2021年9月12日。日本女子サッカーが新しい幕開けを迎えた。日本初の女子プロサッカーリーグ、「WE LEAGUE」の誕生だ。

1989年に6チームから始まった日本女子サッカーリーグはL・リーグ、なでしこリーグと変遷を遂げ、WEリーグが誕生する昨シーズンまでは1部、2部、チャレンジリーグを合わせ32クラブ、日本サッカー協会への女子サッカー登録者数は日本全国で5万人を超えるまでに拡大してきた。

その日本女子サッカーの象徴でもある「なでしこジャパン」(サッカー女子日本代表)が世界の頂点(第6回FIFA 女子ワールドカップ開催ドイツ大会優勝)に立った。今なお大きな爪痕を残した東日本大震災で傷ついた日本に勇気と希望をもたらし、国民栄誉賞にも輝いた2011年からちょうど10年。

その節目の年に誕生した新たなWEリーグのアンセム「WE PROMISE」を手掛けたのは、1993年に開幕したJリーグのアンセム「J's THEME(Jのテーマ)=以下、J's THEME」を作った春畑道哉(TUBE・ギター=以下、春畑氏)だ。その年の5月15日に行われた開幕戦で華々しく披露された「J's THEME」は29年が経った今もなおリーグの顔としてスタジアムやセレモニーで使用される名曲。今回、制作に入る前に春畑氏は「Jリーグと同じ人が作るべきか、女子サッカーのテーマとなれば女性アーティストや作曲家の方がふさわしいのではないか」と葛藤があったと言う。そんな春畑氏の背中を「あの素晴らしい曲の妹ができるんだね。とても楽しみです。」と押したのはJリーグの村井満チェアマン(制作当時)だ。Jリーグのような発展をめざすWEリーグにとってはまたとない人選となった。


春畑氏は関係者や知人を通じて、女子サッカーの映像やWEリーグの理念、ビジョンなどに目を通し、曲のイメージを膨らませた。まず、初めにこだわったのは女子選手達の生い立ち。幼少期には世間の女の子と同じようにピアノを習っていた選手が多いことや今はプレーしていなくてもサッカーをしていた女性にもWEリーグを知って欲しいとイントロから1コーラスはピアノを中心に構成されている。ピアノの音にもこだわり、国産のポピュラーなグランドピアノをチョイスしている。主旋律を奏でる甘めのギターサウンドのバックに心地よく響くピアノの音をじっくりと聴いて欲しい。


この楽曲は5つのパートに分けられるが、最初のパートとなる1コーラス目は「誕生から成長」をAメロ、Bメロでサビの部分は「幕開け」を感じることができる。デモテープでこの部分を初めて聴いたWEリーグの岡島喜久子チェア(以下、チェア)は思わず涙がこぼれたそうだ。自身が選手、裏方として女子サッカー創成期から携わって来たチェアにとってはこみ上げるものがあったのは想像に難くない。それほどまでに雄大で美しいメロディーに仕上がっている。
WEリーグの試合前に選手が入場する時に流れるアンセムは1番のサビの部分からとなっている。

そして、次のパートとなる2コーラス目からはドラムとベースが加わり、力強さを増していく。WEリーグの理念にも掲げられているジェンダー平等、多様性を表現すべく、DREAMS COME TRUE(以下、ドリカム)など多くのミュージシャンのサポートを務める女性ドラマーSATOKOと国立大学工学部入学の経歴で、6弦ベースを操る奥野翔太(以下、奥野氏)が担当。SATOKOが刻む正確かつ繊細なビートとフェイントやワンツーを彷彿させる奥野氏のベースがゴールへ向かうWEリーガーの躍動をイメージさせている。サビに入る直前の小節では、ドラムとベースがピタっと止まる瞬間はまるでサッカーのリスタートを想像させるシーンとなっている。



3つ目のパートはギターソロ。2コーラスのサビから6小節でソロを迎えるが、普通の楽曲では8小節の演奏後にギターソロが入る。しかし、流れからのゴールを意識し、ふいをついた形でのソロ部分はサッカーは「いつゴールが入るかわからない」、「ゴールの瞬間の歓喜」を表している。春畑氏は「攻守の入れ替わりを左右のチャンネルにギターのリフとバッキングを振り分けてみた。ドラムとベースもそれに呼応したイメージでアグレッシブな展開でゴールシーンを感じてもらえたら」と語っている。リーグ関係者からはゴールシーンで使えるパートをリクエストされたそうで、そのリクエストにも彼は見事に応えている。

ゴールシーンではスタジアムの大歓声の後、一瞬の静寂が訪れることがよくある。ギターソロの後にはそれを感じることができる間合いが入れられている。ピッチ上に吹く微かな風。

4パート目となるラストのサビはその「間」を挟んで試合後半の盛り上がりや次のゴールへの期待、勝利への執念を後押しするサポーターの手拍子。これらが重なり、よりエキサイティングな試合やスタジアムの一体感、選手たちのプレーの激しさを感じることができる。

エンディングでは、試合が終わった後の勝利の喜び、走り切った選手の鼓動、ファン・サポーターの熱気などをギターのオーバーダビングによって感動的な終焉を迎えている。シーズンが終了した時、チャンピオンチームが優勝トロフィーを掲げるシーンにマッチするだろう。

この素晴らしい楽曲は春畑氏が当初から構想を固め、サポートミュージシャン、関係者とコミュニケーションを重ねて作り上げた賜物だ。デモ制作に始まり、ピアノ、シンセサイザー、ギターメロディー、バッキング、ドラム&ベースのリズム録りと順調に進んだこのナンバーにドリカムなどのバックコーラスで知られる浦嶋りんこのソウルフルなコーラスが艶やかさ、ブライト感を加え、晴れてこの曲の完成となった。


実は、春畑氏はスタッフと共にWEリーグ・プレシーズンマッチの大宮アルディージャVENTUS対日テレ・東京ヴェルディベレーザを観戦するためにNACK5スタジアム(埼玉県)へ足を運んでいる。スタジアムの空気や選手の表情を自身の目で見て、女子サッカーのクリーンでひたむきなプレーを肌で感じ、それを書きおこしたこの「WE PROMISE」。

9/12(日)には開幕戦となった神戸のピッチに立ち、INAC神戸vs大宮Vの試合前にまっさらなこの楽曲を披露した。

それから7か月が過ぎ、秋春制のWEリーグのファーストシーズンは終盤。5/14(土)に東京・国立競技場で行われる第21節INAC神戸vs浦和の試合前にも再び、春畑氏がピッチに立つことが決まった。それは93年5月15日に旧国立競技場で「J's THEME」を披露した日から29年目の最後の日と言うのだから感慨深い。Jリーグ開幕へ多大なる貢献をされた川淵三郎氏もこの日、春畑氏の演奏と女子サッカーを観戦に国立へやってくる。

#これは新しい日本のキックオフだ

WEリーグが10年後、20年後にJリーグのような発展を遂げ、「WE PROMISE」が「J's THMEME」と肩を並べる名曲になることを願って。

文:安本卓史(WEリーグ理事/INAC神戸社長)
※文中、敬称略

p.s.
私も何度かレコーディングの現場に携わらせて頂きましたが、本当に雰囲気が良く、サポートミュージシャンの皆さんの人柄も良く出ている素晴らしい曲に仕上がったなぁと思います。春畑さんの持つ優しさとギターの力強さが重なり合った名曲になったと感じています。