「アタマの大盛り、とろだくでひとつ」
2時すぎまで仕事をし、倒れ込むようにベッドで眠りについた。太陽が昇るまでと、閉じた目が再び開いたのは夜明け前の4時30分すぎ。まだ起きるには早いなと思ったが、脳裏に昨夜見た1つのニュースがよぎる。
--吉野家築地一号店、閉店。
東京築地に居を構え、長らく愛好家たちから「聖地」として親しまれてきたその店。明後日10月6日に、市場の移転に伴い店じまいとなる。
ほんのりと重く感じていたまぶたを、水道でサッとすすぐ。これもなにかの縁だと、財布を握りしめ築地に向かった。今の住まいから築地までは自転車で10分ちょい。シェアリングサイクルのペダルに足をかけ、まだ薄暗い道を走り出した。
特に思い入れがあるわけではない。道すがら色々と思い出をたどってみたが、東京に来たばかりの頃、貧乏だった私が歌舞伎町で初めて食べたのが並盛りだったぐらいだ。
大きなカーブに差し掛かる。この曲道を抜ければ築地だ。気づけばベダルを漕ぐスピードも速くなっていた。
いくつもの大きなトラックたちをすり抜け、橙の看板の前に立つ。
これといった風情はない。木枠のガラス戸が、ほんの少し歴史を感じさせるくらい。店はまださほど混んではいなかった。
注文を告げ、ガラスコップの水で口の中を清める。通なら「着丼待ち」とでも言うのだろうか。私は、この「着丼」という言葉があまり好きではない。「食べ物が到着する」という表現が粋だと感じないからだ。
心待ちする私の元へやって来る。敢えて名付けるなら「来丼」だろうか。その丼に、私自身もRide Onと洒落込みたいのだ。
江戸っ子はせっかちだ。市場で牛丼が流行ったのも、そのスピードから。「うまい、やすい、はやい」は、吉野家が広めた言葉。三拍子といえば、ワルツのようなゆったりとしたものをイメージするが、こちらの三拍子は少々足早だ。
「アタマの大盛り、とろだくです」
気づけば、目の前に湯気が立つ牛丼が居た。店に来る前から、今日はこれだと決めていた。
こちらの店では、会計を丼の色や大きさで判断している。アタマの大盛りの丼は緑が配色されたもの。今ではこの店でしか見ることができず、それも2日後にはお役御免となる。
いつもは玉を頼むが、今日は粋に、牛丼の生(き)の味を楽しむことにした。魚河岸の若大将が隣にいれば、「兄ちゃん、生粋だね」とでも言ってくれるかもしれない。
牛肉、玉ねぎ、味のしみたご飯。
すべてを箸でつかみ、一気に頬張る。
間違いない、これが吉野家だ。
2時すぎまで仕事をし、倒れ込むようにベッドで眠りについた。太陽が昇るまでと、閉じた目が再び開いたのは夜明け前の4時30分すぎ。まだ起きるには早いなと思ったが、脳裏に昨夜見た1つのニュースがよぎる。
--吉野家築地一号店、閉店。
東京築地に居を構え、長らく愛好家たちから「聖地」として親しまれてきたその店。明後日10月6日に、市場の移転に伴い店じまいとなる。
ほんのりと重く感じていたまぶたを、水道でサッとすすぐ。これもなにかの縁だと、財布を握りしめ築地に向かった。今の住まいから築地までは自転車で10分ちょい。シェアリングサイクルのペダルに足をかけ、まだ薄暗い道を走り出した。
特に思い入れがあるわけではない。道すがら色々と思い出をたどってみたが、東京に来たばかりの頃、貧乏だった私が歌舞伎町で初めて食べたのが並盛りだったぐらいだ。
大きなカーブに差し掛かる。この曲道を抜ければ築地だ。気づけばベダルを漕ぐスピードも速くなっていた。
いくつもの大きなトラックたちをすり抜け、橙の看板の前に立つ。
これといった風情はない。木枠のガラス戸が、ほんの少し歴史を感じさせるくらい。店はまださほど混んではいなかった。
注文を告げ、ガラスコップの水で口の中を清める。通なら「着丼待ち」とでも言うのだろうか。私は、この「着丼」という言葉があまり好きではない。「食べ物が到着する」という表現が粋だと感じないからだ。
心待ちする私の元へやって来る。敢えて名付けるなら「来丼」だろうか。その丼に、私自身もRide Onと洒落込みたいのだ。
江戸っ子はせっかちだ。市場で牛丼が流行ったのも、そのスピードから。「うまい、やすい、はやい」は、吉野家が広めた言葉。三拍子といえば、ワルツのようなゆったりとしたものをイメージするが、こちらの三拍子は少々足早だ。
「アタマの大盛り、とろだくです」
気づけば、目の前に湯気が立つ牛丼が居た。店に来る前から、今日はこれだと決めていた。
こちらの店では、会計を丼の色や大きさで判断している。アタマの大盛りの丼は緑が配色されたもの。今ではこの店でしか見ることができず、それも2日後にはお役御免となる。
いつもは玉を頼むが、今日は粋に、牛丼の生(き)の味を楽しむことにした。魚河岸の若大将が隣にいれば、「兄ちゃん、生粋だね」とでも言ってくれるかもしれない。
牛肉、玉ねぎ、味のしみたご飯。
すべてを箸でつかみ、一気に頬張る。
間違いない、これが吉野家だ。
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