2019年3月7日
小春日和の穏やかな日に「INTI福岡」はオープンした。

福岡の物件探しは不動産屋さんに恵まれた。

美容院出店において最初の運が試されるのは良い不動産屋さんに巡り合うかどうかだろう。


どの地域にも必ずそのエリアに強い不動産屋さんがいる。
1つの物件を多くの不動産屋さんで共有している場合、良い物件に巡り会える確率は低い印象だ。
たとえ良い物件があったとしても、多くの不動産屋さんで共有している場合、多くの不動産屋さんがお客様に紹介するわけなので当たり前だが競争倍率は上がる。

地域に強い不動産屋さんは自社管理の物件をいくつか持っている。
なので良い不動産屋さんに出会えれば良い物件に出会う確率が格段に上がる。

福岡の出店は運良く、良い不動産屋さんに巡り会えた。(天神などで美容院をやりたい人はash不動産がオススメ。地域に強く、自社管理物件が圧倒的に多い。)


そんな福岡オープンと同時に、スタッフも知らない新たなプロジェクトが猛スピードで進んでいた。




福岡オープン10日前の2月26日火曜日。

私は6日後に新店舗オープンに伴うい約1ヶ月に及ぶ福岡での長期出張を控えていた。
東京最後の休日となるその日は、福岡出張の準備や買出し、しばらく空ける部屋の片付けなどをする予定だった。
ほんの2日前までは。


ここ数ヶ月、毎日のように物件情報をチェックしていた。
いつものように新着物件に目を通している時だった。


「本日公開」と表示がある、新宿3丁目の物件に目がとまった。


立地、駅近、坪単価、広さ、ワンフロアワンテナント、空中階、普通借家etc.

その物件の全条件がまさに理想的で、毎日チェックしていた私は、一瞬自分の目を疑うほどだった。
同時に、この物件の借り手がすぐに決まることは容易に想像できた。

すぐに取り扱う不動産屋に電話をし、東京最後の休みとなるその日に内見の予約を入れた。



私の前にはすでに3組の内見が入っていたが、運良くまだ申込みに至っている会社はなかった。

どの会社も会社規模が大きいため担当が内見し、上司に伝え、上司が社長の判断を待っている状況とのことだった。
(物件の契約はまず申し込みをし、そして本契約へと進む。申し込みをすることでこの物件の本契約に名乗りを上げ、物件を抑えるといった感じ。)


そんなことにも運命を感じながら、私は3分ほど内見をし申込みを決意した。



しかし一方的にどんなに気に入り、勝手に申込みを決意したところで、美容院として営業できる(機能する)設備が整っているかは素人では判断できず、ビルの配管の太さやガス、電気容量などの問題は内装業者じゃないとわからない。

かといって内装業者に調査してもらい、設備オッケーなら申し込みます!
と言いたいところなのだが、調査の日程を調整している間にこの物件は間違いなく申込みが入る。

現にこの物件は今日だけで5〜6件の内見希望がすでに入ってくる人気物件である。

なるべく早く、かつスムーズに契約者を決めたい不動産屋は、あいまいな状態での申し込み(仮押さえ)はやめてくれよと釘を刺してきた。


わかっている安心しろ、とよく分からない自信をのぞかせながら、深く刺さっているその釘を抜き捨て、とりあえず不動産屋さんの事務所に向かった。

道中、内装業者に電話し、この状況を少し大袈裟に伝え、無理くり翌日に内見に来てもらうことになった。
私は本気で本契約しようとしている意思を伝え、明日の内装業者の調査が終わるまで物件を抑えさせてもらえるよう頼んだ。


私の本気さや必至さが伝わったのか渋々承諾しかけたが、申込みには法人印などの必要書類が必要だと言われた。

侮るなかれ、私も過去に4回申込みをやってきている。
こんなこともあろうかと印鑑や登記簿謄本など、申込みに必要な書類は全て持ってきている。

用意周到さに少し驚きながら不動産屋は新たな問題を私に伝えた。


それは、このビルの他階にすでに美容院が入居していることだった。
同ビル内で競合になることを嫌うオーナーや入居者がどう判断するかという点だった。

オーナーが美容院はダメ。といえばこの話は終わる。

とりあえず私は、INTIは薄毛に悩む男性専用の美容院だ、一般の美容院は競合ではないと伝えた。
ただオーナーの判断には素直に従う。ダメならキッパリ諦める。
だから今日申し込みを済ませ、物件を抑えさせて欲しいと再度頼んだ。


