月別アーカイブ / 2015年07月

「僕らの人間関係ってまさしくマス目みたいなんだよ。」
人と人は本当に繋がることができるのか。


2014年11月に単行本として発売された羽賀翔一のデビュー短編集『ケシゴムライフ』
本作に掲載された短編を毎週金曜日に更新していきます。連載第2回目からは、週刊モーニングでも短期連載された表題作の『ケシゴムライフ』がはじまります。
人と人との〝すき間〟をテーマに繰り広げられる高校生たちの爽やかな群像劇。読み終わった後、こころにさわやかな風が吹き抜ける。 今回は、第1話「コマのすき間」。単行本にはないカラーシーンと縦スクロールというカタチでお楽しみください。









 <作者コメント>
前回の「流星にて」にコメント欄で感想をくれた方、ありがとうございました!「流星にて」の最後のコマをアイコンにして下さっている方もいて…本当に嬉しいです。今日からオムニバス短編「ケシゴムライフ」の掲載がはじまりました。ぜひコメント欄に感想や「次はこんなの見たい!」というご意見をお寄せ下さい。お待ちしてます!

(羽賀翔一) 

S__14188548


今日、翻訳家の柴田元幸さんとジェイ・ルービンさんの講演をききました。
ルービンさんは、村上春樹作品の英語への翻訳を多く手がけられている方で、74才になった今年、はじめて自身の小説を出版されたそうです。(日本語の翻訳をしたのが柴田元幸さん)
柴田さんがルービンさんのこれまでの仕事を分析されて「あなたがずっと興味を持っているのは〝丸腰の個人〟がどう生きるかという問題ですね」と言っているのをきいて、「すごい言葉だなぁ」と僕は思いました。
〝丸腰〟というのは、武器を全く持っていないということです。
社会的なうしろ盾も、自慢できるような強みも、なにもない人。でも、もちろんそんな人にも尊厳があり、人としての魅力があり、闘うべき問題がある。文学はずっとそんな小さな個人の、井戸深くにある水のような感情をすくってきたんだとルービンさんは話していました。

権威的なものを身にまとって安全な場所にとどまっている大人には見えないものがある。丸腰にならなければ、気づかない感情があるんだと強く感じました。


羽賀翔一オフィシャルサイトならLINEブログでは未掲載の作品がご覧になれます!
こちらから→羽賀翔一オフィシャルサイト(自由帳)

jiyucho_024
「嘘つけ」といわれそうだけど、僕が一番はじめに抱いた夢は、宇宙飛行士になることだった。
小学2年のとき〝さん・あぴお〟というスーパーの本屋で買ってもらった『宇宙のふしぎ』という本に、僕は夢中になっていた。それは、本というよりはほぼマンガなのだけれど、とにかく絵がすばらしかった。全編二色刷りにもかかわらず、ひたすらカラフルで、惑星たちにつけられた〝顔〟は生き生きと描きわけられていた。「光は一秒間に地球を7周半します」(おぼろげな記憶)という文章に添えられた〝光〟の表情は、自分のスピードに対する誇りが憎らしいくらいにうかがえた。
でも、もしもこの本が、そんな楽しげな雰囲気だけ●●だったとしたら、僕は気に入りはしたかもしれないけど、何度も読み返すことはなかったかもしれない。僕を決定的にひきつけたのは、ブラックホールについての話につけられたイラストだった。
そこには、ブラックホールにすいこまれていく人々が描かれていた。ある者は電柱にしがみつき、ある者は何が起きたのか理解できない表情をうかべている。

地球最後の日。僕はそのページを開くたびに、ブラックホールが地球に近づくことがないように強く祈った。そのページは小2の自分にとって絶望的におそろしかったが、同時に強く好奇心を駆り立てられた。こうして今、地球が存在していることは、ほんとはとんでもなく好運なことなのかもしれない…そんな気持ちになってから、またあのハッピーでカラフルな惑星のキャラたちのイラストに戻っていくと、すごく救われる気がした。

そんなふうに、サウナと水風呂を行き来するように、交互に安堵(あんど)と恐怖を味わっているうちに、自分は宇宙の世界よりもむしろ、ここに描かれたイラストの世界が好きなんじゃないか…と思い始めるのだった。



羽賀翔一オフィシャルサイトならLINEブログでは未掲載の作品がご覧になれます!
こちらから→羽賀翔一オフィシャルサイト(自由帳)

↑このページのトップへ