Cとの約束の日。
彼が指定したのはテレビ局の9階だった。
恐らく5年前のことを罵られるだろうけど、こんな形でもCと会えることが嬉しかった。
誰も来ない静かな廊下でCを待っていると彼からメールが来た。
廊下の先にあるテラスに出るように言われる。テラスに出ると視線の先にCがいた。
彼はベンチに座ってタバコを吸っている。
私はCから少し距離をとってベンチに座る。
どちらからも口を開かない静かな時間が流れた。私は下を行き交う車の音を聞くともなく聞いていた。
「はい」
ふいにCがウーロン茶を渡してくる。
Cが新しいタバコに火をつけて煙を大きく吐き出した。
「来るって思わんかった(笑)」
5年前のことで私は来ないと思っていたんだろう。
Cが自分の口から出ていく煙を目で追いかける。平静を装っていても彼も動揺しているのかもしれない。
「あれからどうしてたの?」
「芸能記者は辞めました」
Cが驚いた目をする。
あの時、Cの事務所にも私の素性が入っていて、「うちのタレントに手を出した。しかも芸能記者のくせに」という理由で編集部は事務所の会見などに出禁となってしまった。
「責任をとれ」なんて誰からも言われなかったけど、「お前が辞めたぐらいじゃ補填できねえんだよ」と思われていることもよくわかっていた。
だから私は芸能記者をすぐに辞めた。
「元気そうですね。時々、テレビで観てました」
「うん、、、」
ぎこちなさ過ぎる会話。
5年の空白というより、私達の別れ方がそうさせているんだと感じた。
タバコを消してCが立ち上がる。
「もう会うことはないから。
ケジメとして会っただけ。じゃあね」
去り際、Cからそう言われた。
想像していたけれど、想像以上にその言葉は私の心をえぐった。
Cがくれたウーロン茶を喉に流し込む。
ゴクゴク飲んだ。
飲んでるうちに涙が流れた。
どうしようもなく切なかった。
何万回後悔してもしきれない5年前のことを思った。
時々でいいからまた会いたかった。だけど、それはもはや無理なこと。
どうしようもなく切なくて、しばらくそこを離れることができなかった。