こんな時に役に立つのは20年の接客業で培ったトーク術だ。

私は基本的におしゃべりは苦手ではなく、打ち解けるのが得意な方だ。
たまたま借りた不動産屋のボールペンの書き味が抜群に良く、そこから話を無理くり広げ、独立の経緯や、業界の景気など様々な話を聞いた。
話の終盤にはブッチャーとあだ名で呼び、ボールペンを頂くほどの関係を築くことができた。

そして私は申込書にサインし、無事物件を抑えることに成功した。


とりあえずは一安心だったが、オーナーが「美容院オッケー」というかどうか。
こればっかりは仲良くなるのが得意な私でも、オーナーと直接話せないのでブッチャー頼みだ。

そして美容院として営業できる設備を備えているか。
他階に美容院が入っているので大丈夫だとは思うが、前テナントがガスの容量を下げてしまっていたらしく、他の階のテナントがその余剰分のガスを契約し、使ってしまっていたらウチで使うガスが足りないってことになるみたいだ。(よくわからないけど)

実は問題はその2つだけではない。


出店資金だ。
融資はこないだ受けたばっかりもばっかりだ。
まだ福岡分の返済が始まってもいないどころか、保証協会の兼ね合いもあり全額融資されていない状態での追加融資の申し込みとなる。

しかもこれまでのどの店舗よりも広く、かつ事務所使用からの造作になるため、出店費用もこれまでの比ではない。

私はその足で融資担当者「ヒデシマ」の元を訪れた。

「ヒデシマ」との関係は2店舗目の大阪出店後から担当についた若手だ。若手といっても30歳くらいだろう。
背は高くスラっとしており、一見クールに見えるのだが、実は感情を前面に出すのが苦手なだけで情熱的な男だ。

そのヒデシマには東京店や福岡店の融資のような有事の時だけではなく、日々の会社での出来事やメディアへの露出、今後のビジョンなどを全て逐一報告していた。

相談に行ったこの日もヒデシマはクール風に私を出迎えた。

「やあ。」
「前々から話していた都内3店舗目の計画なんだけど。良い物件に巡り合えてさ。」

「場所はどこですか?」

「新宿なんだ。立地も良くてね。」

「良いですね。」

「今回の店舗はこれまでで1番大きいこともあり、まとまった資金が必要になりそうなんだ。」
「力を貸してくれるかい?」

「もちろんです。頑張ります。」


これまでの細かすぎるとも言える、報告や実績で培った信頼が功を奏したのか、ヒデシマはやけに乗り気だった。

とはいえ、ヒデシマに融資実行の決定権はない。
これから上席に話し、上席から支店長に話が行き、支店長から本部に話がいって審査が降る。

ヒデシマは

「全力でプッシュします」

と強い口調で言った。




さて「オーナー」「設備」「出店資金」これら3つの問題。


どうなるやら。



【あとがき】
借家契約には2種類ある。
「定期借家契約」と「普通借家契約」である。
今、都内は定期借家契約の物件が非常に多く店舗を探すのは一苦労だ。
定期借家契約の場合、原則として更新はできず決められた年数で出なければならない。
間違いなく造作などにかかる初期費用は回収できない。


にしても福岡は飯がうまい。
今は天神のマンスリーマンションに住み、INTI福岡に勤務しているわけだが、鳥好きの私にとっては見渡す限り焼鳥屋だらけ。
まるで天国のような街なのである。
初めて繁華街に住んで気づいたのだが、朝の目覚めが住宅地のそれとは違う。
スズメのちゅんちゅんといった爽やかな鳴き声で目覚めるのではなく、カラスのカーカーという甲高い鳴き声で目覚める。
決して心地よいものではない。

それはさておき、このスピードはもう何が何だかといった感じだ。
福岡オープンの余韻に浸る暇もなく、またオープン前に戻ったような感じだ。

不安が私を成長させる。

10代の頃から使っているメールアドレス「fullaccel555」が25年経った私の背中をそっと押す。

頑張ろっと。

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INTI福岡の店内。
INTI東京と似た造りになっている。