月別アーカイブ / 2014年04月

アメリカのAll about Jazz に ヒカシュー「万感」と「チャクラ開き」が紹介されました。

Multiple Reviews
The Wild, Eclectic World Of Koichi Makigami's Hikashu Band
巻上公一率いるヒカシューの自由で何でもありな世界
http://www.allaboutjazz.com/php/article.php?id=46947&&width=1280
By EYAL HAREUVENI, Published: April 18, 2014

ヒカシューは日本のボーカリスト巻上公一が70年代末より活動の主体としてきたバンドである。巻上は、その趣味においても、またボーカリストとしての表現にしても、じつに多彩な面をもっているが、そうした要素を存分に表しているのがヒカシューなのだ。

彼らの音楽には、エキセントリックな集団即興、大胆かつ巧みなヴォイス・パフォーマンス、プログレッシブ・ロック、さらには日本の伝統芸能や映画、歌謡曲といったものが見事に結びつけられている。

ヒカシューにとって21作目となるアルバム「万感」と、それに続いてリリースされた「チャクラ開き」は、とうてい思いもよらない展開の連続である。ただしそれが実に楽しい体験であることは約束しよう。

「万感」はあらかじめ用意された楽曲をニューヨークで録音した作品で、ヒカシューがバンドとして実に引き締まっており、メンバー全員が高いレベルでコラボレーションしていることがよく分かる内容になっている。とりわけ気を引いたのが、三田超人の印象的なギターと、佐藤正治の存在感あるドラムスだった。ヒカシューは常に、驚きと荒々しさに満ちた巻上のパフォーマンスをうまく盛り立てているのだ。

短めの楽曲はどれもユーモラスで、かつ演劇的でもある。風変わりなポップ・ソングで、どこまでも不可解さがつきまとう。

ドライブ感にあふれた「目と目のネット」では、エネルギッシュで厚みのあるホーンをバックに、巻上が男性的な声と奇妙で子供っぽい声を劇的なまでに目まぐるしく使い分けている。

巻上の演劇的な唱法は「なのかどうか」「もし もしが」「惨めなパペット」でも使われており、日本の伝統演劇にある苦悩や危うさに触発された要素が、思索に満ちた表現に昇華されている。「にわとりとんだ」では、巻上はニワトリを演じつつ、その生活の楽しさを伝えているが、バンドが奏でるのがサーフロックとあっては尚更である。「祈りのカラー」では、心おどるリズミカルなダンスが演出される。

ヒカシューの多才で幅広い表現力がとりわけ感じられるのが即興曲である。「ナボコフの蝶」はエキセントリックな即興演奏で、バンドがサンクト・ペテルブルクにあるナボコフ博物館を訪問したことに由来する。その博物館には、ナボコフが収集していた蝶のコレクションが展示してあるのだ。演奏は技巧の限りを尽くしたかのようなヴォイスと、バンドのするどく野心的なインタープレイの数々で構成されており、あたかも旅の思い出を綴ったかのようでもある。

ドラムスの佐藤正治が作曲した「ニョキニョキ生えてきた」では、リズムがめまぐるしく変化するテーマ部分に挟まれるかたちでフリーな即興が聴ける。そこではメンバーたちがじつに意欲的な演奏を展開しており、佐藤の力強くスピード感あふれるドラムスに続いて、巻上が何かにとりつかれたかのような表現を見せる。

巻上の多彩なヴォイスやその異才ぶりがよく表れているのが「人間にかえりたい」で、ここでの彼はいくつもの人格を駆使しており、この世のものとは思えないものすらある。それこそ正気を疑ってしまう局面もあったりするのだが、それでいて何らかの物語が語られているという感覚は常に保たれているのだ。

「みえない関係(充電してる)」では、巻上による尺八を鳴らしながらのヴォイスが中心となっており、オランダのプログレッシブ・ロック・バンド、フォーカスのボーカリストでフルート奏者のテイス・ヴァン・レールを連想させる。

アルバムは荒々しく高揚感のある「そのつもり」で締めくくりとなる。強力なギターリフに巻上のきわめて劇的なボーカルが加わるクラシック・ロック的な演奏で、まさしく熱情と大胆なユーモアのたえまない奔出といえる。

ミニアルバム「チャクラ開き」では、姉妹デュオのチャラン・ポ・ランタンが2曲で重要な役目を担っている。ボタン・アコーディオン奏者の千春と、歌手のももからなるこの二人組は、ヒカシューと同じように多彩な音楽性の持ち主であり、クレズマーやシャンソン、さらにはアメリカの古典映画を思わせる甘やかで快活な演奏を聴かせてくれる。彼女たちはヒカシューとライブではたびたび共演していたが、レコーディングは今回が初めてとなる。

巻上とももがそれぞれボーカルを取る「天国を覗きたい」は、伝統的なクリスマス・ソングをひとひねりした感じの曲である。主役はサンタクロースなのだが、楽しいはずの冒険が、なぜか不幸な結末を迎えてしまう。サンタは地上の目的地に着けなかったばかりか、気がつけば天国に送られてしまうのだ。

「モスラの歌」は古い怪獣映画の挿入歌で、作中に登場するきらびやかな妖精をチャラン・ポ・ランタンのふたりが演じる。

「ダメかな?!」は何とも不可解な即興で、ヒカシューが初期からライブで演奏してきた曲だが、レコーディングは今回が初めてである。ここでのヒカシューはサイケデリックな雰囲気をかもし出しているのだが、曲のタイトルが叫ばれるやいなや、演奏がぴたりと止まってしまう。

タイトル曲「チャクラ開き」も即興だが、ここではより長く、ゆったりとした演奏が展開される。巻上によるテルミンはじつに想像力をかきたてるもので、聞き手のチャクラを開いてやろうというフレーズが何度か繰り返されたのち、最後の最後になって、行く先の困難を暗示させる言葉がつぶやかれる。

最後の「黄ばんだバンダナ」は「万感」のセッションで録音された。日本語の言葉遊びを使った楽しい曲だが、演奏にはオーネット・コールマンのハーモロディクス理論を思わせるところがあり、あたかもコールマンのバンド、プライムタイムが躍動感のあるポップスを演奏したらこうなったという感じでもある。

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