に入った。
シフトで今日は在宅勤務だった。

奥の壁に作りつけた机へ行って、
頬杖を突いた。

菜摘と結婚して、
そろそろ 1年になる。
大学の先輩の紹介で会い、
一目惚れに近かった。
「不倫が好きでね、きみとは正反対だよ。
  すべてが正反対かもな」
菜摘が席を外したとき、
先輩が小声で言った言葉に、
僕は驚愕した。

それでも、後日、
僕は菜摘にデートを申し込んだ。
そうして、
最初のデートを終えて
帰宅した僕は、
菜摘に心を虜にされた男
になっていた。

僕は人見知りするタイプで、
メニューを開いても
菜摘の好みを確認するのに、
もぞもぞ手間どった。
それを見て、
菜摘は僕の好みを確かめると、
ウエイターにテキパキとオーダーした。
言葉少なの僕に次々に話題を変え、
うまく会話をリードしながら、
雰囲気を明るく盛り上げた。

ただ 菜摘は酒類は駄目で、
飲み物はノンアルコールだった。
僕はそれほど強くはないが、
焼酎のお湯割り2杯の
晩酌は欠かしたことがなかった。

菜摘は根が甘党だと言ったが、
「これ、ジムへ通う前の私よ」
と レオタード姿の画像を見せた。
おデブさんではなかったが、
どことなくふっくらした体型だった。

2度目のデートで、
僕はプロポーズした。
引っ込み思案の僕が
どうしてこんなに果敢なのか、
と自分でも驚いたほどだった。

それ以上に、
彼女の打って変わった
しおらしい態度に驚かされた。
「いいの、私で?」
「菜摘さんでなければ、
 僕は、駄目、なんだ、よ」
堅物と言われている僕が
こんな言葉を吐くなんて。
「嬉しいわ、本当に、嬉しいわ」
菜摘は切れ長の目に、
うっすらと涙を浮かべた。

そのときの菜摘の様子に、
先輩の言葉を思い出し、
僕は一抹の不安を覚えたものだ。

あれだけの魅力を持った
女性だから、
恋のいくつかはあったに違いない。
その1つの相手が
妻帯者だったのだろう。
僕のプロポーズに
涙を浮かべて喜んだのは、
その人に対して
まだ残っていた想いを消して、
心の整理がついたからだ。
きっと、そうだ。


僕は先輩に菜摘と結婚する
ことを報告した。
「そうか、よかったな。お互いに
 補いあっての相性はいいぞ」
「あの~」
菜摘のことで訊きたいことがあったが、
切り出せなかった。
「きみらにふさわしい愛の巣を
探さなきゃな。プッケンのことだ」
先輩には、
濁音と半濁点の区別などが
不明瞭のときがあった。
「物件だよ、物件。6万円のアパート
 じゃ、しょうがねえだろ」
先輩は不動産会社に勤めていた。

結婚してから
菜摘に不満を持ったことは
1度もない。
フレンドリーで闊達な性格だから、
人間関係は豊かだった。
特に男性からは慕われた。
しかし、
要所では毅然とした態度をとり、
けして隙を見せなかった。

出勤する姿で、
菜摘はコーヒーを運んできた。
「テレワーク、ご苦労様。行ってくるわね」
部屋を出ていく、
その後ろ姿を見送った。
ひと頃に比べると、
少し体重が増えたように見えた。

そう言えば、
ジム通いは週1回が
月2回ぐらいになっている。
自宅でのストレッチは、
欠かさないが。

ジム通いが減った分、
遅く帰ることは増えた。
菜摘は銀行の本部に勤めており、
先頃、異動があり、
残業が増えたらしい。

薬品会社の開発部で、
研究員をしている僕には、
菜摘の仕事の内容は
想像もつかなかった。

遅いと、
普段は心に針の先ほどの
菜摘に対する不安が、
一円玉ぐらいに膨らんでくる。

いっそブタちゃんぐらいに
太ってくれないかな。
それでも、
僕は菜摘が好きだ。
そのすべてが好きなのだ。

結婚1周年は、
海の見えるフレンチレストランで、
豪華なランチで祝った。
菜摘のチョイスで、
とびきり美味しい赤ワインを、
僕は1人で飲んだ。
菜摘は食後の、
その店創作のフルーツケーキを
慈しむように食べた。
「太るよ。いいの?」
この2週間で2キロ近く増えた
ようだ、と僕は思った。
「筋肉バキバキの女って
 男は嫌でしょ」
「僕はいいよ」
「あっそうそう。今週の木曜日、
 少し遅くなるわ」
「残業?」
「今度の部署での上司って、
 私の入社時の部署の上司だったの。
 誕生日なのでお祝いしてあげたいの」
菜摘はさざ波に
昼下がりの陽光を受けて、
間断なく輝く入江の海よりも、
双眸をキラキラさせて言った。

その日の夜、
僕は菜摘の帰りを
イライラしながら待った。
やっと帰ってきたので、
僕は壁に体を向けて
狸寝入りをした。

やがて、
化粧を落とし
パジャマに着替えたらしい
菜摘が寝室に入ってきて、
ベッドの僕に、
「楽しかったわ、とても」
と、弾んだ声を上げた。
僕は体を固くして黙っていた。

翌々日の土曜日、
僕は先輩にメールを送った。
(菜摘の入社時の上司で、
 今の部署の上司を知っていますか?)
さすがに、
不倫の相手だった人か、
とは訊けなかった。

買い物から帰ってきた菜摘が、
話がある、
と改まった感じで、
リビングのテーブルにいる
僕の前へきた。
「なに?」
「私、来月いっぱいで会社を辞めたいの」
「えっ、どうして?」
僕の心で針の先ほどの黒点が、
10円玉ぐらいに膨らんだ。

このとき、メールの着信があった。

(その上司は菜っちゃんがとても
 信頼している相手だよ。
 相談もよくしているらしいぞ。
勘違いすんなよ、お前。その上司は
女だからな)

菜摘は冷蔵庫から何か出してきて、
その蓋を開けた。
プリンだった。
「私、プリン依存症って
 言われたことがあるの」
菜摘は幸せそうに、
プリンにスプーンを入れた。
そうか、
先輩は不倫と言ったのではなくて、
プリン、と言ったのだ。
僕の顔は光るように輝いたはずだ。
「少しは甘いものも取らなきゃ。
 上司と夕食を一緒にした日、
 会社の近くの産婦人科へ行ったの。
 3ヶ月だって」
僕の顔は、
さらに輝きを増したに違いない。
「上司に言ったら、会社を辞めて
 子育ての準備に備えなさい、って」
「いいな、いいな」
僕は歌うようにつぶやきながら、
菜摘のほうに回り、
そのお腹をそっとなでた。

菜摘は夢中で
プリンを食べ続けた。



















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